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自身の死亡後に不安がある人へ。おひとりさまなどへ「死後事務委任契約」のススメ。

死後事務委任契約ってなんだ?

委任者(本人)が第三者(個人、法人を含む。)に対して、亡くなった後の諸手続、葬儀、納骨、埋葬に関する事務等に関する代理権を付与して、死後事務を委任する契約をいいます。

端的にいうと、「死亡後の身辺整理」です。

では、死後事務委任契約でできることは?

委任事項は、当事者で話し合って、委任契約書の中で定めることになります。
ただ、契約書で委任事項を定めても、概括的な定めになり、この死後事務は契約事項に含まれるのかという疑義が生ずることもあり得ます。
そのような問題を解消するため「ライフプラン」も合わせて作成しておけば、そこから委任者の意思解釈をして、当該死後事務が委任事項に含まれるのかどうか判断することもできます。
なお、死後事務委任契約書は、公証役場で公正証書で作成することが一般的です。

主なものとして次のような事務を委任できます。

1 葬儀、埋葬、供養に関する事項
2 生前に発生した債務の弁済(医療費の支払い、家賃等の支払い、施設使      
 用料の支払いなど)
3 賃貸物件の明渡しに関する事務
4 行政官庁等への各種諸届出に関する事務
5 公共サービス等の名義変更・解約・清算手続に関する事務
6 家財道具、身の回りの生活用品等の処分等
7 デジタル遺品の整理・消去等
8 飼っていたペットの施設入所等手続
9 相続財産管理人の選任申立手続

死後事務を委任する必要のある人とは?

自身が亡くなった後、死後事務を第三者に委任する必要がある人は様々考えられます。

典型的には相続人のいない「おひとり様」に最も需要があると考えます。

その他、例えば、「兄弟や兄弟の子どもはいるけど、自身に家族はいなく、今後も一人で生活する人ようなおひとり様」。
「夫婦二人で生活しているが、自身が亡くなった後、残した夫や妻が高齢で各種手続ができないと思われる人」。
「相続人はいるが、自分のプライバシーに関するデジタル遺産(携帯電話内やパソコン内のデータ)など見られたくない人」など
様々考えられます。

特に3つ目は、今後需要が増えるように思います。
個人のプライバシーへの配慮の必要性が高まっているので、家族にも見られたくないデータを見られることなく整理・消去して欲しい人は多いように思います。
この場合、家族(相続人)による死後事務委任契約解除の問題があります。この問題は後記に記載しています。

死後事務を受任する人はどんな人?

死後事務委任契約を依頼する相手は、自然人でも法人でもよく、特別な資格は法律上ありません。
自身の信頼できる人を選べば良いのですが、年齢が近い人を選べば、その人が先に亡くなってしまうというリスクがあるのであまりおススメできません。
また、信頼できる人であっても、死後事務処理に慣れていない人を選ぶと過度な事務負担となる可能性もあるし、実際の事務遂行でやらなければならないことが抜け落ちてしまい、そのままになるというリスクもあるのであまりおススメはできません。
そうなると、信頼できることが前提として、自身よりも相当若く、かつ、死後事務処理にある程度慣れている人を選ぶべきということになります。
その他、専門家はどうかという点で考えると、その場合でも同じことが言えます。
仮に専門家に依頼するとしても、個人に頼むのではなく、法人に依頼した方が良いと考えます。
なぜなら、法人だと永続することが前提となっており、年月経過により事務所の構成員が変わったとしても仕事は受け継がれていくので、上記のような心配はほとんど解消できると考えます。
また、弁護士や司法書士などの専門家の場合、当然に依頼者との守秘義務を遵守しなければならないので、自身の秘密を守ることもできます。

結論としては、「法人で、かつ、死後事務処理に慣れている事務所」に死後事務を委任することをおススメします。

死後事務委任の問題点考察

死後事務委任契約が遺言の方式を潜脱することになるか

遺言事項は、遺言者の全部または一部の財産処分に関する事項のみです。
遺言は要式が民法に定まっており(要式行為)、自筆証書・公正証書などの方式により作成しなければなりません(民法967条から同法984条)。
そうすると、遺言の対象である財産処分に関する事項を、民法所定の要式を満たしていない死後事務委任契約で規定した場合、遺言事項の内容と死後事務委任契約の規定とが矛盾抵触したとき、どちらが優先するのかという問題が生じます。
仮に死後事務委任契約が後から作成されているので、そちらが優先だとの判断だった場合、上記遺言の方式に関するルールが潜脱されてしまうおそれがあるということです。
この場合、死後事務委任契約を公正証書で作成する際に、公正証書遺言も同時に作成すると両者が矛盾抵触することを防止できます。
つまり、死後事務委任契約に相続人に引き継ぎされるべき財産の処分を含めないようにすることができるということです。
その他、死後事務委任契約の中にライフプランも別紙で作成し、死亡後にどのように事務処理して欲しいか要望を記載することにより、死後事務委任契約の中に相続人に引き継ぎされるべき財産の処分が含まれていないことを明らかにすることもできます。

家族(相続人)が委任者の解除権を行使できるか

委任契約の委任者は、いつでも自由に契約を解除できるのが原則です(民法651条1項)。
この解除権が委任者の相続人に相続されるかどうかについては、実務上見解が確立していません。
もし、相続人がこれを争い、解除権の相続が肯定され,かつ、解除権の行使が制限されなかった場合、相続人が解除権を行使して、死後事務委任契約を終了させてしまうこともあり得ます。
そこで、そのような事態が生じないように、死後事務委任契約の解除権行使をしないよう、遺言書に明示しておくことや可能であれば相続人となるべき人と死後事務を委任したことの情報を共有しておき、解除権の行使を思いとどまるようにしておくべきです。

委任者死亡により死後事務委任契約が終了するか

委任契約は、委任者の死亡によって終了すると規定されています(民法653条1号)。
上記の規定は判例で任意規定と解されています。
したがって、当事者の契約によって、この規定を排除することができます。しかしながら、死後事務委任契約で何ら定めていない場合、委任者の死亡によって死後事務委任契約が終了したとみなされてしまうおそれがあり得ます。
そのようにならないように契約書の定めに注意することが必要です(委任の趣旨が死後事務なので、当事者の契約継続の意思解釈として、「委任者が死亡したら契約を終了するとの予定はなかった」と解釈される可能性の方が高い。この問題は、相続人らが委任契約の解除を争う可能性があるので注意が必要だという趣旨です。)。
上記の事態を回避するには、死後事務委任契約の中で、「委任者が死亡しても、契約は終了しない」旨の定めを明示的に規定しておくべきです。

報酬・費用

専門家に支払う報酬は、遺した財産額や事務の量や難易度によっても変わりますが、一般的には20万円から40万円が多いようです(消費税別)。
その他、実費も要しますが、葬儀費などは通常要するので専門家に依頼しても特別多くなることはありません。
葬式や埋葬などは、ライフプランでどのような方法規模でやって欲しいかも記載できるので自身の望まない葬儀を回避することもできます。
報酬・費用は、遺した預金等から支払われることになります。

まとめ

死後事務だけを専門家に委任することもできるので、おひとり様などで自身が亡くなった後に不安がある人は相談してみると良いです。
私(R4.12.25現在52歳)の依頼者で、私と年齢が変わらない人でもすでに死後事務を委任している人もいます。
必要に迫られて専門家を探そうとしてもなかなか良い人に巡り合えないかもしれないので、不安のある人は早めに動いた方が良いとは思います。
その際、上記を参考にしてみてください。

インテンス法律事務所  HP https://intense.law/

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