【童話】おれはライオン

 おれの名前は、タロウだ。
 遠い国で生まれて、この村にやってきた。仕事は、村のみんなといっしょにしてるぞ。これから、野菜を運ぶんだ。ぐるぐる腕を回して、力こぶを作って、おいしい野菜を運ぶのさ。
「お~い、タロウ。聞こえるか」
 おや、村のじいさんの大きな声が聞こえるぞ。
「つかれたろ。ちょっと休んでいいぞ」
 じいさんは、向こうの川の水がうまいことを知っている。そこはキツネの末吉と、よくあそんだところなんだ。
 あいつとは、川近くの草むらでこんなことを話した。
 今日みたいに、よく晴れた日だったなあ。 

「末吉。いいな、おまえ」
「なにがさ」
「だって変わった名前だからさ。タロウって名前、そろそろあきてきたんだよ」
 末吉は、くっくっくっと笑いながら、
「ぼくにまかせて。いい考えがあるんだ」
 すると、いちもくさんに、草むらのうらへかけていった。
 しばらくして、どうなったと思う? 
 なんと、おれそっくりに変身したんだ。太い腕も、たてがみも。まるで自分が二人いるみたいだった。
「ぼくが村のえらい人におねがいしてやるから。名前、変えてくださいって。その前に、じいさんの仕事を手伝ってみるよ」
 末吉は、目をきらきら光らせていた。 

 「タロウ、いつもわるいなあ」
 じいさんは、もちろん末吉に気づいてない。
「おなか空いただろ」
 末吉は、首を横にふった。
「肉がいいのか。よし、キツネを取ってきてやる。このあたりで、いつも野菜を食っていくんだよ。こらしめてやろう」
「やめてくれー」
 おれは草むらから顔を出した。
 じいさん、目を丸くしていた。
「やめてくれー。ころさないでくれ」
「やい、お前」
 じいさんが顔をまっ赤にして、
「どっちがキツネかわからねえけど、人間をだまそうとしてたんだな。ふざけるな。やい、タロウはどっちだ」
 おれは、ゆっくり手をあげた。
「お前がタロウか。本当か」
「そうだ。そっちが本物。いつも畑をあらしてるのはこっちだ」
 末吉は、にやにやしている。
「よし。このジャガイモを向こうの村まで運んでくれないか。そうすれば、ゆるしてやるから」
 じいさんは、ジャガイモが入った袋を末吉に持たせた。 
 村からはなれるとき、おれに手をふった姿をおぼえている。
 あいつを見たのは、それが最後。草むらをのぞいたけど、どこにもいない。その夜、ど~んと大きなテッポウの音を聞いたけれど。

 川をのぞくと、末吉の顔がゆらゆら浮かんでいた。笑っているみたいだ。あいつがこの川を教えてくれたっけ。
 お日さまが背中でぐんと上がって、とてもあつい。汗がぽたぽた落ちてくる。
「お~い、タロウ。そろそろいいかい?」
 じいさんの声が聞こえた。
 さあ、仕事だ。
 ぐるぐる腕を回して、力こぶを作って、おいしいジャガイモを運ぼう。
 そうだ。おれはライオン。遠い国で生まれて、この村にやってきた。
 じまんのたてがみが、風にゆれているぞ。 

おわり