キーウからの狙撃手
小説推理新人賞に送ろうと思ったのは、昨年の10月過ぎだったと思う。
元々あった30枚の短編に、ページを足していくことから始めた。
前半はロシア人女性二人が宝石強盗を一掃する話。後半は、キーウからやってきた女性が日本で狙撃銃を持つまでの話(要するに、バイオレンス・アクション)。
物語のヒントは、ある日飛び込んできた一枚の写真からだった。
ウクライナの射撃場で連日、若い女の子が狙撃の訓練を受けている記事を読む。
そこには、ゲームでもアニメでもなく、現実に銃を構える子が写っていた。一方、モスクワでは侵攻に反対するデモが始まり、多くの若者が連行されていく。
そのようなニュースを見て、ロシア人の美女が母国に耐え兼ねて出国、だが日本で犯罪に巻き込まれてしまう……そのような設定で書き進めた。
応募するにはページを足さなくてはいけない。後半からはウクライナから逃れた女性を取り入れた。
名前はタチアナ。彼女はロシアン・マフィアから逃げてきたのだった。
タチアナを支援する男がいる。カラジッチなる元マフィアの人物はその昔、日本のヤクザと手を組んでいた。今は引退しているが、裏では十分に名前が利く。タチアナに狙撃銃を渡した本人である。
男の手には折り鶴がある。タチアナが教えたのだ。
何でも運ぶ日本人ドライバーのAは、カラジッチからの依頼で車を富山港まで運ぶ。トランクの中はロシア人ギャングの死体が入っている。
Aはタチアナに電話。報酬の半分を受け取るか、もし受け取らないなら自分がジョージアへ飛ぶと提案。
「ターニャの選択」という題は、そんな決断を下す主人公タチアナから取っている。
「千羽鶴なんて意味がない」と鼻息荒いネット民、ぜひ元セルビア・マフィアのドン、カラジッチにも同じように批判してくれ。
その代わり、明日の保証はないぞ。
小説推理に送るのは初めてであり、歴代受賞作を読んで対策を練ったわけではなかった。
ウクライナ侵攻というこれ以上ない題材で勝負した理由は、他に誰も新人賞で扱っていないからだった。今回の受賞作はファンタジーらしいけど、果たして他の原稿を押し退けるほどのパワーがあるのだろうか。
この短編と先に載せた「美味美醜」と合わせて、ミステリー小説部門に送ろうか迷っていた。「鋼の夜」の方がまとまりがあると考え、こっちに決めた。
ちなみに、私はアクションピザッツも結構好きである。
銃を持つ美人に興味がある方、ぜひ試し読みを。400字詰原稿59枚。一枚10円で販売中。