今日も運転しなかった 第2回
月刊「ロードショー」を購読していたころ、紙面に載った日本映画を素通りしている。テレビ放映しているその日の夜も、「今日はマルサか」と部屋に向かって宿題をしていた。10代の私は洋画に夢中であり、この国が作った映画には関心がなかった。
専門学校入学当時、好きな映画監督に岩井俊二を上げる生徒が何人かいた。大倉山に引っ越したばかりの私は、ツタヤで初めて岩井作品を見た。卒業して7年。近くの公園には梅が咲き乱れ、祭りの賑わいに吸い込まれるような足音が続いていた。
キネマ横丁と称したコーナーには小津映画が並んでいた。「東京物語」を手に取った。解説には笠智衆の声が入っていた。それからまた、返却の日に新しいタイトルを2本程度選ぶ日々が続く。100円と10円硬貨だけが少しずつ減る。ギリシャの街を意識した商店街を歩いてマンションへと戻る。オートロックを開ける。その玄関をくぐり抜けて廊下へ。3階のその部屋は外を歩く人々と同じ高さにある。人の目線を避けようと、日中を通してほとんどの住人はカーテンを閉めている。3月の日差しも差し込んでは来ない。計ったように、ノートPCにDVDを入れる。イヤホンを用意する。私には名前が、あるはずだった。
(つづく)