「蛇含草」そして創薬

 上方落語に「蛇含草」というシュールでいわゆる見せるはなしがある。この江戸版が同工異曲の「そば清」
 山中で蟒蛇うわばみが人をむ。鶏や兎と違い、人ともなると苦しくて七転八倒する。やがて谷底の赤い草をなめるとペソッと腹がへこむ。蟒蛇の消化剤だ。それを見ていた旅の者、草を持ち帰り、大食いの賭に挑戦する。もうこれ以上は食えないというところで廊下に隠れて蛇含草をなめると、それは「人間」を溶かす妙薬であった。サゲは不審に思った賭の相手がそっとふすまを開けると、巨大な餅(蕎麦)だけが甚兵衛(浴衣)を着て鎮座していた。
 ヘビと言えば昔「東京コミックショウ」がいた。アラブ系の派手な衣装で「ヘェ~イ!レッドスネェ~ク!カモン!」と言いつつ、ショパン猪狩が笛を吹き、壺の下から妻千重子扮するヘビの縫いぐるみをニョロニョロと登場させ、ときおり芸のご褒美に腋毛わきげをむしって与える「三蛇調教」で一世を風靡ふうびした。
 毒舌でなる談志師匠が「世の中の芸で、これほどバカバカしくて面白くて、一度見た人に永遠に残る芸も珍しい」と言わしめた。
 わたしは往時のコンビネーション芸をYou Tubeで追懐しながら考察した。
「夫唱婦随のあの奥義は那辺にありや」。
 鈴木隆氏『匂いのエロティシズム』によると、爬虫類は鋤鼻じょび器官(VNO)という副嗅覚系がよく発達し、ヘビの舌が二叉に分かれ頻繁に出し入れするのは、舌で捕捉した空気中のフェロモンを左右のVNOに運ぶためという。「あれはショパンの腋毛のフェロモンをヘビ(妻)が感知し、電位変動を起こした結果でなないか?」
 現在わたしは清貧に甘んじる身であるがこの両ネタに魅せられ、「腋毛をサプリメントにしたハブ酒の創薬ビジネス」を構想中である。
「ヘェ~イ!イグノーベル賞!カモォ~ン!」

                   琉球新報 南風 2016年3月31日

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