【僕たちは母を介護する】-52「その日」
“その日”の朝。
市役所から電話があった。
10時半に病院へ行く準備をしていた時だった。
「昨日、お母さまに面会してきました」
「そうですか。ありがとうございます」
「それで、病状が発症する前の健康状態と、病状発症時の状況についてお伺いしてよろしいですか」
「はい」
私は症状発症前まで、元気に働いていたこと。
病気にかかっておらず健康だったこと。
夜中に突然腹痛を訴え、病院へ搬送したこと。
私は同居していないので、すべて弟から聞いていた内容だが、それらを答えた。
「わかりました、ありがとうございます。介護認定には1ヶ月程度かかります。決定してから認定証がくるまでに時間がかかるため、仮の認定証を先に送付することができますが、どちらに送付いたしましょうか」
対外的な事や書類に関することは私がすることにしていたので
「では私の自宅にお願いします」
と答えた。
病院へ着いた。
受付で相談員の名前を伝え、ロビーで待った。
しばらくして相談員がきた。
「こんにちは、こちらへどうぞ」
そして、前回と同じ相談室へ入った。
「お母さんが今朝2時ごろ、吐き気を催し、かなり吐いたようなんです」
「え、そうなんですか」
「はい、朝のうちに検査診察をおこないましたが、原因は不明のようです。今は点滴をしていて症状は安定しています」
現在は経過観察中であることを伝えられた。
そしてストーマの交換見学はできるとのことで、病室へ向かった。
この原因不明の不調になった今日が、今までのリハビリがダメとなり、その後もしばらく歩くことができない状態が続く“その日”となったが、その時の私は深く考えなかった。
病室に入ると、御袋は横になっていた。
点滴をしている。
顔色も少し悪く、数か月前に戻った感じがしたが、意思ははっきりしていた。
「吐いたんだって、大丈夫か」
そう尋ねると
「今は大丈夫。なんだったんだろう」
「それはよかった、なんともなければいいよ」
そう言っていると、看護師が入ってきた。
「お母さん少し体調を崩されましたが、今は落ち着いておられますよ」
「そうですか、ありがとうございます」
そう話しながら、看護師は御袋のお腹にかけてあった布を外した。
布を外すと、人工肛門が見えている状態だった。
ストーマは外されていた。
「先ほど入浴があったので外しました。今からつけるところをみてもらいますね」
そう言うと新しいストーマと、ストーマに貼ってあるシートを出した。
付け方は以下の通り。
新しいストーマのお腹に接着するシートの部分は硬いゴムというか柔らかいプラスチックの円状の板になっている。その中心に開いている穴を、人工肛門が入るようにハサミで切って調整する。
その調整は前回使ったストーマからはがしたフィルムのようなものを使う
前回使ったフィルムの真ん中の穴は少し大きくなっている
新しいストーマの腹部に接着するシートに、前回のフィルムを当て、その穴のサイズをマジックでなぞる
新しいストーマのシートに描かれた円に沿ってハサミで切り抜く
切った円はすこしギザギザしているので、指でこすって滑らかにする
新しいシートに貼ってあるフィルムをはがす
フィルムをはがしたシートは粘着性になっている。それを人工肛門が開けた穴に入るようにして腹部につける
腹部につける時は、皮膚がシワにならないようすこし伸ばしながらつける
綺麗に腹部に着いたら、患者(母)に、しばらく手のひらで軽く押さえてもらう
今回はがしたフィルム次回使うので、使用した日付を記入して保管しておく
ストーマ内の汚物を出すところを閉じる
以上の内容だった。
今回はとてもわかりやすかった。
これなら大丈夫そうだ。
動画を撮影していた相談員も、
「大丈夫そうですか」
と心配してくれた。
「わかりやすかったです」
と答えると、看護師も
「何回かするとすぐ慣れますよ」
と言ってくれた。
そのあと、御袋に自宅への帰宅を確認したが、やはり
「帰る」
とのことだった。
それで、病室を出たあと相談員に、御袋は独居生活と同じレベルで考えていきたいと伝え、介護サービスで可能なことや、家族ができることなどを教えてほしいと伝えた。
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