【僕たちは母を介護する】-9「手術開始」
待合室ロビーにいた私たちは、しばらくして家族が控える部屋へと案内された。
とても大きな部屋だった。
長椅子が10脚以上あり、一つの長椅子に低いテーブルが備え付けてある。
誰もいない。
私は、一番手前の長椅子に座り、弟は隣に座った。
しばらく無言であったが、
「なぜこんなことに・・・」
と、少し悲しげに弟が呟いた。
「大丈夫かどうかわからないが、御袋は頑張っている。信じよう」
私は励ますべきなのかどうか少し悩んでからそう言った。
私たち兄弟はあまり交流がない。
三兄弟で三者三様なのは、当たり前だとわかっている。
それぞれが自分の人生を歩んできたいい大人だし、そこで築いてきた生活、生き方が違うので、仲良しこよしでないことも仕方ない。
それでも、私は冗談を言い合い、笑いあい、励ましあえる家族を求めていた。
中には、人の悪口や陰口を言ったりする人もいる、それが故意的であったり、無自覚であったりするだろう。
世の中にはそんな人はいるし、そもそも私が考えすぎているのかもしれない。
でも、私たちが交流をしてこなかったのは、忙しいからとかそう言ったものではなかった。
「まだ来ないな」
私は三男、二人目の弟のことを言った。
「連絡はしてる、来るとは言っていたよ」
弟がそう答えた。
また少し時間がすぎた。
そろそろ12時になる。
すると女性の看護師が来られ
「面会できますのでこちらにどうぞ」
と言われた。
私たちはすぐ立ち上がり、看護師の後に続いた」
控室を出て廊下を少し進んだ。
突き当りの扉にきたとき、
「手の消毒をしてください」
と言われ消毒し、開いていた扉から中に入った。
中に入ると部屋かと思っていたら、部屋が長く伸びたような廊下だった。
扉の前で待っていると、ストレッチャーのようなキャスター付きのベッドを看護師さんが押してきた。
そこには横になっている母。
意識はないようだった。
今から大きな手術をするので、触ったりするのは不衛生かと思い、そばで母の顔を見ていた。
心の中で『頑張って』と伝えた。
ほんの数秒止まったあと、看護師はまたベッドを押し別の扉の先に進んでいった。