【僕たちは母を介護する】-32「アイスを食べる」
翌日の昼前、担当医から着信が入った。
[おそろく、昨日言っていた鼻から管を入れて食物を注入する件だろう]
そう思いながら電話に出た。
「血液検査をしたところ、肺等に異常が見られました」
「そうなんですか。それでは・・・」
「はい、昨日お伝えしました、管を鼻から入れると、誤嚥性肺炎や嘔吐によ窒息する恐れがあり危険と判断しました」
「それでは・・・どのようになるのでしょうか」
「今は抜いているのですが、首の後ろから針を刺して、高濃度の栄養剤を注入しようと思います」
「はい」
「それで栄養を補給しようと思いますが、ただしそのことにより気胸などのリスクがあるため、家族の同意をいただきたいと思います」
危険な行為ではあることが電話からも伝わってきた。しかし他に選択肢はない。弟達には後で説明して、自分の責任で決断した。
「よろしくお願いいたします」
《25日目》
あれから病院の連絡はなかった。
問題はないということだ。
一週間ぶりに弟と御袋の面会に行った。
行くと驚いた。
御袋は車いすに座っている。
しかも場所は病室でなくナースステーションだ。
先に介護士が話しかけてきた。
「今日はとても元気ですよ。アイスクリームを一口食べられました」
「そうなんですか!よかった!」
そう言って私は御袋と同じ目線まで腰を下ろし、
「アイス食べたんだね。美味しかった?」
と話しかけたが、聞こえているようだが言葉が出ないようだ。
どうやら話す体力はないみたいだ。
「今日は何日かわかる?」
認知症などを気にして聞いてみると、少し口が動いた。
声にならないが、口の動きで日にちは合っている。
弟が御袋に話しかけたので私は立ち上がり、介護士に様子を尋ねた。
「少しずつですが、食レクをしながら体力の回復をはかります」
聞き忘れていたが、首から注入していた高濃度の栄養剤は問題なかったのだろう。
注射によるものより、口から食べ物を入れる方が良いのはわかる。
「よろしくお願いいたします」
とだけ伝えた。
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