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TAKRAM RADIO|Vol.182『「時間の奪い合い」時代の「鈍さ」のススメ』
Introduction
J-WAVEのTAKRAM RADIO。有限会社BACH代表/ブックディレクターの幅允孝さんをゲストに迎えた、第2週目のPodcastのメモ。
先週に続き有限会社BACH代表/ブックディレクターの幅允孝さんを迎えて『時間の奪い合い時代の、鈍さのススメ』をテーマにトークセッションを行います。
<目次>
00:35 京都の私設図書室「鈍考」
09:27 本棚の作り方のこだわり
16:17 90分という時間設定の狙い
21:49 山下達郎さんに学ぶ他者への寛容さ
29:04 コロナ禍で再発見した「物語」の面白さ
36:59 生活の隙間でどう本を読むか
41:08 リスナーへの「問い」
メモ
先週の振り返り
幅:だらだら喋ってしまった。考え続けることが重要。とても楽しかった。
渡邉:ゆっくり歩くことで、道端の大事なものを見つけられる、と寺田寅彦もいう。
京都の私設図書室「鈍考」
幅:私設図書室兼喫茶店である、「鈍考」をオープン予定。手回しで1kgしか焙煎できないコーヒーをネルドリップとして布で漉し、ゆっくりと本を読む。90分6名のみ。ゆかりのない地ではあるが、京都・比叡山の麓にオープン。
幅:東京では、即時のレスポンスを求められることが増えてきた。本は遅効性。遅さに付き合わないと、自分の仕事のベースが保てないと感じるようになった。時間の流れが遅い場所を自分で作るようになった。『コレラの時代の愛』など長編を読むことが苦しくなり、長編読む筋が衰えると感じた。
幅:近所のそば鶴がおいしい。くまのワインハイスも近い。ここだったら生きていける、という場所を作った。
幅:「鈍い」はポジティブに使われないことが多いが、世の中のスピードに対して、あえて鈍くいたい。推奨は、叡山電鉄の山道をゆっくり来ること。
本棚の作り方のこだわり
渡邉:他のBACHの普段の本棚の作り方との違いは?
幅:普段はオファーありきなので、インタビューを重ねる。
幅:複数回読んでしまう個人的な思い入れのある本が並んでいる。分類は全ジャンル。本に関する本から、言葉・言語学に関する本から、詩歌へと続く。そのほか、アーセナルの本も。ABCでは建築やデザインに関する本を扱っていたので、それも並べる。漫画も入れたいが、全然入らない。急遽、畳の下の本棚を作った。
幅:一軍を選んだ中で、スタメンを選び直した。ずっと縁側にいたいくらい。
渡邉:1度に6名、は空間に余裕があるのか?
幅:ちょうどいいくらい。もっと少なくてもいいが、事業性から。場所はメディアである。わざわざ足を運び、五感を総動員する方法が、最も熱の伝導率が高い。自分たちの考える理想的な読書の環境を提供できれば面白いと思う。
90分という時間設定の狙い
幅:遠くの辺鄙な場所にくるかは分からない。90分は、中之森図書館の運用がヒントになっている。予約制にしていたことでトラブルもあったが、一方で、集中して本を読むようになった。
幅:多くの人が紙の本を開いている光景が新鮮だった。90分という区切りがあるからこそ、本を読む回路のスイッチが入る。アスレチックジムのように、自分でもできるはずのことであるが、時間のフレーミングこそがそこに行く理由になるのでは。
幅:逆を言えば、読書が日常行為ではなくなっている。ただし、回路を作ることは重要。
渡邉:茶室のイメージに近い。お茶は、生活の一部になっていいはずであるが、茶室を設え日常を異化することが大事。
山下達郎さんに学ぶ他者への寛容さ
幅:他者に対する寛容を打ち出している。山下達郎さんの沖縄での千秋楽の公演にて、子供がOKである空間の寛容さに感銘を受けた。
渡邉:朝吹真理子さんのサマースクールの同級生に、山下さんの子供がいた。最終日に、父母からのライブが届けられる。
渡邉:マンズィーニは、デザイン能力は歌を歌うことに似ていて、全ての人に当てはまると言う。練習さえすれば、だれでも合唱団に加われる。イタリアでも草の根的なスローフード運動や精神病棟の廃止につながった。力を重ねることは歌を歌うことに呼応する。
幅:鈍考でも、無言だとしても心が通っている状態はつくれるのでは。×をつけるのが楽な世の中で、なるべく〇を付ける仕事に取り組みたい。日々が楽しいと、朝起きる理由になる。
コロナ禍で再発見した「物語」の面白さ
渡邉:コロナ禍前後の読書の変化、または京都との二拠点の影響は?
幅:長編や物語を読み返すようになった。物語は、フィクションではあるものの、書き手の脳内では一つの精巧な彫刻であり、その力を感じるようになった。どこに転がるのかわからない遠心力を自分の中に取り入れて遊んでみることが面白い。
渡邉:鴻巣友季子さん『文学は予言する』。マーガレット・アトウッドの作品に描かれるディストピアが実際に起こっており、あたかも予言のように符合する。「未来はすでにここにある。まだ均等に分配されていないだけだ」というウィリアム・ギブスンの言葉を思い返す。政治不安の時代に、詩が読まれる。
幅:ジョージ・ソーンダーズの『短くて恐ろしいフィルの時代』。ジェノサイドを巡る二か国の国境侵犯の争いを通して、ディストピア的な世界へとつながっていく。ただし、映像化不可能な、人間ではない不思議な生き物が出てくる。あまりにも今の時代に空気感にあっていて、身震いがする。読み返すと、過去の体験とは異なり、時代の的を射ていて嫌な響き方をしている。
幅:これからの時代におけるファクトの分析だけでなく、目の前に見えていない想像外の広がりへの心構えを嚙みしめるために、物語を読み直す。
生活の隙間でどう本を読むか
渡邉:ビジネスでは、足元のステップを踏み締める。物語の世界では、遠く離れた可能性に目をやるチャンスがある。
幅:物語は雛型がある。人間の性は、人類としてはそこまで変わっていない中で、先人の妄想や想像は、現代のヒントになる。少し前の作品や、近代文学を読み直すと面白い。本は、二度と同じようには読めない。自分も社会も変わっていく。
渡邉:本を読むすき間を見つける活動。バーに本を持ち出して、体をよじって必死に灯りを探して読む。
幅:「読む」という行為を日常に挿し込むこと。本は、書き手と読み手の1on1の精神の受け渡し。
リスナーへの「問い」
幅:読書の時間を確保する方法。
幅:時間の奪い合いが激しい中で、いかに時間を生み出すか。寝る前、お風呂の中、などなど。
渡邉:先に人と話す予定を立てる。併読するときに別の本に逃げる。
幅:読書は、ご飯に近いと思っている。野菜と豆腐の日も、肉の日もある。その日に読みたいものを読む。結果、全然進まない本もあるが、トイレに積んで視界に入る状態にしておく。