旅の終わりに
歩き終わったのは確か午前10時ごろだったと思う。
1200kmぐらい歩いて最終目的地の勿来(なこそ)海岸にたどり着いた。
この旅最後の宿として予約した民泊のチェックインまでにはまだまだ時間があったので、近くの文学資料館に行ったり無限に寄せては引いていく波を眺めて時間を潰していた。
こんな旅の方法をとっていると暇を潰すことを特別に苦を感じることもない。
時間が来るとチェックインと風呂を済ませて事前に紹介してもらっていた居酒屋に駆け込んだ。
とにかく最後の夜に特殊イベントが起きてくれればそれでいい。みたいな感じだった。
旅の綺麗な終わらせ方は虚無感や喪失感との付き合い方にかかっている。
二人のおじさまと行き合わせた。
一人のおじさまが僕の事をえらく気に入ってくれてビールを浴びるほどご馳走になった。
もう断る隙も与えられないほどに次から次へとビールが運ばれてくる。
こうなったらとことん飲まざるを得ない。
するとふと、おじさまが真面目なトーンになった。
「おのくんさ、これから先の人生色んな大変なことあると思うんだけどさ、青森から歩き始めて今日ここまでたどり着くっていう凄いことをしてさ、それで俺たちと楽しくお酒飲んだっていう、こういうことは絶対人生の財産になるからさ、辛くなったら今日のことを思い出して頑張ってくれたら俺たちはこれほど嬉しいことはないんだよ。だからさ、これからも頑張って生きろよ。」
目には涙が浮かんでいた。
言葉では表現しようのない、様々な感情から溢れ出た涙だったと思う。
おじさまの涙を見た瞬間、僕も涙が止まらなくなった。
「ありがとうございます。」
と絞り出すことしかできなかった。
自分の生き方にはあまり疑問は持ってはいない。
けど、目に見えて共感してくれる人がいるとやっぱり安心する。
全部が大丈夫な気がした。
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