【今日の『つかまれたつかみ』 #1】ある朝、眼を覚ました時、これはもうぐずぐず……
『文章は「つかみ」で9割決まる』という本を出しました
最初の数行だけで、読み手の心をわしづかみ。読み手は続きを読まずにいられなくなる。そんな「つかみ」を独断と偏見で紹介する──。
こんにちは、ライターの杉山直隆と申します。
今年5月に『文章は「つかみ」で9割決まる』という本を発刊しました。
「読み手の心を惹きつける文章のつかみ(書き出し)を書くには?」というテーマの本で、小説からノンフィクション、エッセイ、最近のバズったウェブ記事まで、さまざまなつかみの実例を取り上げています。
この本では、できる限り多くのつかみの実例を紹介したかったのですが、スペースの都合で泣く泣くカットしたものも。
また、すっかりつかみをチェックするクセがつき、本が完成した後も「これはマネしたい…!」と思うつかみが目に入ってくるようになりました。
それなら、自分一人でため込んでいるのもなんなので、どんどん出してしまおう。
というわけで、「今日の(私が)つかまれたつかみ」として、ちょこちょこ紹介したいと思います。
つかみを考えるときの参考になれば幸いです。
さて、第1回のつかみは本書のなかでも紹介したもので、タイトルにちょっとだけ載せました。
誰の何の作品かお分かりですか?
一文入るだけで、インパクトがまったく違う
正解は、沢木耕太郎氏の『深夜特急』。
「バックパッカーのバイブル」とも言われる名作ノンフィクションです。
改めて、『深夜特急』は、次の「つかみ」からはじまります。
主人公が、「ぐずぐずしてはいられない」というのはいったいどういうことなのか。先を読み進めて、知りたくなる「つかみ」です。
この文章のあとには、次の文章が続きます。
とくにひねりを加えない順序で書くとしたら、「ぐずぐずしてはいられない、と思った」という気持ちはこれらの話のあとにくるはず。それを、あえて冒頭に持ってきているわけです。
最初に「ぐずぐずしてはいられない」という1文があるとないでは、インパクトがまったく違いますよね。
状況説明の前に、あえて気持ちを一文入れてみる
自分が置かれている状況の説明から始まる文章はよくありますが、その前に「自分の今の気持ち」を一文入れるだけで、読み手の興味をそそる文章になります。
喜びや怒り、悲しみ、楽しさといった「喜怒哀楽」だけでなく、あせりや苦悩、逡巡…。
状況説明をすることなく、そうした感情・気持ちが一行目から出てくると、読み手は「なぜその気持ちになったのだろう?」「そもそもどういう状況?」と気になり始めて、先を読みたくなるわけです。
気持ちのパターンによっては、「そういう気持ちになること、自分もあるな」と書き手に共感を覚えることもあるでしょう。
気持ちを一文だけ前に持ってくる。ぜひ意識してみてください。