展覧会レポ:東京都現代美術館「デイヴィッド・ホックニー展」「MOTコレクション」
【約4,900文字、写真約50枚】
東京都現代美術館のデイヴィッド・ホックニー展(+コレクション展)に行きました。その感想を書きます。
結論から言うと、東京都現代美術館のホワイトキューブ空間を有効に生かしつつ、ホックニーの「考え」をしっかり鑑賞できる展示だったことで、非常に満足度が高かったです。なお、ホックニー展に行く前にテート美術館展(国立新美術館)に行くことをおすすめします。
▶︎ 「デイヴィッド・ホックニー展」
▶︎ 訪問のきっかけ
2017年、私がロサンゼルスのgetty centerに行った際、ホックニーの企画展を見たことがありました(撮影不可)。その時の薄い記憶があったため、今回のホックニー展も年初から興味がありました。
ちなみに、ホックニーは、1964年にロンドンからロサンゼルスに移住しました。そのため、getty centerとホックニーは地理的な縁があったんですね。
▶︎ 撮影について
著作権者(ホックニー本人?)の意向によりほとんどの作品は撮影禁止でした。1階は撮影可能エリアでしたが、スマホのみ撮影ができました。
いつも展覧会を一眼レフで撮影している私にとって、撮影禁止は意外にもポジティブで新鮮でした。カメラがあると、つい撮影して構図を考えたり、平行線を気にしたりと雑念(+シャッター音による雑音)が入ってしまいます。純粋に作品鑑賞に集中できるのは良い機会でした。
▶︎ ホックニーの考え
この展覧会は、絵の巧拙ではなく「どのように見るか、どのように描くか」彼の"考え"を多くの作品を通して観覧者が"考える"展覧会だと思いました。
デイヴィッド・ホックニーは1937年生まれ(現在86歳)。彼は「目に見えるまま表現すると、かえって迫真性が失われる」「一点透視図法は現実の世界の表現に十分でない」と考えました。
1980年代以降、ホックニーの絵はキュビズム的な性格が強くなります。「どのように見るか、どのように描くか」を追求すると、キュビズムに行き着くらしい。やはりピカソは偉大だなと再認識しました。
ミュージアムショップに、ホックニー自身がこの展覧会について語る約15分の動画がありました。彼は絵を通して「楽しむこと」を伝えたい、若者には「be yourself」とシンプルなメッセージを送っていました。著者自身の考えがよく分かるので、展覧会に行った後に是非見ることをおすすめします。
▶︎ 気になった作品
ホックニー展では、ドローイング、フォトドローイング、動画、ipadで描いた絵など様々あって見飽きませんでした。
ホックニーは2010年からipadで絵を描き始めました。マチエールのない平坦なipadの絵でも光が上手く表現されているのはさすがだと思いました。ipadで絵を描いた過程の動画は、彼がどのように考えながら筆(?)を進めたのか、追体験できるのが面白かったです。
また、楽しい絵が多いため、純粋に子供でも楽しめると思いました(実際に子供は多かった)。なお、飽きやすい子供のためにベンチをもう少し多めに置いてはどうでしょうか。
ホックニーは日本語など東洋の絵画から多くの着想を得たようです。特に、《リトグラフの水》《雨》《雪》《太陽》を見ると、波を福田平八郎のような線で表したり、雨を直線で表すのはいかにも日本画らしいと感じました。
↓参考(西洋画で雨の描き方)
部屋の四面に大きな画面が置かれた《The 4 Seasons Woldgate Woods》という動画作品は、真横に並べるよりも没入感があることに加えて、効果的に四季が感じられる気がしました。
以下は1階の作品。スマホのみ撮影可能でした(iPhone SEで撮影)。ほとんどがipadで描かれた絵ですが、1枚だけマチエールのはっきりした油彩の絵画がありました。それと並んでipadで描かれたノッペリした絵をみると、まるで表現のためには道具は関係ない、と物語っているようでした。
▶︎ テート美術館展と相違点/共通点
ホックニー展に行く前にテート美術館展(国立新美術館)へ行くことをおすすめします。私は直前にテート美術館展に行ったため、ホックニー展の良さが際立つ結果となりました。
テート美術館展と比較してホックニー展の良かった点は、
1)キュレーションが良い点。様々なアーティストが混在する「xx美術館展」よりも個展の方が、アーティストの人生や考えを辿り、対話することができました。
2)落ち着いて鑑賞できる点。テート美術館展は多くの作品を詰め詰めに展示されていることに加え、撮影可能なため観覧者が作品の前に溜まることが多く見づらかったです。一方、ホックニー展は、広い空間に程よく作品の配置に間を空けていることに加え、撮影禁止のため、必要以上に作品の前に人が溜まることがなく、快適に作品を鑑賞することができました。
共通点として、
1)イギリスをベースにしている点。テート美術館もホックニー(今はフランスのノルマンディー)もイギリスが拠点です。また、ターナーやホックニーもロイヤルアカデミーの関係者。実際のロイヤルアカデミーの映像もホックニー展で展示されていたためイメージが湧きました。
2)テーマが共通している点。ともに「光」がテーマ。テート美術館はホックニーの作品を所蔵しているので、1点でも置けば良かったですね。
東京都現代美術館(MOT)に行くのは約3年ぶりでした。改めて実感したのが、MOTの巨大で天井が高く、シンプルなホワイトキューブ空間が素晴らしいこと。ホックニー展は、鑑賞に集中できる無駄のないレイアウトも満足度が高かったポイントでした(その意味でもテート美術館展は…省略)。
▶︎ 観覧料は2,300円
今まで行った一般的な展覧会の中でも最も高い(2,300円!)。今年開催された恐竜博2023(国立科学博物館)、テート美術館展(国立新美術館)も2,200円で驚きました。
国立科学博物館はクラウドファンディングするくらい困窮しているため、2,000円超えの相場が一般的になりつつあるのかも。ホックニー展(+コレクション展)は鑑賞に約3時間かかったことに加え、内容の満足度も高かったため、2,300円でも納得感はありました。
▶︎ まとめ
いかがだったでしょうか?「どのように見るか、どのように描くか」を追求したホックニーの作品を見ることは、「作品を見る」より「ホックニーの思想を見る」行為だと感じました。それこそが私が思うアート鑑賞の本意。また、東京都現代美術館(MOT)の贅沢な空間で適切に配置されたキュレーションも満足度を高めてくれました。MOTのみで実施されるホックニー展は、各地を巡回しないのはもったいないですね。
▶︎ 「MOTコレクション」
東京都現代美術館のコレクション展は毎回楽しみにしています(都内の美術館で一番楽しい)。充実したコレクションに加えて、広々したホワイトキューブ空間、「ガイドスタッフによるつぶやきトーク」のように美術館側が観覧者に寄り添っていると感じる点が好きな理由です。