展覧会レポ:松伯美術館「松篁、松園を語る 松園、松篁を語る」
【約2,900文字、写真20枚】
松伯美術館(奈良市)の展覧会に行った感想を書きます。
結論から言うと、他にあまり例のない美術館で楽しめました。おすすめ度は★3です。良かった点は、1)上村松園・松篁・淳之に的を絞った所蔵作品、2)展示品がほぼ「下絵」、3)建物、庭ともに趣がある点でした。
アクセスの微妙な場所(近鉄の名誉会長の元・豪邸)にありますが、奈良県に住んでいる人にとって、一度は訪れた方がいい美術館だと思いました。
松伯美術館とは
「松伯」とは聞き慣れない名前ですが、松伯美術館の成り立ちは、
要は、上村松篁・淳之の作品寄贈と、近畿日本鉄道株式会社(近鉄)の寄附によりつくられた美術館とのことです。また、「松伯」という名前の由来は、
「松伯」はダブルミーニング(それ以上?)で名前が付けられたようですが、単に「松園・松篁」の「松」と、故・佐伯勇氏(元・近鉄の名誉会長)の「伯」から1文字ずつ取ったのかなと思います。
後述しますが、大渕池周辺には豪邸が立ち並んでいます。松伯美術館は、そのエリアでも特に大きい佐伯勇氏の豪邸の中に建てられた美術館です。
「松篁、松園を語る 松園、松篁を語る」
展示方法が少しユニークでした。過去の著作を引用しながら、松園の作品については松篁が語り、松篁の作品については松園が語る内容が掲載され、お互いの作品を品評するようなスタイルになっています(なお、文章が長いため、すべて読むのは途中から諦めました)。
また、展示されている作品もユニークでした。展示の9割以上が「下絵」だったからです(このような展覧会は初めて)。展覧会のポスターを見ても、そのようなことは読み取れないため、若干サプライズでした。
ただし、「下絵」を見ることで気付きはありました。松園は下絵も筆で行い、修正する場合は、上に和紙を貼ってその上に描き直していました。「鉛筆と消しゴムを使えばいいのに」と思いましたが、作者としては、筆で下書きした方が質の高いアウトプットが出るのでしょうか?
また、すべての「下絵」(松伯美術館所蔵)を見る内に、なおさら本物を見たいと思いました。本物の所蔵は、京都市京セラ美術館(作品のキャプションはすべて京都市美術館のままでした。ネーミングライツも運営側にとっては厄介ですね)、永青文庫、山種美術館、足立美術館、大分県立美術館、東京国立博物館、島田市博物館、東京藝術大学大学美術館、宮内庁二の丸尚、北の美術館、大阪市立美術館、東京国立近代美術館などでした。
いくつかの上村松園の作品は重要文化財に指定されています。現在、東京国立近代美術館で開催されている”重要文化財展”に「母子」が展示されているようです(私が行った時は展示されていない期間でした…残念!)。
現在、美人画を描く人はほぼ見ません。松園が活躍した大正〜昭和の初期は、市井の人が着物を着て生活していました。当時の生活から様々な作品が生まれたと思うと、松園の作品は文化的な価値も高いと再認識しました。
展示の多くは松園の作品で、松篁(+淳之)の作品は少数でした。彼らの作風は松園と違い、動物の題材が多く、ノスタルジックで可愛かったです。
上村3世代について、松伯美術館に行くまでは詳しく存じ上げなかったですが、この展覧会を通していくらか覚えることができて良かったです。
展示の一部では、実際の制作に使った絵の具や、絵の具のもとである、鉱石、水晶、珊瑚、虫、牡蠣の貝殻などが説明されていました。千住博は、日本画の絵の具に惹かれて、その道に進んだことを思い出しました(『ルノワールは無邪気に微笑む―芸術的発想のすすめ』より)。
すべての作品は撮影禁止と受付の方に教えてもらいました。1作品(もしくは写真スポット)を撮影可能にするのはどうでしょう。来場者はそれをSNSに載せて勝手に宣伝してくれることで、運営にプラスになると思います。
館内の様子
館内はちょっと複雑な構成になっていました。展示室は1階と2階に少しあり、全体の展示スペースは比較的広くないと思います。中庭があったり、池があったりと、美術館全体は、瀟洒な洋館という印象でした。
館外の様子
きれいに整備された庭も松伯美術館の特徴だと思います。「庭だけの鑑賞はご遠慮ください」とのことでした。天気がいい日は、ベンチに座って鑑賞後の休憩にもってこいだと思いました。
まとめ
いかがだったでしょうか?特徴的な思想、作品群、建築(建物と庭)なので、一般的な美術館に行き慣れた人にとっては、面白いと思いました。また、様々なアーティストが展示されているオムニバス的な展覧会よりも、このような的を絞った展示の方が深く理解できて楽しめました。