『キリエのうた』馬鹿野郎の感想
馬鹿野郎の感想
キリエ、男と彼女達女神
最初に、僕は男です。
自認はよくわからないけど、生物学的に男です。
この映画を見終わった時、僕は体調を悪くしていました。緊張で気持ちが悪いときのような、吐き気を催すような。そして思ったのです、僕は男なんだ、と。
この映画では常に男という生き物の醜さを見せられます。どこまでいっても男は性に溺れる獣とか、どちらかと言えば猿なんですけど、まぁ、でもそんなのどんな映画にも少しはあるじゃないですか、所謂強姦とかそういう風な感じで。ではなぜこんなにもそれを感じてしまうのか、一言で片づけるなら、そうですね、キリエがミューズだからです。
ミューズ、ギリシャ神話で、文芸・学術・音楽・舞踏などをつかさどる女神ムーサの英語名。また詩神なんて呼ばれることもありますよね。もう一度言います、キリエはミューズなんです。
処女性とか、別の言い方を使うなら純粋だとか、それを具現化したような存在なんです。それも男に想像されたものでなく、私は女性ではないのですが、多分女性が思い描くミューズ、また神によってのミューズ。真っ白な紙に炭まみれの手で触れたら、そりゃあ目立つでしょう。
キリエはこの映画中一度もその人間形を崩しませんでした。
キリエ、その美しさ
ここで一度、キリエを語らせてもらいます。ネタバレになってしまいますかね、路花ではなく、キリエです。
彼女はヤバいです。キリエは、路花と違って、ミューズとは言えません。寧ろ、彼女は映画内で最も女らしいのではないでしょうか。性に忠実で、何より自分の気持ちに忠実、それを叶わせようとする行動力を持ち合わせています。でも面白いことをしますよね、構造的にはキリエ(路花)の前にキリエ(姉)がいるんですから、まぁ、人間として全くの別人ですから、似てるとかは思わないんですけど(もし震災がなければ似てる姉妹になっていたかもしれないですね)。
ちょっとズレるんですけど、実家で母親に夏彦を紹介するときのキリエ、めっちゃ可愛くありませんでした? なんか顔を手で支えているんですけど、あの妖しさには思わず息を呑んでしまいましたし、路花との決定的な違いの一つだとも思います。また、その時、路花が夏彦に対して(またこれも歌を介し)自分が、異邦人だということを伝えていたので、「お洒落な方法で路花という存在を説明するなぁ」と感心しました。
本当に関係のないことですけど、僕もあんな人に愛してもらいたいです。
イッコ、しかし誰よりも女という生物
彼女は一見、悲惨な運命をたどりますよね。それに映画だとわかりずらいかもしれませんけど、彼女は必死に愛を欲していました。
色々言いたいことがあるので、一つ一つ書き綴っていきますね。
イッコは結婚詐欺師としてある種有名人、なぜイッコはそんな役に就いたのか考えてみてください。僕は、愛が欲しかったんだと考えました。本当の愛、まるで少女が思い描くような、全く綺麗でシミの一つさえない、そんな愛。でも普通、そういう愛が欲しいなら結婚詐欺なんてやりません。ですが彼女は、まるで自ら望んでいるように詐欺を繰り返します。それもそのはず、イッコには恐怖心が植え付けられているんです。
愛が欲しいと願うイッコですが、同時に真実の愛とか、そういう深いところまでは入り込めない。溺れるような愛を望む女性もいますが、イッコは考えてしまいます、溺れてしまった時何かが終わってしまうのではないか、私という存在が変化してしまうのではないかと。
だから、元カレの部屋に住まうし、詐欺もする。それは変化ではなく成長だと捉えられるから。何より周りが変わっていく中で自分の不変さを感じると安心するのでしょう。
しかしキリエとの出会いがイッコを変えました。もとは、さっき書いた、『何より周りが変わっていく中で自分の不変さを感じる』、これの為にキリエのマネージャーとしてサポートまがいのことをしたんです。キリエの才能を誰よりも理解していたイッコだからこそ、その変化を身近で感じようとしたんです。それなのに、キリエが余りに純粋な歌を歌うから、イッコは涙を流しました。まさにシミ一つない純粋な気持ち。きっと、それがイッコに変化を感じさせたのでしょう。
イッコが死ぬ間際、あんなに笑顔だったのは、キリエを本気で愛していたからで、イッコの頭の中ではキリエの歌が流れ続けていたでしょう。僕が思うに、あの花束は一種のプロポーズです。
女を売ることを嫌ったイッコ、しかし女として金を手に入れるイッコ、愛を欲しがったイッコ、純粋な愛に触れたイッコ、彼女は誰よりも女でした。キリエが現象とか、神秘的にとか、そういう女なら、イッコは存在で、現実的、そういう女です。
どうでもいいことですけど、イッコのような人間の手を握ってみたいですねぇ。
馬鹿野郎のあとがき
歌、音楽で紡がれるこの映画を見て、僕が何より感じた、考えたことは、キリエ(路花)が最初に聴いた歌、音楽です。
キリスト教を信仰していたので讃美歌でしょうか、それとも母親の子守歌でしょうか、はたまたそれは虫のせせらぎとか、風音とか、あぁ、もしかしたらキリエ(姉)のお気に入り曲とかかもしれないですよね。今回の場合、というか記憶的に残っているのはあのオジサンと一緒に歌ったあれなんでしょうけど、一人の時はその歌に助けられ、誰かといるときは自分の歌を歌ってあげる。キリエという異邦人がこの後どうなるか、それは想像もつかず、また簡単に結末まで考えられます。それでも、だからこそ、彼女がキリエとして生きていくが確かにわかります。
例えばこれは公式のもの
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