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師走の龍神 天照の石と湯

思い立って 山の社に行った
静かな暮れの空気に満ち 
いにしえを思わす太い木を見上げると 
黄色い葉が パラパラ風に乗ってやってくる

朱色の本殿に参拝し 
さて九頭竜の神前に立つと 
人はなく 独りの拝殿が叶った

節目に訪れては龍神様に話しかけるから
今日は特別 
お前一人で話してよいと言ってくれている 
などと都合よく思いつつ
本殿の奥 鏡に わが身が映るのをしばし見る

神に願いを叶えてもらおうとは思っていない
ここへは自分の儀式に来る

誓いの文字を 水に乗せて流し
私の意識に刻印するのを楽しんでいる

山を降りて1時間後 地元の温泉へ着いた
日の光があるうちからお湯に入るなど
昨年までは出来なかった自分の変化を眺める

静かだ 水の騒ぐ音だけが聞こえる

外へ出ると 屋根のついた寝湯があり
そこに 天照石と書いてある
天照はテンショウと読む。
天の岩戸がある高千穂の地盤から採出される。

宮崎と大分にかけ 
太古の火山活動で生まれた巨大カルデラ 
長い時をかけ海底火山の地盤となった
マグマのエネルギーを蓄えた変成岩。

背をつけて横たわる。
宇宙に地球という惑星が創生される作業
神がこの世に大地をつくる物語 
マグマ、噴火、超巨大なエネルギー量
そんな壮大ドラマがあったとは思えないほど 
自分と地球時間は離れ過ぎている

ダイナミックな映像の断片から
呼吸だけに意識を向け直すと 
マグマが体の細胞の奥まで流れ込んでくるようで
灼熱は無意識にまで浸透して 
雑な思考が溶けて
ああ 幸せ とだけもれてくる

次は石室のような洞窟に木の扉がある
石造りの洞窟塩サウナだ 
私が来たのを合図に
中央の大きな壺から蒸気が噴き出し 
ハッカの香りが熱風の嵐みたいに吹き荒れた

おお龍神が吠えてるぜ 
ワイルドな蒸気にむせ返る視界の中で
よくみると おっと!
壁に得体の知れぬ石像がいる 

コレは怖いかもしれない…
…が…!?
私はアドベンチャー魂でできている 
一糸まとわず 最高!とひとり喜んだ

てんこ盛りの塩を両手に山盛りすくい
こすれる箇所は どこでもゴシゴシ塩もみだ
手強い虫さされに この刺激がよいのである

やがて女性が三人入ってきた うち二人はご高齢
その一人が壁に手をついて立ち 
少し若い女性が背や肩を塩で擦ってあげている 
嫁と姑という会話ではない気がする 

どういう関係だろうと思っていると
今度は交代 
ご高齢の方が年下の女性の背を塩で擦っている
もう一人の高齢女性は 
私はそういうの苦手!と
ハッカ蒸気で洞窟サウナを堪能していた

退出した私は 他の変わり湯をひと通り楽しみ 
シャワーで流していると 

隣で美しい女性がシャワーを使っていた
洞窟サウナでご高齢の女性二人といた女性だ
化粧を落としているが 美しい人だった 

顔の作りも美しいが 
漂う気配が優しさをまとっている 
二十代ではないだろう 
体型から言えば50代か
私が忘れていた女性の優しさを持っている

あんなふうに母の背中を洗ったのは
遠すぎて胸が痛む
いつも自分優先の親不孝者だ

ふと 美しい女性の素顔と
アマテラスの立ち姿が重なった

人には皆んな胸の奥に社があって 
そこには常に自分の神がいる 
という考えが私はとても好きだ

偶然にもアマテラスと同じ字を持つ石に背をつけ
師走を仰いだ湯殿が 
私にはまた一つ 尊い記憶になった

なにかを成さなくてはと
我が魂を叩いてきた年月が 
溶けはじめている

龍神に宣言してきた
これからは 心ゆたかに生きる と
そんな 節目の暮れを書いておこう

九頭竜神社(箱根)
ご神水
 この横にある水盤に誓願文を流すと紙が溶けて流れていく

いつもありがとうございました。
来年はさらにゆたかな時になりますように。

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おりーぶ
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