存続危機のヴァンジ彫刻庭園美術館に思うこと ─ミュージアムを"続ける"難しさ─
わたしの故郷・静岡県には、素敵なミュージアムがいくつもあります。
ドライブ好きだったアラサーの両親は、週末の度に幼かったわたしを、美術館や博物館、歴史資料館、遺跡もあるような広い公園、動物園や水族館、海に山にキャンプに、と、県内くまなく、また、箱根など近隣県へも足を伸ばし、ありとあらゆる場所へ連れて行ってくれました。
おそらく意図せずして、ですが、おかげでミュージアムという空間・場と富士山と動植物が大好きな大人に育ちました。
そんなわたしが、進学のために静岡を離れた2002年4月、県内に本当に素晴らしい空間が誕生しました。
ヴァンジ彫刻庭園美術館とクレマチスの丘です。
開館から20年が経ち、美術館は大規模修繕のため、2023年1月から休館する予定です。
しかし、経営難のため、この数年、存続の危機に瀕しています。
彫刻と庭園が融合した、世界にも類を見ないくらい素晴らしい空間が、消滅してしまう・・・そんな悲しすぎる状況が、目の前まで迫ってしまっています。
ひとりでも多くの方に、ヴァンジ彫刻庭園美術館のことを知ってもらえたら、そして、美術館休館中もオープンしている施設があるので、クレマチスの丘を訪れてもらえたら、嬉しいです。
無償譲渡も含めた支援を 静岡県へ要請
クリスマスまでに 皆さまの声を届けてください
まずは大変恐縮ですが、読んでくださっている皆さまに、お願いです。
2023年から始まる大規模修繕の費用は、美術館自らクラウドファンディングを行い、2021年5月、当初の目標の4倍近い支援が集まりました。
ただ残念ながら経営難が改善した訳ではなく、今から1年以上前、2021年10月末に、施設の無償譲渡も含めた支援を静岡県へお願いしています。
そして県も、県庁の本庁機能を分散化する「次世代型県庁構想」の中で、スポーツ・文化観光部内の文化局の移転候補地として、ヴァンジ彫刻庭園美術館を検討していて、2022年度中には結論を出します!とのこと。
この辺りのニュース、わたしはずっと、静岡新聞で追いかけてきました。
2022年の年度末が刻一刻と迫る中、ヴァンジ彫刻庭園美術館は現在、ホームページで、美術館を存続させるかどうか、存続させるならどんなかたちがいいのか、といった声を広く募っています。わたしも回答しました。
集まった声は、美術館を通して、静岡県議会へ提出される予定です。
訪れたことのある方もない方も、ミュージアムという空間がお好きで、文化芸術を愛する、一人でも多くの方に、声を届けていただけると嬉しいです。
期限は、12月25日(日)16:30まで。回答時間は約2分くらいです。
ぜひ!!!
つい先日、あの美術手帖ウェブにも記事が出ました。
もしよろしければ、ご自身だけではなく、周りの方へもシェアしていただけると、もっと嬉しいです・・・
ヴァンジ彫刻庭園美術館とは?
ミュージアム公式の動画はこちら。
観ているだけで、現地へ飛んで行きたくなります・・・
ヴァンジ彫刻庭園美術館は、「訪れる誰もが幸せな気持ちになる、みんなの広場のような美術館をつくりたい」という創設者の想い・ビジョンから生まれました。
クレマチスガーデンの構想にあたって参考にしたのが、フランスのロダン美術館やマーグ財団美術館といった、庭園のある美術館だったそう。
ガーデナーの方々によって日々丁寧にメンテナンスされているので、四季折々、いつ足を運んでも本当に美しく、散歩しているだけで癒されます。
また、来館者一人ひとりが、”センス・オブ・ワンダー”を育むことを大切にし、誰もが心地よく過ごせる居場所となるような取り組みを続けています。
例えば、ヴァンジ氏の意向で、屋外の彫刻は全て、手でふれられます。
また、イタリア国立オメロ触覚美術館との交流を機に、視覚障害の有無にかかわらず、作品に触れて鑑賞(触賞)できる企画展『すべてのひとに、石がひつよう』が開催されました。
この企画展を手掛けた岡野晃子さんは、その後、映画『手でふれてみる世界』を監督・撮影。2022年11月から全国各地で上映がスタートしています。
つい先日、国立新美術館で開催中の『DOMANI・明日展』でも、記念事業として、上映会とトークイベントが開催されてたんですよね(参加したかった・・!!!)
何とかしてどこかでぜひ観たいと思っています。
チュプキタバタさんや都内の美術館、映画館でも上映されるといいなぁ。
さらに、作品解説の音声が聴けたり、視覚に障害を持つ方への敷地内の誘導手段にもなる「ナビレンズ」の導入も。
館では、さまざまなワークショップやギャラリーツアー、トークイベントなどが定期的に開催されていますが、特に、小学校低学年までの子どもを対象とした「五感で季節を感じるワークショップ」は、庭園と美術館があるこのミュージアムならではの素敵な取り組みです。
庭園と彫刻によって生まれる調和を大切にしながら、まさに誰もがほっとして、幸せな気持ちになれる場所。それがヴァンジ彫刻庭園美術館であり、クレマチスガーデンなのです。
クレマチスの丘とは?
ヴァンジ彫刻庭園美術館とクレマチスガーデンがオープンするタイミングで、この地域に元々あった複数のミュージアムと、レストラン、ミュージアムショップを、一つの複合文化施設としました。
それが「クレマチスの丘」です。
丘の上、ビュフェ・エリアにあるのが、1973年に開館した、ベルナール・ビュフェ美術館と井上靖文学館、1999年に開館した、ビュフェこども美術館。
この3つの施設と、併設されているカフェ&ショップ TREE HOUSEは、2023年以降も営業しています。ぜひぜひ足をお運びください!!!
丘の下、クレマチスガーデンエリアにあるのが、ヴァンジ彫刻庭園美術館とクレマチスガーデン、そして、2009年に開館した写真のミュージアム、IZU PHOTO MUSEUM です。
特にわたしは、このIZU PHOTO MUSEUM ができた時、相当嬉しかったんですよね。
設計を手掛けたのは、なんと、杉本博司さんと榊田倫之さんの新素材研究所。2008年に設立されてから初めて完成した建築物のはずです。
当時、わたしはすでに杉本博司さんの作品が好きだったので、静岡に!クレマチスの丘に!写真の美術館!!!と、テンションが上がりました。
IZU PHOTO MUSEUMは、現代作家の企画展を中心としたミュージアム。
過去には、古屋誠一さんや野口里佳さん、増山たづ子さんといった、キラリと光る展示を行ってきました。
また、川内倫子さんや、テリ・ワイフェンバックさん、宮崎学さんによるワークショップを開催していたのも、とても印象に残っています。
でも、残念ながら、2018年秋からずっと休館中なんですよね・・・涙
最後にお邪魔できたのは、2018年夏の「没後20年 特別展 星野道夫の旅」でした。また中に入りたいなぁ・・・
大好きだったNOHARA BOOKSもクローズに
IZU PHOTO MUSEUMに加え、年内でヴァンジ彫刻庭園美術館とクレマチスガーデンが休館してしまうため、同じクレマチスガーデンエリアにあるレストランとショップもクローズしてしまうことに。
わたしが何よりも悲しかったのが、ミュージアムショップ NOHARA BOOKSさんのクローズでした。
クレマチスの丘を訪れると必ず立ち寄っていた、大好きなお店です。
店名は「BOOKS」ですが、書籍だけではなく、イイノナホさんをはじめとする作家の作品、文房具、ポストカード、バッグや小物、インテリア雑貨、子ども向けの玩具、照明器具まで、本当に幅広くも、きちんと選び抜かれたアイテムが、ぎゅぎゅぎゅっと並んでいる、夢のような空間。
こんなにセンスあるお店、静岡県東部エリアでは特に、本当に貴重な存在なんです。
ショップを運営している株式会社NOHARAさんは、書籍の出版事業も行っており、ヴァンジ彫刻庭園美術館や、IZU PHOTO MUSEUMで開催されてきた展覧会の図録も、数多く手がけてらっしゃいます。
何より、このショップで買える、クレマチスの丘のオリジナルグッズが素敵なんです。なんと!アートディレクションを、KIGIさんが手がけてるんですよ!!!しかもずっと!!! 嬉しすぎます・・・
缶バッジとかトートバッグとかポストカードとか、可愛いものが本当にたっくさん作られてきているんですよ。
好きすぎて、以前にもnoteでご紹介したことがあります(記事の後半)。
そんなNOHARA BOOKSさんでお買い物ができるのも、あと少し。
2022年のクリスマスを持ってクローズです・・・本当に悲しい。
Instagramで一報を知ったときは本当にうなだれました。
何とかして帰省できないものか、と思っていたのですが、なかなか叶いそうになく・・・
せめて、と思い、先日、オンラインショップでお買い物しました。
オンラインショップももちろん、クローズしてしまいます。
しかも、実店舗より少し早い12月20日(火)までの営業とのこと。
ぜひこの機会に、盛大にポチってください!!!
ちなみに何を買ったの?
買いそびれていた展覧会の図録を2冊。
昨年開催された企画展「すべての ひとに 石が ひつよう」の図録と、
東伊豆・城ケ崎の辺りでずっと作陶されていた、陶芸家 黒田泰蔵さん。
2019年に美術館初の企画展として開催された「黒田泰蔵 白磁」の図録。
以前に買ってお気に入りだった、アーティスト・鈴木康広さんとツバメノートのコラボデザイン、その名も MABATAKI NOTE (まさかの半額!!!)
そして、ヴァンジ彫刻庭園美術館とクレマチスガーデンの開館20周年記念のコンセプトブック
※現状、NOHARA BOOKSの店頭とオンラインショップでしか買えません
KIGIデザインの缶バッジは、4つあるうちのクレマチスのデザインを。
2022年12月、最後の最後。大切にします・・・
まとめ
NOHARA BOOKSさんから届いたコンセプトブックをさっそく読んで、いてもたってもいられなくなり、記事を書かねば!!!とPCを開きました。
ぜひぜひクリスマスまでに、アンケートにご協力いただけると。
そして2023年以降も、ビュフェ美術館や井上靖文学館へ訪れていただいたり、ヴァンジ彫刻庭園美術館とクレマチスガーデンの行く末を見守っていただけたりすると、とても嬉しいです。
わたしが、アンケートに書きながら思ったことは、ミュージアムを運営し続けていく難しさ、でした。
IZU PHOTO MUSEUMが、長らく休館してしまっている事情を詳しくは存じ上げません。
ただ、ミュージアムを続けて行くには、人手と、相応の資金が必要で、継続的な来館者数の見込みがあってこそ。
作品を守るためには、空調も警備も必要ですし、大規模な改修工事も定期的に発生します。
ここ数年、世界中が見舞われたような予期せぬ事態に限らず、特に私設のミュージアムは、天災や運営事業者の変更など、あらゆる思いがけない出来事によって、あっという間に経営難になってしまう可能性があります。
大人になってから大学に編入し、学芸員課程を学んでいるほど、ミュージアムが大好きないち市民として、何ができるだろうか・・・
経営難だというニュースを見てからの数年、ずっと考えてきたことですが、なかなか答えは見つかりそうにありません。
正直なところ、アンケートには、少々シビアなことも書きました・・・。
この地に、なぜヴァンジ美術館なのか。
開館から20年、国内における作家の知名度は、どれほど向上したのか。
来館者数を増やすため、経営状況の改善のため、どんな取り組みをどこまで本気でやってきたのか。
この先、県に無償譲渡が叶ったとしても、おそらく課題になり続けることは変わらないはず。
これからもしっかりと、ミュージアムが続いていくよう、見守り、訪れていきたいと思っています。
最後の最後ですが。
コンセプトブックの「おわりに」の文章の一部を、ご紹介させてください。