生産性とモチベーションが上がる 働き方改革
「ウチの会社は夜間工事や休日工事、急な工事などは当たりまえだから時短なんてムリムリ」
「人が足りないのに、それどころじゃない」
2020年1月頃までは、「働き方改革」と聞くと経営者の方からこのような声をよくお聞きしました。
しかし、みなさんご存じのように新型コロナウイルス感染拡大に伴い緊急事態宣言が発令され、多くの企業がテレワーク(在宅勤務)へと勤務形態を移行せざるを得ない状況になりました。今まで当然としていた働き方にゆらぎが生じ、経営者・社員共に「どうやら今のままでは、まずいのではないか」このような意識が芽生えたと思います。
働き方を見直すことは、取り組み方次第で企業の生産性を上げ、かつ社員のモチベーションをあげる大きな起爆剤となります。働き方改革は、単なる時短ととらえるのではなく、経営戦略としてのありかたを見直す機会と心得て、本気でとりかかかる必要があるのです。
では、働き方改革を成功させるためにどんな点に気をつければよいのでしょうか。これを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
今後の経営を考える上で日本の人口変化に注目する必要があります。
みなさんは「2025年問題」をご存じでしょうか?
1947~49年の「第1次ベビーブーム」で生まれた「団塊の世代」が、後期高齢者の75歳以上となる2025年頃の日本で起こる様々な問題のことを指します。
2025年には、4人に1人が高齢者という時代に突入します。また「介護難民」の急増が予測されています。介護する人の数が足りず、介護が必要な「要介護者」であるにもかかわらず、高齢者が施設に入所できない、適切な介護サービスを受けられないといったことが起こります。
団塊の世代ジュニアとよばれる1971年から1974年の世代は、父母の介護をしながら会社で仕事をする人が増加することが予想されます。彼らはフルタイムで働くことはできず「短時間労働」になるでしょう。さらに、人口減少によって今よりも一層働く人の数が減りますから、フルタイムの社員以外に定年退職者、子育てしながら働く主婦、外国人、といった様々な背景をもつ人たちを短時間で雇用し、とりまとめ、いかに彼らに仕事の成果をあげてもらうか、が経営者の手腕として問われるようになります。
また、高度成長期にピークであった多くの企業が現在、組織の成長プロセスの「衰退期」を迎えています。このプロセスでは、やめる事業、継続する事業、新規事業の立ち上げなどの重要な経営の大鉈を振る時期です。この時期の経営判断が次の生き残りの成否を決めるといっても過言ではありません。
「衰退期」のプロセスでは、次の波をつくるべく新しい商品開発やサービスを生み出していく必要があります。そのためには、モノを作る専門家としての内向きの目ではなく、お客様が何を欲しがっているのか、時代はどんな変化を迎えているのか、といった外向きの視点が必要です。
一方、市場では世の中にはモノが溢れ、消費者に振り向いてもらうことが難しくなっています。商品そのものに魅力や新しさ、面白さがなければ、他社と価格だけで比較され苦戦することは目に見えています。
しっかりと顧客を観察しニーズをとらえ、顧客の求める新しい商品開発やサービスを創り出していく力が求められます。
また、価値観の多様化によって顧客の好みがバラバラという状況の中では大量生産は期待できません。インターネットの普及によって、新しいものはすぐにまねされ、消費されます。作ってもすぐに売れなくなる、など商品の寿命サイクルも短期間になります。
このように経営の環境は「人口変化」「組織の成長プロセスの変化」「消費者の変化」といったさまざまな変化にさらされています。
こうした状況の中で、経営者が一人で頭をひねって苦しむよりも、会社の社員全員をパートナーとして「考える人」になってもらったほうが生産性も上がるし将来の広がりがあります。
ところが、「今までの働き方」がここで邪魔をします。社長の指示命令を淡々とこなすことが社員の仕事だという思考では主体的に「考える人」に変化することはできません。
コミュニケーションの仕方を「指示」から「聴く」へ
新しい発想を生み出す能力を引き出すためには、一方的にスタッフに指示や指摘をしたい衝動を少し抑えてみましょう。
上司が「〇〇をしておいて」という一方的な指示や命令は、社員のモチベーションを下げ主体的に考える力を奪う一番の原因なのです。
上司としては「指示をした方が時間短縮になる」と思われるかもしれませんが、それは上司側の潜在的な心理に「社員は未熟だからできないだろう」という思い込みがあるからです。
働き方改革は経営者の意識改革から
社員を主体的に「考える人」に育てる一つ目のポイントは、まず、経営者から意識を変えていくことです。
コミュニケーションは本来「信頼」をつくるためにあります。社員はパートナーです。社員にも自分の人生で叶えたい夢があり、目標があります。彼らの成功が会社の成功につながります。彼らの夢や目標をかなえるのが経営者や上司の仕事だと考えましょう。
垂直権力から水平権力への移行
社員を主体的に「考える人」に育てる2つ目のポイントは、普段の会話の中で社員の考えや会話を引き出すような問いかけをし、彼らの話を聞き「承認する」機会を多くします。
例えば「なぜお客様を待たせたんだ、クレームがあったぞ!」と怒るのではなく
「今度からお客様をお待たせせずに商品を納品するにはどうすればいいと思う?」と問いを発することです。
人間は人から質問をされると無意識に答えを探そうとする心理が働きます。
「なるほど、そのやり方はいいね。ありがとう。」と社員の意見を承認することです。社員は「自分の考えた意見が認められた。うれしい。今度からみんなの役に立つためにもっと頑張ろう」と主体的能動的に行動するモチベーションが内面から育ちます。
ここで、気をつけなければならないことが一つあります。経営者からの指示命令による垂直権力に慣れている社員は、自分の意見を上司に表明することをとても恐れます。想像以上に社員は上司の無言の権力を恐れています。社員にとっては勇気を振り絞って意見を述べていることを忘れないようにしましょう。
主体的な社員を育てるためには、垂直権力から水平権力への移行をすること。心理的な安心安全を感じられる人間関係を作っておくことがとても大切になります。
ほめる力が能力を伸ばす
社員を主体的に「考える人」に育てる3つ目のポイントは、積極的に互いをほめる習慣やしくみを社内でつくっていくことです。最初はほめる側も恥ずかしかったり、ほめられる側も照れたりするかもしれませんが、やはり、ほめられると人はうれしいものです。
業務の中で社員のできないところや失敗に目が行きがちですが、ほめることを習慣にすれば、一人一人の持つ良い面が浮上してきます。苦手なことをできるように労力をかけるよりも、得意なことや強みにフォーカスして能力を伸ばした方が業務の時短になり成果は大きいです。社員の適材適所への配置を意識しましょう。
「自分の頭で考える」ことが社員の間で定着してきたら、いよいよ新しいアイデアを生み出す課題を社員にあたえてみましょう。
新しいアイデアを生み出すときにはその発想の中心概念となるコンセプトが必要になります。
中心概念となるコンセプトとは「会社の経営理念」「会社の将来像、ビジョン」です。
これらは、この会社は何のために存在しているのか、会社が対象とするお客様は誰なのか、お客様へのお役立ちポイントは、どんなところにあるのか、の答えです。これを経営者が明確に持っておくことです。
経営理念の明確化、これが働き方改革は時短ではなく経営戦略としての位置づけである根拠です。
こうした会社の経営理念は、堅苦しいものではなく、ワクワクするものにすることがポイントです。
何のために自分たちは働いているのかを社員全員が理解し、ワクワクしながら社員が主体的に働く会社はどんな困難があったとしても乗り越えていけるでしょう。
■上記記事は、産繊新聞様に寄稿した文章です。産繊新聞様ありがとうございました。