楽しく生きてる大人はかっこいい
ライブハウスに人生初めて行った。
わたしの相方さんはドラムを叩いて生計を立てている。(旦那さんとか夫と言うのがこしょばゆくて、相方さんと言っています。)普段は穏やかであまり話さない彼が、ドラムスティックを持つと同じ人物なのか、と思うくらい弾けるのだ、サーティーワンアイスクリームのポッピングシャワーみたいに。彼が家で電子ドラムを叩いているのを1番近くで見ていると、こちらまで笑顔になってしまう。楽しそうにドラムを叩いている彼を、わたしは密かに推している。
『ライブハウスで演奏することになったよ』
わたしが想像するライブハウスは、古いビルの地下にあって、扉には電車のトンネルにある落書きみたいなのが描かれている。ずっしりと重い遮音扉を開けると薄暗く、タバコの匂いが一瞬で体中にまとわりついて、外の世界と遮断されるイメージ。いいイメージというよりはダークなイメージ、少なくともわたしがいる世界にはなかった場所なのは確かだ。タバコが苦手で狭いところを極力避けている相方さんが、こんなライブハウスで演奏しているのが想像つかなかった。
Googleマップで場所を確認したら、ライブハウスはビルの12階にあった。ライブハウスが屋上に近いところにあることに驚いた。爆音でビルがひび割れるんじゃないか?なんてありえないことを考えながら、そわそわしながら1人でライブハウスに向かった。
合っていた。わたしのライブハウスのイメージが地下にあること以外当たっていた。黄色と赤でデザインされた重い扉を開けるとタバコの匂いが充満していた。タバコを吸う人が周りにいないので、大学生ぶりのタバコの匂い。普段入らない隠れスイッチがオンになったのがわかった。雰囲気にのまれるかと思ったけど、それ以上にテンションが上がっているのもわかった。
背負っていたリュックを前にして演奏を待つ。足元にはなぜライブの日に買ったのかが謎な、紀伊國屋書店で買った5冊の本がある。5000円以上のお買い上げなのでご郵送も可能ですよーって店員さんが親切に案内してくれたのに、わたしは張り切って紙袋で持ち帰ります!と言った。そのときのわたしは、相方さんのライブに好きな本を持っていく自分に酔っていたのかもしれない。5冊の本ほど重くてかさばる荷物はない、と本が足のつま先に当たるたびに思った。
相方さんの出番は2番目。1番目のバンドは年齢を重ねた味のあるおじさまロックバンドだった。わたしは相方さんと一緒になってから、音楽番組やライブでドラマーさんを自然と見るようになった。知らぬ間に影響されているやつ。だからおじさまドラマーをまじまじと観察した。おじさまは綺麗に伸ばされている長髪の金髪で、30分間の演奏中、歯を見せてずっと笑っていた。笑いながら歌いながらドラムを叩いていて、本当に楽しんでいる人の顔を久しぶりに見た気がした。そのあとの相方さんも笑って叩いたりするのだろうか。そんなことできるのだろうか。急に親心みたいなものがにょきっと出てきて少し心配になって心臓がどきどきし始めた。いや、このドキドキは聞いたことのない大きな音にドキドキしているだけだ。
出てきた。
あれ、すでにキラキラしてる、あんなにかっこよかったっけ(失礼)まだ演奏が始まっていないのに、スティックを持ってドラムの前に座っている相方さんが好きだなって思った。これか、これが推し活をしている人の気持ちなのだろうか。身内なのに、全く別人のライブを見にきたような錯覚だった。
叩けたたけ、みんなに聞いてほしい音でたたけ
30分の演奏はあっという間に終わって、次のバンドに変わった。相方さんのドラムの音は力強いけど、優しくて細かくて耳触りが心地よかった。あれ、この人の音は大きすぎるだけだよな、とわたしは完全に相方さんに加担している感想をもった。
お兄さんとドラムレッスンの教え子さん(大人)、そして音大の友達が見にきてくれていて妻です〜なんて挨拶をした。相方さんのお友だちに会うことがはじめてだったのでなにを話せばいいかと心配してたけど、クラブハウスは暗くてうるさいからそんなこと気にする必要はなかった。耳元で来てくれてありがとうございました!と大きな声で伝えておわった。
帰り道の電車の中、相方さんとライブの動画を一緒に見た。相方さんだけをアップにしているのが恥ずかしかったから、全体の動きない動画になってしまった。相方さんからしたらそれがいい、と言われたが本当はドラムを無邪気に、子どもみたいに楽しそうに叩くあなただけを映したかったのですよ。と心の中で言ったのはひみつ。
わたしにないものを彼はたくさんもっている。
それをわたしは大切に守っていきたい。
大人になっても夢中になれるものがある大人は、最高にかっこいいと思った。