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鎌倉、そばcafe.tamazee。

自宅の目と鼻の先に老舗の蕎麦屋、北野家が
在る。上等のそば粉を使った、かどの立った
旨い蕎麦を提供している。
この店の次男坊のせいじくんが5年前に、
大好きな鎌倉の地に移住した。この5月、奥さんと
二人で念願の蕎麦屋を開業したのだった。
屋号は、そばcafe.tamazee。
奥さんがたまみさんだから、たまみとせいじで
たまじーですね。
鎌倉駅から藤沢行きのバスに乗って、長谷の大仏の
前を過ぎて、梶原口で降りる。わき道を入っていくと
風情のある家屋が見えた。青い暖簾をくぐったら、
たっぷりの笑顔で迎えてくれた。
住居兼店舗の家屋は築八十年という。
梁も柱も見事な太さで風格がある。囲炉裏のある
畳敷きの室内は、まだ、い草の爽やかな匂いがした。
およそ三十畳ほどの広さに対して四人掛けのテーブルが
三つだけ。お客様に、ゆっくり過ごしてもらいたいと
いう気配りだった。テーブルは、長野の職人さんに
お願いして、県産の材木で作ってもらったという。
戸隠産の蕎麦粉だけを使い、汁に使う醤油は松本の
大久保醸造の高級品で、野菜もすべて長野県産の
無農薬。日本酒も長野の地酒をそろえ、
信州そろい踏みの味を提供しているのだった。照明や
活けてある花や花器にも趣きがあり、お二人のお客を
迎える丁寧な気遣いが伝わってくる。室内は、
いろんな作家さんにギャラリーとして使ってもらい、
この日は沖縄の古波津安則さんの絵がいくつか
飾られていた。
蕗の煮物で黒ラベルを空けて、日本酒のあてに
出してもらった米粉の天ぷらは、さっぱりとした
食感でさくさくいけて、幻舞と北光正宗の杯が
すすんでしまった。
合間に蕎麦湯を出してもらったら、とろとろの濃さで、
これもまた酒がすすむあてになるのだった。
使われている器は奥さんの好みのやちむんと
呼ばれる沖縄の焼物で、おおらかな模様に愛嬌がある。
蕎麦は、十割の極細と粗挽きの相盛りで、極細は
まことにきれいな食感で、かたや粗挽きは喉越しに
力があって、どちらもまことに旨い。
蕎麦のつけ汁は旨味がつよく、これまで口にした
蕎麦屋の中でいちばんしっかりした味だった。
素晴らしい。この汁だけで四合飲めるではないか。
佇まいの好い店で温かな笑顔に迎えられ、旨い酒と
蕎麦のひとときに、すっかりくつろいだことだった。

冷や酒やはるばる友の店に居り。






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