2/18 麹町中学校視察②
東京に住む人たちに麹町中学校の話をすると、時にこう言う人がいます。
「あそこは立地が良いから、良い生徒が集まるんだよ」
実際に私が麹町中学校の話をすると数名の方がそうおっしゃっていました。
「立地がいい」
残念ながら、日本の場合、周辺地域の生活水準や世帯収入が教育に大きく関わっていることは確かです。これは、近年、オランダでも囁かれています。
つまり、地域格差や経済格差が教育格差につながっているということです。
しかし、マイクを取り、話し始めた工藤先生は冒頭からこの話題に触れられました。
「私たちの学校の話をすると、"麹町中学校は立地がいい"と言われます」と。
しかし、実際のところ「立地が良い」というのは、それだけその周辺に住む子どもたちに対する保護者からの期待も高い。ということでもある。と。
つまり、高所得で麹町中学校周辺に住むことができるような世帯の保護者は、実は公立中学校ではなく、名門私立中学校を狙っていたりするのだ。と。
日本には"越境"と言って、学区制に従わず、別の地域の公立中学校に進学できる場合がありますが(この規定等は自治体によって異なります)、かつては学校の知名度も高まり、越境入学を認めていた麹町中学校も、今では(いや、これから?)越境入学は認められないのだそうです。
よって、麹町中学校の教育方針や教育活動に惚れ込んだ保護者や生徒は、わざわざ千代田区に引っ越してこなければいけなくなります。
少し話はズレましたが、麹町中学校の周辺にはそもそも"名門私立"を狙うような世帯が多く住んでいるため、麹町中学校に入学してくるその地域の子どもたちというのは、実際のところ「受験に失敗した」生徒たちだそうです。
よって、
「親の期待に応えられなかった」
「自分が1番行きたい中学校に進学できなかった」
「頑張って中学受験の勉強をしたのに、自分には十分な学力がなかった」
など、自己肯定感を低くして入学してくる生徒も少なくない。とおっしゃっていました。
また、それだけではなく、これまで小学校で経験してきたものとは全く違う教育を実践する麹町中学校の校風に慣れてもらうため、少なくとも1年、既存の学習方法や「学校」という概念を作り直すために時間がかかる。とおっしゃっていました。
そして、もちろんその「リハビリ」には生徒との衝突も多い。ということです。
そして、麹町中学校のような自由な校風で、型にはまらない教育方針を打ち出す学校に対して「こんなので良いのか」とこれまでの受験学習経験に基づいた"正論"を振りかざしてくる生徒や保護者も多いようです。
よって、「立地がいい」と言われれば、そうなんだ。と。
しかし、立地が良いから、麹町中学校の教育が先駆的だ。とは違う。と。
その説明に私は大きく頷いていました。
何故なら、その先駆的な教育のデザインは工藤先生を筆頭に、教職員の手腕にかかっているからです。
工藤先生のプレゼンは力強く、しかし優しさに溢れていました。
「特別なことはしていない。対話をしてきたんです」
誰とでも対話を欠かさず、みんなで"子どもたちのための教育って何だろう"これについて、いつもいつも語り合い、議論しあってきた。
その熟成がもたらしたものが、麹町中学校の教育スタイルだったのだと思いました。
壇上でお話される工藤先生の眼差しは真っ直ぐで、
「私は教育が社会を変え、世界を変ると本気で思っている。教育で世界を平和導くことができる。と、心から信じているんです」
とおっしゃっていました。
私は工藤先生のその眼差しに、涙が出そうになっていたのでした。
だって、教育は個人のためではないからです。
もちろん個人から始まるけれど、社会と繋がり、国と繋がり、
そして、教育は世界と繋がっています。
東京にあるたった一つの中学校の校長先生が、
「世界平和のために教育活動をしている」
そうおっしゃっていたのです。
そしてまた、工藤先生自身も海外の教育について色々とご存知であることを知りました。
モンテッソーリ教育や、オランダの教育にも言及されながら、
「じゃあ、日本にとっての良い教育って何なの?」
を模索されているのです。
もう、ガッツリ心を掴まれ、
ずっとずっとPCのキーボードを叩きながら、
そして激しく頷きながら、
工藤先生の話を聞いていたのでした。