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夏休みの一コマ、オランダ南部のヒッピーキャンプより

本来なら、今ごろは東京オリンピックの余韻に浸りながら、日本の食材がぎっしり入ったスーツケースを抱えて、成田空港で最後のお土産ショッピングをしているはずだった。しかし、今年はコロナですべてがキャンセルに。夏休み直前、急遽オランダ国内のバカンス用ハウスを予約しようとあがいたところ、すでに予約はいっぱいで、かろうじて残っている物件も通常の値段の倍以上に跳ね上がっていた。仕方がないので、今年は仕事をしたりしながら、適当に過ごすことにした。

真夏日に盛り上がる罪悪感

こんなに予定のない夏休みは初めてだ。子供たちも夏休みの日本行きがキャンセルになるとひとしきり残念がったが、意外と切り替えは早かった。周りの友達も今年は長期バカンスに行く子が少ないため、中学生の長男は毎日のように友達と約束して、街でフリーランニングの練習をしたり、近所の湖に泳ぎに行ったりして楽しんでいる。

問題は小学生の次男。彼も予定がない日々をゲームとYoutubeで大いに機嫌よく過ごしているのだが、天気のいい日が続くと、罪悪感がムクムクと湧き上がってくる……私の胸に。そして8月7日から12日ぐらいまでの間、オランダ南部では35度超まで気温が上がるとの予報が報じられると、その罪悪感はピークに達した。カーテンを閉め切った家で一日中パソコンに向かう親子の図……いかん!

そんな罪悪感に苦しむ中、友人が助け舟を出してくれた。

「今、Leendeの森の中でバカンスを過ごしています。近いので気軽に遊びに来てね」

ヒッピー風キャンプに漂う「イマジン」の世界

空気がまだ涼しい午前中のうちに出発し、車を14km南に走らせる。高速道路を下りて住宅街を抜けると、いきなりアスファルトでない田舎道になる。土埃を立てながらしばらく車を進めると、その先に友人がバカンスを過ごしている緑豊かな森が広がっていた。

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レセプションは素朴な木の小屋で、湖での水遊びに疲れた子供たちが海水パンツのまま、ここで本を読んだり、スマホを見たりして休憩している。その静かで気だるい雰囲気は、若い頃によく泊まったバックパッカー用の宿を彷彿とさせる。

レセプションでわれわれを出迎えた友人が案内してくれたのは、かなり本格的なテントだった。私は「森の中でバカンス中」と聞いて、勝手に「森の中のバカンスハウス」を想定していたのだが、ここはかなりワイルドなキャンプ場なのだった。みんな、森の中に少しずつ区切られた「敷地」に大小さまざまなテントを張って小さな提灯をぶら下げたり、心地よいデッキチェアを持ってきたりして、快適な空間を作っている。そして、木陰のイスで読書したり、木の間につるしたハンモックに寝そべったり、テラステーブルで家族団らんしたり、芝生の上でワインを飲んだり、思い思いの方法でリラックスしていた。

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友人はキャンプ用の小さなガスコンロで湯を沸かし、お茶を入れてくれた。子供たちは海水パンツに着替えると、早速湖に泳ぎに飛んで行った。森の木陰は驚くほど涼しく、35℃超の猛暑日だということを忘れる。お茶を飲みながら静かな時間が流れる。どこからか、風に乗ってギターの音が聞こえてきた。歌っているのは「イマジン」。このヒッピー的な雰囲気のキャンプに、あまりにもぴったりな選曲だった。

不便なほどリラックスできる

オランダ人はキャンプが大好きで、夏の間、何週間もこうしたキャンプ場でバカンスを過ごす人も多い。しかし、そのキャンプ場の雰囲気は場所によって結構違う。

友人によれば、このキャンプ場は国内さまざまなキャンプ場の中でもかなり原始的。そして、原始的であるほど、集まる人は環境や教育などにおいて「意識高い系」が多いという。ここでは、トイレとシャワーと流し場が使えるのはレセプションの小屋だけ。さらに、スマホの充電やWifi使用もここだけとなっている。「類友」からの口コミ情報で知り得るのか、こういう雰囲気を求めて、オランダ北方などからもヒッピー風の人たちが集まってくる。

いきなり日本語を話せるオランダ人の子供が「コンニチハ!」と日本語で話しかけてきたりして、外国人のわれわれに対する態度も寛容。私の勝手なイメージだが、ここに集まる人たちは左派政党「Groenlinks(緑の党)」を支持し、ベジタリアンまたはビーガンが多く、朝10分ぐらいメディテーションをしているような人たちだ。

一方、私が以前に訪れたことのあるキャンプ場は、スイミングプールやレストランや公園が完備されていて、そこに集まる人もキャラバンにテレビを積んできたりして、普段の生活をそのまま森で再現しているような人も多かった。それはそれで便利で楽しいのだが、真にリラックスできるのは、意外と不便な環境の方なのかもしれない。 

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極めつけは、友人の息子さんが指摘したヒッピー風キャンプの特徴。

「このキャンプ場では、モノがなくならないんだ」

充電するためにレセプション小屋にスマホを置きっぱなしにしても安心だし、流し場に忘れ物をしても、誰かに持っていかれることはないという。日本では普通のことかもしれないが、これはオランダでは驚きの現象なのだ!「オマエのものはオレのもの、オレのものはオレのもの」というがめつさが横行している社会にあって、この牧歌的なコミュニティは実に心休まるものがある。湖で遊ぶ子供たちも、持ってきたゴムボートやサーフボードをみんなで貸しあっていた。

帰りの車の中、私の頭には「イマジン」がリフレインしていた。しかし、「イマジンな世界」はとっても原始的で、不便で、それなりの気合が必要なことは言うまでもない。私たちは自宅ですっかりWifi漬の日々に戻っている。

 

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