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新型コロナウイルス・オランダの風景⑥:規制緩和でゆるゆるの心、根付かぬ手洗い習慣をハイテクでカバー

ニシンの美味しい季節がやってきた。オランダでは塩漬けした生ニシンにみじん切りの玉ねぎをまぶして食べるのが王道の食べ方で、毎週各都市で開かれる青空マーケットに出店している魚屋の前で、みんなニシンにかぶりついている。私もマーケットで野菜や果物を買ったついで、魚屋スタンドでニシンを頼んだ。

マーケットで見た「心の規制緩和」

 「2.5ユーロです。現金?それともデビットカード?」
 店員の若い女性に聞かれ、私は「コロナの緊張感バリバリだった時は、確か現金の取り扱いはなかったような……」と思いつつ、ちょうど小銭があったので現金で支払いを済ませた。

 すると、現金を受け取った若い店員は、お金を触ったその素手で、生ニシンの尻尾をヒョイと持って紙皿に入れてくれた。私は心の中で「!」と思っていたが、とりあえず「尻尾だけだからいいか……」と目をつぶることにした。

 オランダ人のおじさんなどは、尻尾を持ってニシンにかぶりつくので、本当は尻尾だけでも素手で触る…などというのは言語道断なのだが、私は一口大に切ってもらったニシンをオランダの旗たついたつまようじでついて食べた。ニシンは脂がのっていて大変美味しかったのだが、あの尻尾の件がなければ、もっと美味しく食べられたのになあ……と思う。

 「もう、この店で生ニシンを食べるのは止めよう」と思って、ほかの魚屋スタンドをチェックしてみたら、どこも会計と商品を手渡す人が分かれているような感じではない。ビニール手袋をしている魚屋もあるものの、手袋をした手でお金を触っていた。もうコロナ以前の問題である。オランダのマーケットは、どこもずっとこんな感じだったのだ。

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 私は長年オランダに住む間に、衛生観念が少し「オランダ化」してしまって、ここ何年はこうしたことをあまり気にしなくなっていたところ、コロナ騒動で日本人的衛生感覚を取り戻した。

 「お金を触ったら手を洗おう」「外から帰ってきたらまず手洗い」と、小さい頃から刷り込まれてきた我々は、コロナ感染が落ち着いてきていろいろな規制が緩和されようとも、手洗い習慣まで緩めるようなことはない。しかし、オランダ人の「にわか手洗い習慣」は、規制が緩和されると、見事にゆるゆると音を立てて崩れ始めている。

オランダ人の手洗い率はヨーロッパ最低

 まずは下の地図を見てほしい。オンライン飲み会で、友人がシェアしてくれた実に興味深い統計だ。

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 これは、「トイレに入った後、自動的に石鹸で手を洗う人の割合」だ。これによると、オランダは50%と、ヨーロッパで何と最低レベル!他のヨーロッパ諸国に比べると、割ときれい好きが多いような気がしていたので、この結果は結構ショッキングだった。(バルカン半島の手洗い比率がかなり高いのにも驚いた。手洗い率96%のクロアチアはぜひ行ってみたい)

 しかし、他のヨーロッパ諸国との比較では驚きの数値ではあるものの、実際に周りのオランダ人の手洗い習慣をみるにつけ、この「50%」にはかなりうなずけるものがある。

 私はこの秋以降、オランダではコロナの「第2波」が来るとにらんでいる。

「未来のレストラン」を体験

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 手洗い習慣を根付かせることにはあまり成功していないようだが、オランダでは別の方向での感染予防対策が進んでいる。私は先日、街の一角で再開発されているミルク工場跡にできた新しいカフェで、その一端を体験した。

 工場の廃屋のがらんとした空間にテーブル席と、カウンター席やソファ席、そして大きな観葉植物を配したオランダっぽいワイルドな雰囲気のカフェ。友人と私は、陽光が差し込む窓際のテーブル席に座った。

 ウェイターが近づいてきたので、メニューをくれるのかと思いきや、彼は「このQRコードをスマホで読み取って、自分でオーダーしてスマホで決済してください。オーダーは自動的に厨房に送られます」と言って、テーブルの上に立ててある大きなQRコードの札を指さした。私たちは早速、スマホで飲み物を「注文カート」に入れ、アプリのバンキングで決済を済ませると、飲み物が運ばれてくるのを待った。

 しばらくすると、ウェイトレスが飲み物を運んできた。愛想のない女の子だった。私たちはお茶を飲みながらしばらく歓談。そして、帰りに「あ、お会計ももう済んだんだよね!」と言って、そのままがらんとしたカフェを後にした。実に簡単だし、衛生的にもこちらの方が絶対いい。

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 考えてみると、今流行の食品デリバリーサービスなどでは、オーダーから決済まで全部スマホでやっていたのだから、これまでレストランやカフェでこれがなかったのは不思議なぐらいだ。リモートワーク然り、「今までどうしてこれができなかったんだろう?」ということが、コロナで一気に可能になっている。こういうレストランの形は、これからきっとスタンダードになっていくのだろう。

 私と友人は、「ついでにあのウェイトレスもロボットに置き換えられるよね」と話した。愛想の悪い彼女よりも、『スターウォーズ』の「BB-8」みたいなかわいい子が運んできてくれる方が楽しいかもしれない。そして厨房も自動化されて、有名シェフの味覚を反映したプログラミングで、ぶれのないハイクオリティの料理を毎回楽しめるようになると、もうオランダ人の辛すぎる塩加減に悩まされることもない。

 私たちは未来のレストランに大いに期待して、旧ミルク工場を後にした。


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