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オランダの国王誕生日、愛される王室はパン食い競争をする。

去る4月27日は、オランダの「国王の日」だった。この日は毎年、ロイヤルファミリーが国内のある都市を訪れ、そこで市民の歓迎を受けるというのが恒例だったが、コロナの影響で昨年からはオンラインに移行。今年は私が住む街、オランダ南部のEindhoven(アイントホーフェン市)に国王一家がやってきたのだが、これも残念ながら市民は直接見ることができず、オンラインでの視聴となった。

ノスタルジックなDAF乗用車

ロイヤルファミリーを迎える会場となったのは、アイントホーフェン南部にある「ハイテク・キャンパス」。ここは「1平方キロメートルあたり世界一スマート」というちょっとスノッブな枕詞のついたところで、同市が誇る最先端の研究所やハイテク企業が結集している。

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朝の11時ぴったりに、国王ウィレム・アレキサンダーと長女のアマリアが乗ったレトロな「DAF Kini」がゆっくりと入場してきた。これは55年前の車で、当時のベアトリクス女王が夏のバカンスに使っていたという。当時小さかったウィレム・アレキサンダーもこの車に乗ってバカンスを過ごした写真が残っている。座席が藤でできており、何ともクラシックでノスタルジックな車なのだ。「DAF」はEindhovenを拠点とするトラックメーカーだが、以前はこんなかわいい乗用車も作っていた。今は乗用車が生産されていないのが残念だ。

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このレトロな車の後ろには、アイントホーフェン工科大学が開発した最新のソーラーカー「Lightyear One」が続いた。ここにはマキシマ王妃と次女のアレクシア、三女のアリアナが乗車。マキシマは後で、「前の車を追い越したくてうずうずした!」と冗談を言っていた。

ハイテク、イノベーション、ダイバーシティ

その後、国王一家はアイントホーフェンのジョン・ヨリスマ市長の案内でハイテク・キャンパスの建物内へ(屋内に入る前にはちゃんと手を消毒して、マスクをしていた)。まずはTVのトークショーみたいに丸いテーブルについて、アイントホーフェン発のテクノロジーやデザイン、カルチャーについての市民のプレゼンテーションを受け、直接親しく質問などしていた。ここでは盲目の人が開発した「人の表情を読み取って振動で伝えるメガネ」などが紹介されていたほか、年齢、人種などもバランスよく人選されており、さすがに「ダイバーシティ」を意識しているのが今っぽかった。

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続いて、アイントホーフェンとその周辺に住む4家族をオンラインで中継し、ロイヤルファミリーとの「ご当地クイズ」対決。この地方の代表的なホッケー選手やミシュラン星付きレストランのオーナーなどのファミリーが選ばれていた。「〇〇市の人口は何人でしょう?」「〇〇自然保護地区の自転車道路は総長何キロメートル?」などといったクイズだったが、ご当地ファミリーを出し抜いて、ロイヤルファミリーが首位となった。

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国王の娘3人はティーンエイジャー

その後もプログラムは続き、若者の音楽が演奏されたり、フリーランニングのデモンストレーションがあったり、ドローンと人間が共演する前衛的なダンスが披露されたり。国王一家がコンピューターゲームでカーレーシングを楽しむ場面もあった。

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こんな風に、「国王の日」は「庶民的でフレンドリーな王室」がアピールされる日だ。今年のアイントホーフェン版もオンラインながら、親しみやすい王室をアピールできたと思う。ただ、国王の娘3人はそれぞれ17歳、15歳、14歳で、ティーンエイジャー独特のちょっと面倒くさそうな感じが印象的だった。さすがに長女のアマリアはいずれ王位を継承し、女王となる身なのできちんと受け答えなどしているが、次女アレクシアはかなりかったるそうな印象。難しいお年頃である。

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これまではプリンセス3人が記者のインタビューに答えることはあまりなかったのだが、今回は3人への直接の質問が目立った。アマリアはもうすぐ18歳(成人)になることについての質問に対し、「その前に高校の卒業試験があるから、今はそれに集中している。まだ18歳になることは遠く感じられる」と答えていた。今月中旬、プリンセスにも卒業試験の厳しい試練が待ち構えている。そして今年12月に18歳になったら公務に就くことになる。

彼女は卒業試験に合格すれば、大学に進学する資格を得るが、すぐに大学には行かず、「Tussenjaar(ギャップイヤー)」を楽しみたい意向を示した。このギャップイヤーの間に世界を旅したり、企業でインターンをしたり、「20年後にはできないこと」をやりたいという。つまり、ちょっとぶらぶらしたいということだ。マキシマ王妃はすかさず、「コロナの状況にもよりますね」とフォローを入れていた。

一方、次女のアレクシアは将来のプランを聞かれ、「まだ分からないけど、私は自分の興味のある仕事をしたい」との抱負を述べていた。TVのコメンテーターはこれについて、「アマリアの職業がすでに決まっているのに対して、アレクシアが自分の好きなことを仕事にしたいと言っていたのが印象的だった。アマリアはちょっとかわいそう」とコメントしていた。

国王は触れなければならない。

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現在のウィレム・アレキサンダーが国王になってから8年。国民の信頼度はこのところ残念ながら下がっている。オランダ放送協会(NOS)がIpsosに依頼して行った調査によると、2020年4月時点で76%だった国民の支持率は、2021年4月には57%に低下している。昨年秋、コロナ禍で国民が旅行を自粛しているなかで、国王一家がギリシャの別荘に出かけたことが尾を引いているのだ。2020年12月時点の47%からは少し回復しているものの、まだ国民の不信感はぬぐえきれていない。

NOSは、コロナ禍でイベントなどがすべてオンラインとなり、国王の姿を目にする機会が減ったことも少なからず影響を及ぼしていると分析している。コロナ以前は、国王夫妻が直接国民と握手をして、花束を受け取り、言葉を掛け合っていたほか、マキシマがパン食い競争で口をパクパクさせたり、国王の従弟がターザンみたいに綱にぶら下がる姿を直接見て、ロイヤルファミリーへの親しみを強めてきた。それに比べると、オンラインではどうしても生身の姿が見られず、国王一家との距離が開いてしまう。テレビのコメンテーターは、「国王は手で触れられる存在でなければならない」と言っていた。まるでヤギ農園のヤギのようだが、触れる国王であることが大事なようだ。

オランダ国王の年収は約600万ユーロ(7億9000万円)。所得税はこれまでのところ課されておらず、現在、国民の議論の的になっている。また、アマリアが18歳で160万ユーロ(約2億1000万円)の収入を得ることについても、「高すぎるのではないか」との見方が出ている。しかし、彼らはこれだけ自由な国にあっても、職業や結婚相手を自由に選べないという制約の中で生きている。生まれながらにして国民の心を一つにまとめるという重要な任務を負うことを思えば、それは妥当な値段なのかもしれない。

10歳になる私の息子は「国王の日」の一連の動きを見て、「なぜ国王だけがこんなに盛大に誕生日を祝うのか?」と、疑問を投げかけた。素朴だが、なかなかに深い質問だ。SDGs(持続可能な開発目標)の中で育ち、平等や多様性を重視する若い世代が大人になる頃、もしかしたら王室の伝統自体が本格的に見直されることになるのかもしれない。



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