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ダッチ・デザイン・ウィーク2024年を振り返る。テーマ「現実と非現実(Real Unreal)」でAIが活躍

1年が経つとはなんと早いんでしょう!もう「ダッチ・デザイン・ウィーク(DDW)」がやってきて、終わりました。毎年オランダ南部のアイントホーフェン市で開かれるデザインの祭典です。年々規模が拡大し、今年はなんと世界各地から2,600人のデザイナーが出展。10月19~27日まで約1週間、市内110カ所で作品が展示されました。

今年もその内容は実に豊富。建築や家具、自動車、小物、食品など、さまざまなプロダクトデザインからデジタルデザイン、都市や自然のデザイン、社会的コンセプトまで、実に幅広いデザインの数々が見られました。

メイン会場「Strijp-S」の広場にそびえていた「Temple of Peace(平和寺院)」。アーティストと難民たちが協力し、平和のシンボルを集めて作られました。

「これ、去年も見たぞ」という作品がそこここで見られましたが、今年の特徴としては、AIをテーマとした作品が目立ったこと。今年のテーマは『Real Unreal(現実と非現実)』でしたが、これも昨今のAI技術の進化を反映したものと思われます。

AIと共に生きる。

まずはAIを使って生成した作品が多く見られました。音楽や詩、ミュージックビデオやドキュメンタリーなど、そのクオリティの高さにはびっくり!音楽など、過去にヒットした曲からAIがいろいろ学んで作ったんでしょうが、グッとくるコード変化とかがあって、上手いんだな、これが!

POPデュオ「YACHT」の作品が生成ビデオとともに10本紹介された。YACHTはAIなどのテクノロジーを使って創造的な実験を続けている。

ミュージックビデオについては、アメリカのシンガーソングライター、Washed Outの「The Hardest Part」などが紹介されていました。これは、AIを使って生成されたパイオニア的作品で、その出来の良さから「もう映像アーティストは要らない?」との議論も巻き起こったそうです。しかし、監督のPaul Trilloさんは権威ある賞を受賞したということで、やっぱり評価されているのは人間の企画・監督力なのです。

Trillo監督は長いプロンプトを書いて、AIに230本の短い動画を作らせて、それを4分に編集したそうです。

AIにどのようなプロンプトを書けば、どのような結果が生まれるのか?ということを来場者に体験させるコーナーもありました。ここでは、自分が好きな人物像をテキストで書くと、それをAIが写真で描き出してくれるというもの。「背が高くて礼儀正しく、赤毛で大きなスマイルの女性」という具合に、外見だけでなく性格も書き込むと、よりそれっぽい人物像ができる。

来場者がAIに生成させた人物像が壁に張り出されました。

ほかにもAI関連の展示はたくさんありました。『Unprinted』というオンラインメディアで、その一部をご紹介させていただきました。こちらも是非ご笑覧ください!

現実か、非現実か?「没入型」体験も

AIのほかにイマーシブな(没入型)作品も今年のテーマならでは。うちの近所の元ミルク工場があった跡地で体験できました。

元ミルク工場の敷地。今、再開発が進んでいて、ここには住宅・アート・モビリティが一体化する複合施設ができる予定。今のワイルドさがちょっと好きなので、これがすべてモダンな感じになると、ちょっと寂しい気も…。DDWの会場の1つです。
「Eigengrau Pavilion」というZalan Szakacsさんの作品

このミルク工場跡地に忽然と現れたのは、大きな黒いドーム。中に入ると、真っ暗闇にスモークが立ち込める中、円状の光がグルグル回ったり、色を変えたりしながら光っています。ずーっと眺めていると、ちょっとトランス状態に……!光、音、匂い、動きといった感覚を通じて、観客はリアリティとフィクションの間を彷徨います。

「Eigengrau Pavilion」の中で動く光の環。アーティストのZalan Szakacsさんは、空間、身体、テクノロジーの関係を探索している。

このミルク工場で、以前アイスクリームが保管されていたという、「Koelhuis(クールハウス)」の1階では、イヤホンを付けて巡るイマーシブな「カーニバルの歴史」が楽しめました。来場者が所定の場所に立ち止まると、それに合わせたオーディオが聞こえます。

オランダのミュージアムや大学が集まるメディア・アート集団「Dropstuff Media」によるイマーシブなオーディオツアー「Fiera del Suono」

このクールハウスの地下室では、この地下に溜まった水に光を反射させてつくり出した作品も見られました。光が向こうからやってきたかと思うと、次には自分から遠ざかっていく……SF映画の中にいるような、イマーシブな体験が得られました!

現代アーティストRobin Beekmanさんの「Depth Array-Reflections」の没入型作品。今、いる世界が現実なのか、非現実なのか…本当に分からなくなる!

「サステイナブル」はもはやデフォルト

AIや没入型が多く見られた今年のDDWですが、もちろん従来型のデザイン作品もたくさんあります。特に「持続可能(サステイナブル)」な製品やサービスを追求したものはたいへん多く、もうこのイベントを「SDW(サステイナブル・デザイン・ウィーク)」としてもいいぐらいです。

これは何でしょう?……答えは靴です!
見かけの奇抜さ、がめつさに反して、意外にも100%リサイクル可能。普通の靴は約62個の部分から成りたち、それらは糊や縫製でくっつけられているそうですが、完全デジタルでデザインされたというこの「SPN-TEC」シリーズの靴は、糊や縫製を使わず、解体が簡単で、汚染材料を使っていません。

アムステルダム拠点の「SNIAP」がデザインする、100%リサイクル可能な靴シリーズ「SPN-TEC」

それぞれの靴には「デジタルパスポート」が付いており、そこには素材の原産地から製品が排出した廃棄物の情報のほか、3Dプリントのファイルが含まれています。靴が壊れた際にも、3Dプリンターで部品を作って修理できる仕組みになっているのだそうです。

XPENGは2014年に設立され、2021年からEUで事業展開。フォルクスワーゲンが出資している。

自動車も毎年出展されます。今年は中国発の電気自動車「XPENG(どう発音するのか?!)」がキャッチーな感じにフィーチャーされていました。この車は今年のDDW会場間を走る無料タクシーにも使用されていました。

クリーンエネルギーを使った電力会社「VATTENFALL」社による風力発電機のリサイクルプロジェクト

風力発電機をリサイクルする「タイニーハウス・プロジェクト」も展示されていました。風力発電は「クリーンエネルギー」としてオランダでも開発が進んでおりますが、巨大な風力タービンが寿命(約25年だそうです)を迎えた後はどうすればいいのか…?支柱(タワー)は鉄として再利用ができますが、問題となっているのは、再生が難しい素材を利用した羽根の後ろの部分(ナセル:下の図参照)。

それを小さな家にしちゃえば?というのがこのプロジェクトです。中は台所やトイレ・シャワーもあって、約35平米。住宅不足が深刻化するオランダで風力発電機の廃棄物を再利用すれば、2つの問題が一気に解決するという秀逸なアイデアです。

タイニーハウスの内装。狭いけど、生活に必要なものはすべてそろっている。

昨年に引き続き、「自然の力を利用する」といった発想も多く見られました。雨水を有効利用して循環させるための建築デザインや、地元の作物を利用したバイオ素材の建材などが模索されています。

バイオ素材として昨年に引き続きキノコをそこここで見かけましたが、これに加えて今年は海藻がトレンドになっていました。オランダ人ガイドの1人は、「海藻を食品に利用するプロジェクトもあるんですよ!」と得意気に説明。日本人としては当たり前すぎて逆に驚きましたが、彼らは海藻をそのまま食べるのではなく、一度固形の食品に加工して食べる方法を考案していました。

海藻から作られたプラスチックのような素材でできたランプ

自然の営みに耳を傾ける作品もありました。これはユトレヒトをベースに活躍する日本人アーティストの池谷宥太さんの作品「Metamorphonic」。桑の葉を食む蚕が、葉っぱに据えられた金属ワイヤに触れる度にセンサーが働き、それが音声となってイヤホンに送信されます。蚕がもぞもぞと動く姿を見ながら、蚕が奏でる不思議な音楽に耳を傾けると、時間が経つのを忘れます。

こういう虫、実は大の苦手なのですが、こういうシチュエーションで見ると、なかなか風雅なものよのお。

インテリア業界もサステイナブルを模索しています。こちらは着せ替え人形みたいにカバーを変えられる椅子。これを見たインテリアデザイナーは、「この脱がせかけみたいなディスプレイがかわいい!」とコメントしていました。確かに、小さい子がお着換えしているみたいな印象ですね。

デザインに飽きたら、カバーを変えて衣替え

こちら(↓)はアムステルダム出身のアーティスト、キース・デッカーズさんの「No Waste Chair」。100%リサイクルのアクリル素材で作られた椅⼦の枠組みに、空き缶やペットボトルの蓋などを封じ込めたもの。シンプルなアイデアだけど、意外と誰も思いつかなかったインパクトのあるデザインです。ここには展示されていませんでしたが、ほかにもタバコの吸い殻、木材チップ、香水の瓶などの廃棄物を入れたものが作られたそうです。

ユトレヒトのセントラル・ミュージアムやオランダ王室のノールダインデ宮殿にも収蔵されているというこの椅子は、個人でも購入可能。要らなくなった子どものオモチャを思い出として椅子にしてしまうというアイデアも!もちろん、この椅子はちゃんと座ることができます。商品の詳細はこちら

サブスクリプション型⾃転⾞サービスの最⼤⼿「スワップ・フィッツ」や化粧品小売店の「ICI PARIS XL」などと企業コラボレーションも

これ(↓)は本物の卵の殻を利用した電球……かわいい!

右端の卵は殻がぼこぼこで、卵としては「欠陥商品」だったもの。ランプになると、装飾模様がきれいな希少品として価値が高まる。
「Eilanp(卵ランプ)」のショップ。DDW特別価格で、卵ランプはひとつ29ユーロ。卵ケースをかたどったセラミックの台とセットで99ユーロ。

そしてサステイナブルの最後にご紹介したいのがこの人、Eibert Draismaさんの作品。大人気デザイナーのPiet Hein Eek(ピート・ハイン・エイク)のショップ片隅にちょこんと座って、ペンチで細かい作業をしておりました。

「使い終わったバッテリーの電力は完全にゼロじゃないって知ってた?」と、Draismaさん

彼が作っているのは、使い捨てされた電池でランプがピコピコ点滅する小さなオブジェたち。使い捨てバッテリーのわずかな残り電力でも1年半ぐらいランプがピコピコ点滅するのだそうです。

古いバッテリーの残り電力を使って、最後まで楽しもう!オブジェは20ユーロから。

素敵インテリアの数々

いっぱい紹介したい作品があるので、インテリアはさっと行きます。
デザイナーデュオ、Kiki & Joostさんのアトリエ兼ショップ。

工房裏手にある中庭が素敵

デザイナー集団の「isola」によるインテリアの展覧会

この棚にはイスが2脚隠れているよ!
金属を切って折り曲げるタイプのインテリアは結構トレンドのようでした。Flatflatによる「FlatFlat」
Apol Objectsによるランプ「Interferences」
Shepherd Studioによる「Tila Chair」
韓国人インテリアデザイナーのSo-Myeong Leeさんも頑張っています。isolaの作品紹介はここまで。
インテリアデザイン会社「Mokko」の椅子。左のランプはコーンスターチを使ったバイオ素材でできており、いろんな形のものを重ねて使うことができる。
天井を這う植物のようなAPTUMのランプ「Light Forest」

コミュニケーションをデザインする

まだまだあるよ、DDW!次は社会問題に焦点を当てた作品を見てみましょう。

以下は「Meaningful encounters(意味のある出会い)」と名付けられたパビリオン。中で何が起こるのか、好奇心にあふれた人々で毎日列ができていました。

社会問題を専門とするデザインエージェンシー「Muzus」による「Meaningful encounters(意味のある出会い)」

私も並んでみました。順番が来てドアの中に入ると、部屋の真ん中には仕切りがあり、そこに手を出すスペースがあります。そこに手を入れて仕切りの向こうの見知らぬ人と握手。「ハロー」と挨拶から始まり、「どこから来たの?」「DDWは初めてですか?」とか、ちょっとした会話が始まります。

気が向けば、職員の導きでそのまま部屋の外のちょっとしたコミュニケーションスペースで対面することができます。(あまり気が進まなければ、その場で顔を見ずに別れる人もいるのかもしれません。)私のお相手はトルコ人とオランダ人のハーフの女性(たぶん30代ぐらい)で、北部フリースラントからはるばるDDWを見に泊りがけでアイントホーフェンに来たのだとか。ご主人がデザイナーで、受刑者が刑期を終えて社会復帰するためのデザインを考案しているのだそうです。短い会話でも十分に興味深い!私たちはDDWのおススメをそれぞれ紹介し合い、インスタをフォローし合って別れたのでした。

こんな感じでさらっとした会話とゆるーい繋がりでKeep in Touchの人が多いのでしょうが、中には付き合い始めて結婚とかしちゃう人もいたりして…!偶然の出会いを強制的に作り出す、面白い試みでした。

ギブ・ショップのカウンター。ソーシャルデザイナーFides Lapidairさんの作品

メイン会場の「Klokgebouw(クロックヘボウ)」内では、「寄付が社会に何をもたらすかを示す「Give Shop」というお店が展開されていました。ショップ内に設けられたフリーカードに自分が「与えられるもの」を記して、任意で連絡先も書いて、カウンターのポストに投函します。そして、その見返りにほかの人が書いたカードをランダムに受け取ることができるというものです。

Giveカードを投函した後は、ほかの人のカードをTakeすることができます。なにが出るかな…?

私はカードに「すべてはうまくいくよ!」というメッセージを書き、「ポジティブエネルギー」をGiveしました。一方、私が受け取ったカードには「う〇こ」の絵が描いてあり、「忙しい生物学者」からのメッセージが。字が汚くて全部読み取れなかったのですが、「他人に対して我慢強くなれ」というようなことが書いてありました。はい、そうしますです。

作品の前に立つギリシャ人アーティストのNikos Karpouzasさん

「Microlab(マイクロラボ)」という会場では、Nikos Karpouzasさんの「Just for Holding Hands(手を握るだけで)」が話題を呼んでいました。彼は自分がボーイフレンドと手を繋いで歩いていると、周りの人から注目されたり、笑われたりした体験から、この作品を作ったそうです。毛糸を編んで作ったこのオブジェの中に入ると、天井からボクサーのグローブみたいなものがぶら下がっています。

ニットオブジェの天井からぶら下がっている手。ニットの中は、外から遮断されていて安心感があるが、手を引っ張ると、ニットの壁がグイッと上に上がる仕組みになっている。

その手を掴んでグイッと下に引っ張ると、これまで自分の周りを蔽っていたニットの壁が上に持ち上がり、自分の姿が世間に丸見えになってしまうというもの。手を握っただけで、こんなに周りの目を意識するなんて……。ゲイカップルの気持ちを身をもって体験することで、よりシンパシーを感じられるようになる。Nikosさんは、言葉でなく、体験でこれを伝えたかったそうです。

いきなり息子の写真が大きなパネルになっていてびっくり!

今年のDDWには、なんと我が息子も参加。アイントホーフェン市の若者がどんな生活を送っているかを写真でレポートするというものです。会場は息子がいつもパルクール(フリーラン)を練習しているトレーニング場でした。地味な会場で、ほとんど人が来ていません。

息子が撮ったフリーラン仲間の写真とコメント。「みんなと一緒にトレーニングするだけで、お互いすごくたくさんのことを学び合う」

10人ほどのティーンエイジャーによるこのレポートは、アイントホーフェン市長にも報告され、若者に必要な「場」の提供を市が考える際の参考にされるとのことです。こういうオランダの地域内コミュニケーションはホントにすごくて、若者たちの要望がすぐに市の計画に反映されたりします。

さて、コミュニケーションをデザインするということでは、日本人デザイナーも頑張っていました。センター街からちょっと離れた「Sectie-C(オランダ語で発音すると「セクシー・セー」)」に行ってみましょう!

いつもChillな雰囲気の「セクシー・セー」

こちらはコミュニケーション・デザインの会社、博展の「Experiential Design Labによる抹茶をテーマとした展示です。昔、抹茶の運搬に使われていた古い茶箱で作った椅子や、抹茶づくりに使われるさまざまな道具を使って茶箱にかぶせる蓋を展示しておりました。その静かな「和」の世界にオランダ人も興味深々!多くの人がこのブースを訪れていました。

茶摘みに使われるカゴやお茶屋さんの前掛けなど、抹茶に関わる道具から作られた茶箱の蓋。この蓋を取ると、抹茶に関する説明書きが現れます。

京都の山政小山園の高級抹茶も惜しみなく振舞われました!薫り高く、甘みのあるふわふわしたお茶に、みんな癒されておりました。

山政小山園のお茶は、パリなどにも出荷されているそうです。

同じく「Sectie-C」に出展していた日本人の発明家、高橋鴻介さんはゲームを通じてインクルーシブなコミュニケーションをつくり出しています。彼がデザインしたゲームのひとつは、4人が手を使って遊ぶ「LINKAGE」。カードの指示に従って、割りばしのような木の棒を2人の指で支える協力型バランスゲームです。

他人の指と自分の指で棒を支えてバランスを取ります。相手と棒をちょうどいい具合に押し合わなければ棒は外れてたちまち全体のバランスが崩れてしまう。

私もやってみたところ、シンプルだけど、難しい!見知らぬ人ともめっちゃ真剣に協力体制に入れて、とても面白い体験でした。言葉や年齢を超えて楽しめるインクルーシブなゲームです。ほかにも、表面に立体的な模様のついた小さなカードを目隠ししながら手で触れて、2つずつ同じ模様のついたカードをペアにしていく感覚系ゲームもありました。

「ビッグブラザー」への警告

「ソーシャル系」の作品では、デジタル社会に警鐘を鳴らす作品もいくつか見られました。

インテリアデザイナーが集う先ほどの「isola」の展示場で異色を放っていtのは、Junghoon Kooさんの作品「パノプティシズム(Panopticism)」。パノプティシズムは、哲学者ミシェル・フーコーが1975年の著書『監獄の誕生』(Discipline and Punish)で提唱した社会理論で、彼は現代社会で「いつでも監視されているかもしれない」という意識が、人々に自発的に行動を制御させるメカニズムを生み出していると説明しています。

男性はひたすらパソコンに向かって何かをタイピングしている。その手首に取り付けられた鉛筆は、紙にそのトレースを残す。そして彼の姿は、背後に設置された鏡にも映されている。

ここでは、男性がパソコンで熱心に何かをタイピングしていますが、その手首につけられた鉛筆が紙にトレースを描いています。こんな風に、私たちがタイピングしたものは、どこかでトレースとして残る。そして、私たちの行動は、「ビッグブラザー」に監視されているのだ!

ミシェル・フーコーの著書『監獄の誕生』とともに、アーティストのJunghoon Kooさん

私が毎年楽しみにしている「VEEM」という建物の8階で展開される「Manifestatie(マニフェスト:発現)」という展覧会でも似たようなメッセージを見かけました。下は、ロッテルダムの美大出身のJeroen Icksさんの「You Are the Product(あなたは商品だ)」という作品。

あなたは商品だ。

人がスマホを見ながら座っている形にかたどられた箱です。

「公園やバス停など、いたるところで私たちはスマホをいじっているけど、そのデータが盗まれていて、売買されていることには気づいていませんよね。これってデジタルの世界で起きている人身売買です。だから、人が商品になっていることを意識するためにこれを作りました」と、Jeroenさんは説明してくれました。

私は好奇心にかられ、実際に中に入ってみました。すると、物見高い人たちが私の前に集まってきました。私は確かに、自分が「商品」となっていることを意識したのでした。

スマホを持って、自分が中に入っている写真を撮れなかった…ううっ。

私が選んだ今年のDDW大賞は…?

もりだくさんなDDW、アートよりのちょっとぶっ飛んだ作品を見たければ、やはり学生さんの卒業展がおススメです。地元の「デザイン・アカデミー・アイントホーフェン(DAE)」の卒展は今年も盛況でした。

今年はアイントホーフェンの駅からすぐ近くの「Microstad」というちょっとワイルドな複合施設で開催されたDAE。
小さなトーストでできた家。ちょっとワクワクする!「標準化されたパンとレンガが私たちの工業化された習慣を反映している」などとまじめくさった説明があるけど、これ、単純に作ってみたかったのではないかな?
美しい曲線の遊具。デザイナー自身なのか、彼がこれを使って美しく舞う姿が印象的でした。看板には「自己責任で遊んでください」と書いてあった。
不思議な音楽を背景に、詩を朗読(?)している人も。この一角だけスピリチャルな雰囲気に

DAE以外で、国内外の美大生の卒業作品は、「Klokgebouw(クロックヘボウ)」で見られます。下の写真はAthina Botonakiさんの作品。自分で書いたSF小説「Far From It」を体現するセッティングを作ったといいます。小説は、地球をズームアウトして遠くから「懐かしい家」として眺めることを試みたものだとか。

自分の部屋の再現も、ストーリーによっては作品に昇華される?!

美大の卒展ではないけれど、オランダ・デルフト大学の「更年期障害に関するコミュニケーションの研究」はちょっとぶっ飛んでいました。

下のパネルは、「何歳ごろから更年期の影響を感じたか?」という質問に、来場者が丸いシールを貼るというもの。紫の丸は身体的な影響、黄色はメンタルの影響、赤はソーシャルな影響を表わしており、〇の大きさがその程度を表わしています。そして、開いた口のシールは「更年期障害のことをオープンに話せた」、閉じた口の前に指を置いているマークは「更年期障害について人に話せない」ということを表わします。

50歳前後で更年期による身体やメンタルへの影響を感じている人が多い。

この調査の近くには、穴の開いたボックスがおいてありました。その穴を覗いて見ると……、そこには「更年期障害の世界」が広がっていた!

ファンキーな色の毛糸と、キラキラしたテープと、もしゃもしゃした紐で表現された「更年期障害の世界」

たしかに、更年期障害は暑苦しくて、違和感があって、そしてちょっとファンキーなのです(経験者は語る)。しかし、大真面目な調査と、このオブジェのトーンのギャップには少々驚かされました。

さて、いよいよ終盤。私のお気に入りの「Manifestatie」展覧会に戻ります。
ここでひときわ目を引いたのは、生成AIを使って作られた映像(↓)

インスタアーティスト、Marc Tudiscoさんの作品「Project Human」。現実か、非現実か?
人体改造の世界にしばし見入ってしまいました。
カラフルなオブジェを作っているIekeliene Stangeさんの作品「Splitter Splatter」。自然と儀式にインスピレーションを得て、音楽、衣装、ビデオ、陶器を融合したカラフルな作品をつくっている。

「Manifestatie」の今年のテーマは、「見たくないものに目を向ける」というもので、安易に捉えられている中国からの養子問題、幼い女子へのセクハラ問題、ホームレス問題など、私たちが無視しがちな社会問題にスポットライトが当てられておりました。

An Ye Zhi de Jongさんの「De Afhaal Chinees(中国人テイクアウト)」という作品。テイクアウト用の紙袋に中国人の赤ちゃんが…。メニューもいろいろ用意されています。

これはユトレヒトの美大出身のTom Haakmanさんの作品「Mary's Digital Embrace(マリアのデジタル抱擁)」。伝統とテクノロジーの融合で、われわれの精神的遺産を再構築する。

マリア様のピクセルが粗く、ガジガジしている!

こ…これは!大きなサボテンの上に水がたっぷり入ったビニール袋がぶら下がっています。これはAbel Kampさんの「Growth(成長)」という作品。経済や社会の成長と個人の成長のバランスを表わしたそうです。経済・社会の成長が速すぎると……分かりやすく、インパクトのある作品ですね。

この作品はかなり注目を集めていて、多くの人がこの前で写真を撮っていました。

そして、もうひとつAbel Kampさんの作品を。これはなんと、コースターで作った「自分の棺桶」だそうです。

アベルさんの「Grafkist(棺桶)」

彼が死んだら、バーで友達とビールを飲んだ思い出とともにこの棺桶に入ると決めているのだそう。オランダでも誰かが亡くなると、遺族が友人や親族、知人などに送る「訃報カード」がありますが、これももう自分で作ってあり、あとは死亡年月日を入れるだけ。

自分でつくった訃報カード。「他人の無責任な楽しみの中で安らぐ」と書いてある。みんなが飲んだビールのコースターの中で眠る……。

それにしても弱冠25歳のアベルさん、どうして自分の棺桶なんて作ったんだろう?会場にいた彼に直接聞いてみたところ、彼はこれを作ることで死についてオープンに語ることを目指したといいます。

「DDWにもこんなにたくさんの人が来ているけど、ここにいる全員に共通していることって、みんないつかは死ぬってことじゃない?

みんなが避けて話したがらないことにユーモアを交えながらスポットライトを当てている。これは秀逸だ!実際、私とアベルさんは会場で出会ったばかりなのに、死についてかなり深い話で盛り上がったのでした。

というわけで、私が勝手に選ぶ今年のDDW大賞は、アベルさんの「Grafkist(棺桶)」に決定です。おめでとうございまーす!!

気が付けば1万字を超えてしまった今年のDDWレポート。しかし、作品はまだまだまだまだたくさんあって、私が見たすべても紹介しきれていないし、すべてを見られたわけでもありません。機会があれば、ぜひこの時期にEindhovenに足を運んでみてください。盛りだくさんな1週間を過ごせること請け合いです。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。


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