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じっと押し入れを見上げる母
週2日実家に通っている。車椅子か歩行器を使わないと移動出来ない母と、杖歩行の父の身の回りの手伝いをしているから。職場の休みはわりと多いけれど、その度実家へ行くのもアラフィフの身体は、まあきついのだ。
週1日、ふたりの風呂入れを手伝う。父はひとりで入れるから、見守りだけで良いけれど、母は車椅子から風呂の椅子への移動時、洗髪、背中や足を洗う時に人の助けがいる。当然、風呂の湯船に入るのにも。
こんな時、ヘルパーの資格を取ってて良かったー!って思うんだ。仕事にも繋がるし、日常生活にも役立つからね。好きだからしている仕事では無いけれど、何かと役立つ資格だし、需要がある仕事なのだよ。
先週は入浴介助の後、2階の掃除をした。2世帯住宅仕様になっている2階はしばらく閉めっぱなしだったので、畳が見事にカビだらけ!汗だくになりながらクイックルワイパーで何度も畳を擦る。カビのせいで肺を痛めて咳き込んでも、この時期イヤだな〜など思いながら作業をしていた。
洗濯も終わり、さあ帰ろう、今日は疲れた、そう思っていると、母が押し入れの前でぶつぶつ言っている。開け放たれた押し入れは問答無用に布団が詰め込まれていて、しかも湿った臭いがする。「どうにかしないと」と母。
ちょっとまった!どうにかって、母がどうにも出来るわけでもなく「どうにかしないと」と呪文のように繰り返す呟きは、もはや脅迫と一緒なのだ。はぁ〜っ?私にやれっていうの?!しかも、このタイミングで?!
もちろん、そそくさとお暇しましたよ。疲れきっていたから。そして週末。この日は病院で薬をもらい買い物する短時間の約束だったけれど、帰る間際、母はまた押し入れの前で呪文を唱え出した。「どうにかしないと…どうにかしないと…」もはや黒魔術。思い通りに動かしたいのだ。
「今度、時間を作って押し入れの整理をしてくれない?」と普通に頼めばいいのに、自発的に「私に任せてお母さん」と言わせたいのが母という人。昔からはっきり言わず、思い通りに子どもを動かそうとする癖がある。今でいう匂わせ?う〜ん、ちょっと違うか。
それでも、死ぬ前の断捨離、終活を見据えて、こざっぱりしようとする思いはわかるから、文句を言いながらも次回は布団の整理と処分を汗だくでするのだろう。まんまと魔術にハマった感が悔しいが、我慢するしかないな。
もう、母は少ない時間を見据えているから。家の権利書や保険証書の場所を、大切な保管場所を教えてくれたんだ。聞かないと、いざという時困ると解ってても、どうしてもこちらからは聞けなかった。
それにしても、退院したてはオムツ交換まで手伝っていたのに、今ではトイレにもひとりで行って、支えなしで立って、なんだか復活してきてるんじゃないかい?代わりにひとり暮らしで気を張っていた父が安心して、覇気が無くなった感じがするよ。
父の生気を吸って元気になっていく母。
やっぱり、黒魔術使ってるんじゃないかい?!