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圧倒的なモーツァルトの音楽の力〜【Opera】仙台オペラ協会第45回記念公演『魔笛』
仙台オペラ協会は1976年発足の老舗団体で、今回は45回目の記念公演に『魔笛』が上演された(本当は去年の予定だったがコロナ禍のため今年に延期)。久しぶりに読み替えも現代的解釈もない、いわゆる伝統的な『魔笛』を観た。で、そういう演出を観るとやはり一番強烈に感じるのが、「ザラストロは完全に新興宗教の教祖様」だということ(苦笑)。今回の演出(藤野祐一)では、第2幕冒頭ザラストロと僧侶たちのシーンで、3回ファンファーレが鳴る時に手で三角形を作る(もちろんこれはフリーメーソンを意識)動作があり、もうこれは完全に「宗教法人ザラストロ」にしか見えない。心の中で「逃げてータミーノ逃げてー」と叫んでしまったが、もちろんタミーノは逃げないし、最後はパミーナとふたり、めでたく入団することになり、ザラストロから変な三角錐のオブジェ(!)を授与される。
おそらく「現代的演出」といわれるプロダクションの多くは、ここのところの違和感をどうやって取り除くか、ということに腐心しているのだと思われる。時にそれが破綻してしまったり、やりすぎてしまったりすることがあるにせよ、確かに現代に生きる私たちがこの奇妙な物語に「没頭」するためには有効な「読み替え」が必要なのかもしれない。しかし今回のプロダクション、逆説的に浮かび上がってきたのはモーツァルトの音楽の持つ「圧倒的な力」だった。個々のアリア、重唱の美しさはこうした「伝統的演出」だからこそスッと心に入ってくる。もちろんそれは、船橋洋介指揮の仙台フィルハーモニー管弦楽団の力量によるところが大きかったことは、指摘しておく必要があ流だろう。
一方ソロを歌った歌手たちには、演奏に不安定なところも。そんな中、抜群の安定感をみせたのはパパゲーノの鈴木集(客演)。セリフの部分(ちなみに今回セリフは日本語)はもっとハジけてもいいかなと思ったが、歌唱はノーブルで聴きごたえがあった。タミーノの宮西一弘(客演)は良い声の持ち主だが、高音がやや掠れる箇所があったのは残念。パミーナの相羽紗希も意外に幅のある美声で聴かせたが、ドイツ語のディクションに難があり言葉がよくわからなかった。全体的にソロのアリアは良いのだが、アンサンブルになるとうまく声が重ならないところがあり、これは団体としての課題かと思われる。
舞台装置や衣裳はシンプルだがとても上品で美しい。ただ、場面転換に時間がかかり、その間無音で待たなければならなかったのが気になった。特に第2幕、うまく中幕を使うなどしてテンポよく進んだ方が音楽的にも緊張感が持続したと思う。
合唱は仙台オペラ協会合唱団、NHK少年少女合唱隊が出演。3人の童子はNHK少年少女合唱隊のメンバーが担当した。ソリストの大部分とオケ、合唱と地元・仙台のメンバーで固め、コロナ禍の中、これだけ一体感のあるプロダクションをつくりあげた点は評価したい。今後もっともっと演奏のクオリティを磨いていってほしい。
2021年9月5日、東京エレクトロンホール宮城。
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![室田尚子](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/4125891/profile_386861ddcdba18fe667dfcf545cb55d1.jpg?width=600&crop=1:1,smart)