クリスマスイブ教会巡り30,000歩の記録
大学はキリスト教系だったけど、学校のチャペル以外で教会に通ったことはない。だけど、教会という建築ジャンルがあり面白いものがあることは認識していた。東京でもっとも有名なのはこちらかな。
文京区関口 カトリック東京カテドラル聖マリア大聖堂
間近で見ると気圧されるような迫力。上空から見ると十字架が見えるそう。写真の正面が十字の縦線、両翼部分が横線を成すらしい。丹下健三の設計で、前川國男、谷口吉郎という超一流建築家とのコンペで選ばれたことが知られているけど、たしかにこのデザインに勝るものがありそうな気はしない。地区の教会を束ねる存在であるカテドラル(大聖堂)にふさわしい風格、威厳と、50年以上経つとは信じがたいモダンさもある。
こんな建築や
世田谷区若林 日本聖公会東京聖十字教会
北海道生まれの私は牧場の牛舎を思い出した。左上に小さく見えている十字架が無ければ教会とはすぐにはわからない。
日本に数多くの作品を残したアントニン・レーモンドの建築。タイトル画像のステンドグラスはここのもの。
教会は、三角屋根に十字架が立っているものだけじゃない。そんなことが頭の片隅にありながら、翌日はクリスマスイブという夜、日曜でもあり予定も無く、手持ち無沙汰が見込まれる一日をどう過ごそうかぼんやりと考えていると、啓示のようにある考えが降りてきた。「そうだ、教会を回ろう。」年に一番のうきうきした雰囲気に包まれる教会を、明日回れるだけ回る。そうと決まれば翌朝は早い。それまでの半日を無為に過ごした自分を恨みながら、都内の教会に関する情報を集められるだけスマホに収めて翌日に備えて寝た。
24日朝、スマホが示すルートの最初、つまり自宅最寄りの教会を目指し、歩くにはちょうどよい天気のもと家を出た。
目黒(品川区上大崎) 聖アンセルモ目黒カトリック教会
以前通勤時、毎日その側面を見ていた教会。この日までアントニン・レーモンドの設計とは知らなかった。聖十字教会とはまた違うタイプのコンクリ打ちっぱなしのようなデザイン。
側面のスリットから教会内部へ光が入る構造のよう。こういう構造の建築の内部では外からの想像とまったく違う光景が見られるので中に入りたかったけど、朝が早すぎて人の気配がない。そしてまだ一軒目、次を急がないと。東京中の教会が私を待っている。今日だけは。
設計:アントニン・レーモンド 東京都歴史的建造物
港区高輪 日本基督教団高輪教會
モダニズム建築の特徴が見える建物。調べてみると建築家である岡見氏はフランクロイド・ライトに師事したとのこと。なるほどそう言われてみると。シンプルな十字架が現代的で80年前の建築というのにおしゃれ。白、濃茶、緑という織部カラーは落ち着きを感じさせるゴールデンコンビネーション。
設計:岡見健彦
港区芝 聖オルバン教会日本聖公会
再びアントニン・レーモンド建築。冒頭の聖十字教会となんとなく雰囲気が似ていてかわいらしい。都会のど真ん中にあって素朴さが更に際立つ。土地柄か掲示物が英語で、後で調べたところ、信徒の多くが外国人のため礼拝は英語でおこなわれているとのこと。十字架が無ければお蕎麦屋さんかと思うような日本風味な建物が、実はインターナショナルという面白さ。
道路に面したドアが開け放たれていたので中を少し覗いてみた。これからたくさんの信徒がイブを祝いに集まるのだろう。
設計:アントニン・レーモンド
港区元麻布 安藤記念教会
築100年を超えたという石造りのステンドグラスが特徴の教会。ヨーロッパの絵に描かれていそうな雰囲気。ブリューゲルの農民作品にありそうな、、、それにはちょっと立派すぎるか。
日本で最初のステンドグラス作家と言われる小川三知という方が手掛けたそう。彼の作品の多くは戦火で焼失したそうで、残るこちらのものは貴重とのこと。小川三知を知らなくて調べたところ、日本のステンドグラスの歴史はまだ100年そこそこということを知った。たしかに、西洋の技術であることを考えると明治以降なので当然か。
設計:吉武長一 東京都歴史的建造物
港区南麻布 南部坂教会
訪問リストを辿る道でたまたま見つけた教会。有栖川公園前に位置する、緑に囲まれた洋館のような建物。設計者が不明なこういう教会が本当は町中にたくさんある。
次の訪問先が大きく東へ移動となるのでここで一度電車を利用。
中央区明石町 カトリック築地教会
東京最古のカトリック教会は、休日で人通りの無い聖路加病院界隈において多くの人でにぎわっていた。日本語は聞こえずアジアをメインにさまざまな地域の方が集まる場所となっているらしい。教会は離れた土地で暮らす人たちの大切なよりどころなんだろう。神殿風の柱が印象的。
設計:石川音次郎・ジロジアス神父 東京都歴史的建造物
千代田区西神田 カトリック神田教会聖堂
ビルに囲まれて鎮座する、時間も場所もトリップしてきたような教会。一つ前の築地教会と並ぶ歴史をもつらしい。
下の写真に見える赤い星はシャンパン会社のクリスマス用の看板。時間も場所もトリップしてきた?という幻想からいきなり現実に引き戻された。クリスマスというこの時期だけの高揚感を教会にも与えている感じ。
ピンクの十字デザインが鮮やかなドア。
設計:マックス・ヒンデル 有形文化財
千代田区御茶ノ水(神田駿河台)東京復活大聖堂(ニコライ堂)
冒頭の関口の東京カテドラルは東京で一番有名な教会建築かもしれないけど、一番「見たことある!」教会はここかもしれない。この界隈に鐘の音を響かせる大きくて存在感ある教会。
ロシア人宣教師ニコライの希望を基にしてイギリス人建築家ジョサイア・コンドルが設計。日本に長く滞在して日本画家の顔も持つコンドルだけど、建築には日本風味は見られない。コンドルのどの建築にも日本風味がないのはある意味不思議。
函館のハリストス正教会を思い出すけど、同じニコライさんの手によるものだと知った。
設計: ジョサイア・コンドル、 岡田信一郎、 ミハイル・シチュールポフ 重要文化財
文京区本郷 本郷中央教会
東京で最初のパイプオルガンがあるとの前情報で訪ねた。幸運にもドアは開かれており実物を見ることができた。
調度品のように静かに収まっていた。前にすると誰の耳にも、鳴っていないあの音が聴こえてくる。
設計 : J.H.ヴォーゲル(ヴォーリズ建築事務所)/川崎忍 有形文化財
文京区根津 根津教会
住宅街に建つ赤い屋根の小さなかわいい教会。見過ごしそうなほど住宅のようにさりげない。
設計:不明 有形文化財
新宿区下落合 目白ヶ丘教会
フランク・ロイド・ライトの弟子、遠藤新の設計。言われてみるとそんな気がする。閑静な住宅街という形容詞がぴったりな場所にあり、中では子供たちが夕方のミサへ向けて楽器演奏の最後のおさらいをしていた。日常的にみんなが集まる場所という感じが、信徒の方同士の親しそうな雰囲気から感じられた。
設計:遠藤新 有形文化財
だいぶ陽が落ちて、あと何軒回れるか気にし始めた頃。
新宿区下落合 目白聖公会
ステンドグラスが両サイドの壁を飾る築100年の教会。夕方のミサのため人が集まり始めている。
設計:坪井正太郎
豊島区長崎 カトリック豊島教会
外から見える丸と四角が中に美しいデザインを作る。色の組み合わせが抜群。
この光景を見て、冒頭の聖十字教会と同じアントニン・レーモンド設計であることを思い出した。レーモンドは「かわいい」の感覚を持ってた人なんだろな。
設計:アントニン・レーモンド
ここで日没によりタイムアップ。ずいぶん歩いた。品川の自宅を出て、広尾ー築地間の地下鉄以外は歩き通し、日没時には池袋にいた。リストには行けなかった2軒が残っていたけどまぁ満足。
その後も教会を見つけるとシャッターを切っている。街で主に見かけるのは現代に建てられたおしゃれなもの。たとえばこんな。
教会建築は、十字架モチーフというお題以外の縛りはそれほど無さそうで、思うよりデザインの自由度は高いのではないか。その後に見かける教会も「これが?!」と驚くものが多く、「見えたり見えなかったりする枠」への建築家の挑戦を発見する。
優れた建築家の多くが一度は手掛けるこのテーマ、それに資する質と量であるなぁと、入り口の風景となった今回の教会たちを見て思い、出口のない旅が始まってしまったことを知った。
歩いたなぁ。