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浦島語り#13 世界に見られる浦島型伝承

はじめに

お礼に海向こうの世界へ誘われた漁師が、竜宮の姫と恋仲になり、「開けてはいけない箱」を手土産に帰郷。

浦島でしょうか?いえ、実はこれ、朝鮮の伝承なんです。

いつもお付き合いくださる皆さま、ありがとうございます。初めてのぞいてくださった方、ようこそおいでくださいました。

月曜日には学校エッセイ、木曜日にはジャンルを不問好き勝手に書き散らしている私のnoteですが、今週は久々の浦島語り。いつもの浦島オタクが心のままに浦島雑学を語るだけの回ですが、よろしければお付き合いください。

世界に見られる浦島型伝承

浦島太郎と言えば日本の代表的昔話で、現在確認できるもっとも古いものは丹後國風土記まで遡ります。こういう昔話って、日本固有のもののような気がしてしまうのですが、風土記に残されている話の中には、大陸に類話が見いだせるものがあるんです。浦島もその一つ。

『日本昔話通観 研究篇1日本昔話とモンゴロイド―昔話の比較記述』(稲田浩二責任編集 同朋社 一九九三年)には、これまで日本民族と人種的・文化的に深い関係があり、日本昔話の起源と展開に大きく関わると推定される国家と民族を比較対象の範囲とし、昔話ごとに、各国で採話された類話がまとめられています。

今回は、A「異界招待パターン」から、全四話の類話を引用して紹介したいと思います。

1朝鮮

漁夫が釣りあげた鯉を放すと、竜王の使いが現われて、「竜王の娘を助けてもらった礼に竜宮へ案内する」と言う。使者が海に向かって呪文を唱えると、海が二つに割れて道ができる。

漁夫は竜女と結婚してしばらく暮らすうちに家が恋しくなる。竜女は漁夫に宝函を渡し、「これに向かって呪文を唱えると海が割れるが、開けてはいけない」と言って呪文を教える。

男が岸に着いて、我慢できずに函を開けると、薄い煙が立って竜宮へ帰れなくなった。(孫朝鮮p.188)

2朝鮮、南済州郡大静邑安城里

海女が海岸の水溜まりに落ちて抜け出せなくなっている玳瑁(たいまい:海亀の一種)を助けてやると、亀は頭を下げて水中へ去る。

ある日、海女が海にもぐると美しい宮殿が見えるので門のそばまで行ってみると、老婆が出てきて息子を助けてくれた礼を言う。海女は手厚いもてなしを受け、老婆から持っていれば天然痘にかからないという花をみやげにもらう。

海女が海上に出て見るとそれは珊瑚であり、おかげで天然痘にもかからずに生き残った。(朴濟州島p.306)

3ベトナム

男がぼたんの花見で枝を折った少女を救う。男が蓮の形の五色の雲に導かれて見つけた穴に入ると、りっばな宮殿に着き、ナンヤク山の地仙人ウィ夫人が「先の恩返しに少女と結婚させる」と言う。

男が一年ほど暮らしたあと妻に手紙をもらって故郷に帰ると、二百年の年 月が過ぎている。

妻のもとへ帰ろうとすると、仙人の車は鶯になって飛び去り、手紙には「縁はなくなった」とある。男はファンスンに入ってそのまま帰らなかった。
(原語訳べトナムp.56)

4ミャンマー ミャウンシー族

男が木の下で雨宿りしていると、派手な衣装の男が来て、「私は前世でお前の父で、今はナーガ(神話的な蛇)だ。お前を助けにきた」と言い、快楽の地ナーガへ誘う。

男はいっしょについていき、乙姫と結婚して二人の子をもうけ、幸せに暮らす。男が人間世界を恋しがると、父は何でも願いのかなう願掛けの壺を持たせて家族とともに送り返す。

男は壺のおかげで豊かに暮らすが、怠け者になる。男が酔って壺を割ると、つぎつぎと不幸がおこり、妻と子もナーガの世界へ帰ってしまった。
(古橋ビルマp.98)


異境と禁忌とお別れと……

いかがでしたでしょうか?今回は4話を紹介しました。亀を助ける、というモチーフを持つものは1つしかありませんが、異境に行ってもてなされ、帰郷ののちに見るなの禁忌を犯してしまう、あるいは帰郷すると現世での縁は失われてしまっていた、まさに浦島のような話ばかり。

大昔の人々は海を見ると、誰しもその向こうに人知を超えた者たちが住む世界を思い描いたのでしょうか。なぜ古い物語には「見るなの禁忌」が多く登場するのでしょうか。そして、禁忌を犯してしまったものは、不幸になるしかなかったのでしょうか……。

これらの話について、なぜ各地に類話が存在するのかという点については諸説あり、私もまだ勉強不足ですので、ここではシンプルに類話の紹介だけにとどめたいと思います。

ですが、あまりにも似通ったこれらの物語、その根底に流れているものがなんなのか、これも私が今、とても興味を持っていることの1つです。

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ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
よろしければ来週もまた、来週お目にかかりましょう。

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