出席簿#19「港で囲む家族の食卓」
【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」
7月29日、月曜日。すっかり夏本番ですね。暑い日が続きますが、皆さん元気にお過ごしでしょうか?私は子どもと水遊びの出来る場所を求めて保育園や児童館を巡る日々です。
さて、今週も離島の高校に勤務していた頃の思い出です。夏の夕暮れ、船着き場でバーベキュー、それだけで楽しそうな響き……ではありますが、開催まではそれなりの紆余曲折がありました。
この企画、「島親(しまおや)さん」や教職員へのお礼の気持ちを込めて寮生たちが自分で立案してくれたそう。離島で寮生活を送っている県外の生徒たちには、入学時に島での家族ができます。それが島親さん。週末になれば島親さんのところに遊びにいったり、逆に参観日には来ていただいたり。いつものお礼をしたかったようだけれど……、初手がちょっと勇み足だったので、生徒部長や寮務主任も出動することに……!?
学校の「今」を島根の現役教員が綴ったコラム集、『おしゃべりな出席簿』の作者による朗読。5分間だけ、高校生活をのぞいてみませんか?
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定期的に沸き起こる席替えコール、学食バイキングでの温かい交流、総体出場メンバー選抜前のギスギス感。センター試験前にフェリー欠航の危機!?緊急事態宣言、そのとき島根では……?誰もが懐かしめる学生時代の思い出も、島根ならではエピソードも詰まった一冊です。
「港で囲む家族の食卓」
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いつもより早く仕事を切り上げ、船着き場へ急ぐ。受付とおぼしき机を見ると座っていたのは私のクラスの女の子。「こんにちは、こちらで名札を作ってください」。終業式の前夜、船着き場でバーベキュー(BBQ)が催された。すでにたくさんの人が集まっている。生徒が声を張り上げる。「今から開催したいと思います」。温かい拍手が沸き上がった。
数週間前のある朝を思い出す。舎監(寮の監督)明けの先生が生徒部デスクで話している声。「最終点呼のあとに〇〇が寮生全員に呼びかけて、島親さんに電話させようとしてて⋯⋯」。
全身が耳になる。担任している生徒の名前だ。子どもたちだけで、大人を招いたBBQ企画を立てようとしたという。離島で寮生活を送る県外の生徒たちには入学時に新しい家族ができる。それが島親さん。地域の方にお願いをし、寮生を一人、島での家族として迎え入れてもらう。週末には遊びに行ったり、参観日には来ていただいたり。そのお礼をしたかったようだけど、電話をするには遅すぎる時間。火器を扱う企画でもあるし、生徒だけで大丈夫かな。しばらくは、生徒部長や寮務主任と、話題に挙がった彼とが話す姿が職員室で見られた。事情を聴かれ、ときどき注意。
どうなることやらと思っていたけれど、数日後「先生、BBQ来てくれますか」。生徒が声をかけてきた。あの企画、実現したんだ。寮務主任からも教職員に呼びかけがあった。「寮生主催で3BQを開きたいと思います。ぜひご参加ください」。終礼後、寮生全員が準備にあたるという。
BBQは大盛況だった。最初のうちこそ「どうぞ座ってください」「食べてください」の譲り合いが続いていたが、だんだんと地域の人も寮生も教員も関係なく、交互に火を見て食材を運ぶようになる。みんなで食事を囲むのはやっぱり楽しい。終盤には留学生お手製の異国料理や寮生が育てた野菜も出てきた。並んだ料理を透かして見えるのは、普段とは違う生徒の顔や生徒を育んでくださる地域の方の顔。
帰途に就こうとしたら寮務主任が「来てくれてありがとう」。こちらこそありがとうございます。コーディネート、お疲れさまでした。そういえば率先して火おこしをしていたのは生徒部長だった。電話事件から半月、もめごとや心配事もたくさんあったけど、最後にできたのは一つの食卓。だれもが家族の顔をしていた。
(2016/7/27 朝日新聞島根版掲載)
作品に寄せて
教員の「待った」は、生徒からしたら気持ちのいいものではないでしょうけれど、大人は大人で、生徒の企画を否定しようとして「待った」をかけたいわけでもない。一瞬対立するかのように見えても、最終的に一つの食卓を作りあげて囲んでいる。そういう場面を切り取りたくて書いた作品でした。
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