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浦島語り#06 白島の赤法印ー隠岐の不思議な浦島伝承ー

はじめに

浦島語り、再開します。
昔話が好きで、とりわけ浦島太郎が好き。

海向こうの不思議な世界への夢があって、
どこかファンタジーのようで、
うっとりしていると・・・・・・
唐突に老いと別れを突きつけられる。

たった一度の過ちのため、がっくり浜辺に膝をつく心優しき1人の漁師。

浦島伝説は、哀しく理不尽にも思われますが、
その運命に翻弄される青年浦島の優しさも、弱さも、
妙に人間らしさが感じられたりもします。

これまでは、古典作品を中心に、浦島伝説の歴史やその特徴を紹介してきました。

さて、今回は隠岐の島町の北端、白島半島近辺に残る不思議な伝承を紹介します。心優しき青年が、浜辺で亀を助けると・・・・・・?

前半は浦島伝説なのですが、想像の斜め上をいく結末が待っています。お楽しみいただければ幸いです。

白島の赤法印

本題に入る前に、比較しやすいよう、過去何度か紹介したオーソドックスな昔話「浦島太郎」のあらすじを再掲します。こちらは稲田浩二氏・小沢俊夫氏責任編集『日本昔話通観』第十八巻・島根編より引いた「浦島太郎」(梗概)です。

浦島太郎という漁師が、子供にいじめられている亀を買い取って助ける。ある日釣りに出かけると、助けた亀が現れてお礼に竜宮へ案内すると言う。浦島太郎を背に乗せ、竜宮におもむく。竜宮で乙姫が礼を述べ、ごちそうになって月日の経つのも忘れて楽しく暮らす。家が恋しくなった浦島太郎は、蓋を取ってはいけないと言われた玉手箱をみやげにもらって帰る。亀の背に乗って浜辺へ帰り着くとむらの様子はすっかり変わっていた。あけるなと言われた玉手箱をあけると、白い煙がたちこめて顔も髪もまっ白な爺になる。

稲田浩二氏・小沢俊夫氏責任編集『日本昔話通観』第十八巻・島根編
「浦島太郎」(梗概)

続いて隠岐郡隠岐の島町白島近辺で語り継がれたとされる伝承「白島の赤法印」です。なお、こちらは野津龍氏『隠岐島の伝説』を参照し、比較しやすいよう上記「浦島太郎」と似た形式でまとめ直したもの。大きく相違する部分は太字にしてみました。

源太夫という漁師が怪我した海亀を助けたことによって、竜宮城に連れていってもらう。源太夫は、竜宮城の乙姫としばらくは楽しい生活を送る。しかし望郷の思いに勝てず、再び隠岐島の中村の里に帰ることになる。乙姫とのつきぬ別れを惜しむが、途中、どうした間違いからか、源太夫はついて来た見送りの侍女と恋に落ちる。乙姫は激しく怒り、見送りの侍女全員を竜宮城から解雇し、追放する。侍女たちは、堕落してモタという鱶の一種になる。白島の「屏風ヶ岩」の近にある「モタが岩屋」は、棲む所を失ったモタがよく集まって来て、こっそりと昼寝をしたことに由来する。これを中村の漁師たちは苦もなく生け捕りにして、その肉を食べていた。
 源太夫は前非を悔いて出家し、「モタが岩屋」の前で、端坐合掌しながら石に化す。これが赤茶色をした人の姿、あるいは緋の衣をまとった僧侶に見えるところから、土地の人は「赤法印」「赤法師」「赤いさん」などと名づけている。

野津龍氏『隠岐島の伝説』を参照し、まとめなおしました。

禁忌は手箱か心変わりか

いかがでしたでしょうか?個人的にはこのお話、とてもおもしろいと思うんですよね。

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助けた亀に龍宮へといざなわれた男、ご多分に漏れず乙姫様と恋仲になります。ところが望郷の念にかられて故郷へと戻る時、男は見送りの侍女と過ちを犯してしまい……乙姫の怒りは侍女へと向けられます。侍女たちはモタに変えられて竜宮を追われ、漁師たちに次々と釣り上げられるのでした。男は前非を悔い、出家。モタが岩屋を眺めながら合掌するうちにいつしか真っ赤な石と化したのでした……。その石は今も岩屋を眺め続け、「赤法印」「赤烏帽子」などと呼ばれます。

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ちなみにこちらの写真がその「赤法印」の巨石。見下ろしている岩屋がモタが岩屋です。

2022年10月 論者撮影

この巨石、ちょっとうなだれているようで、不思議な伝承があるのもうなずけます。

さて、「浦島太郎」では玉手箱の開封だった禁忌が、「白島の赤法印」では移り気になっています。そして、直接的な報いを受けるのは主人公ではなくて侍女の方。さらに鉄槌を下すのは外ならぬ乙姫様・・・・・・。

記憶が曖昧なので覚え違いもあるかもしれませんが、小泉八雲の妻セツは、「破られた約束」という怪談を語るさなか、小泉八雲から「どうして亡き前妻は夫ではなく後妻をくびり殺そうとしたのか」と問われ、「女の怒りは女に向くものですよ」と答えたとか・・・・・・。

そういう意味でも、浦島伝説とは一線を画した妙なリアリティも感じさせる、奇妙でちょっと可笑しく、ひっそりとした寂しさも漂う伝承のように思います。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。実はこのお話、別バージョンもあったりして、そちらはまた次週ご紹介したいと思います。よろしければ引き続きお付き合いください。それではまた来週お目にかかりましょう。

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