出席簿#15「弓道場の小さな花壇」
【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」
7月1日、月曜日。いよいよ今年も後半戦。大雨が心配ですが、皆さまの周りはお変わりありませんでしょうか?避難されている方々にも一刻も早く日常が戻ってくることを願っております。
県総体が終わると多くの3年生は引退。最後のミーティングをするときにはいろいろな思い出がよぎるのですが、やはり忘れられないのは選抜メンバーの決定まで頭を抱えて悩み続けた日々だったりします。
「最後の最後に花なんて植えて、後輩に迷惑かなって思ったんですけど・・・・・・」、ミーティング後、道場の外でしゃがみ込んで庭仕事(?)をしていた男子部員はこちらに気づくと照れ笑い。その手元には・・・・・・?
『おしゃべりな出席簿』はこちらからお求めいただけます。
(品薄・品切れになりがちですが、数日で補充されます。ご了承ください。)
「挑戦、新しい生涯学習のかたち」
音声で楽しみたい、という方はこちらからどうぞ。
ーーーーーーーーーー
高校総体が終わった。三年生は引退だ。最後のミーティングで、ある男子生徒が口を開いた。「ようやく務めを果たすことができました。弓道やめたいって思った時もあったけど、続けてきて本当によかった」。最後のメンバー変更で道場に立ち、普段以上の的中を出してチームに貢献した生徒だった。涙でかすれた声に、一年前のことを思い出した。
「先生、なんでぼくがメンバーから外されたのか、教えてください」。彼に呼び止められたことがある。強い口調にどきりとした。チーム編成を考えるときに何度も頭の中で繰り返した理由を、ゆっくりと話した。悩んだ末の結論だ。
去年の総体では、結局彼の名前を呼ぶことは、なかった。十人にも満たない補員を含む選手たちが、丸く並んで立っている。そこで判断を口に出す。「……。以上のメンバーで次は入ること」。最後の試合に立つメンバーを発表しながら全員を見渡す。うなずく彼の顔が目に入った。無理に口を引き結び、口の端をあげて、「納得してます」のサインを送ってくれているのがわかった。胸が痛かった。
今年の総体で、彼を登用したのは、もちろん負い目からではない。でも、やっぱりこのことが胸に引っ掛かっていた私には、彼の四射三中がとても尊いものに見えた。
ミーティングでの彼の言葉は「この中に苦しんでいる人、やめてしまいたいって思っている人もいるかもしれません。でも、最後に報われると信じて、頑張ってください」。そう締めくくられた。
最近、うちの道場に増えたものがある。壊れた的枠で仕切られた、小さな花壇。「最後の最後に花なんて植えて、後輩に迷惑かなって思ったんですけど」。照れ笑いをしながら言ったのは、ほかでもない、彼だ。とんでもない、ありがとう。きっと後輩が世話をしてくれるでしょう。そしてそのたびに思い出してくれるよ。きみの頑張りと、あの時の言葉を。
基礎練習に励む1年生の足元で、小さな花が少しずつ開き始めた。
(2013/6/26 朝日新聞島根版掲載)
作品に寄せて
11年前の作品です。弓道はけっこうはっきり「スランプ」が分かる種目だと思います。しかもかなり多くの生徒が、部活動として弓道と向き合っている2年半の道半ばで的中を落とす、的に当たらなくなるんです(弓道の世界では「中る(あたる)」の字を用いることが多いのですが、ここでは一般的な字で表現しますね)
なんとなく想像がつくかもしませんが(数年前、NHKで弓道アニメもやっていました)、当てようと思ってしまうと焦りが生じ、そうするとじっくり的を狙えなくなったり、変な癖がついてしまったりして、より的中が下がってしまう。。
本当に苦しいんです、この冬の時代が。
少し前まではあんなに当たっていたのに、楽しかったのに・・・・・・。
そんな苦しみの中にいるであろう後輩のことを想って、「報われると信じて」と、どうしても伝えたかったんでしょうね、このときの彼は。
その言葉に驚くとともに、とても心動かされたことを覚えています。きっと救われた後輩も多かったんじゃないかな。
余談ですが、実は、先週は月曜から子どもが熱を出し、そこからもらったようで週の後半は私も久しぶりにダウン。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症ではありませんでしたが、喉が腫れて高熱が出て・・・・・・。散々な一週間となりました。ようやく回復してきてはいるのですが、今週の朗読YouTube、いつもより声量を控えているため、少しこもってきこえるかもしれません。そのくせ、本の背が立てる「キシ・・・」みたいな音は拾うんですよね、このマイク。YouTubeも3ヶ月なんとか続いたし、やっぱり朗読配信用にちゃんとしたマイクを買おうかな、など悩んでいるところです。
『おしゃべりな出席簿』はこちらからお求めいただきます。
(品薄・品切れになりがちですが、数日で補充されます。ご了承ください。)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?