出席簿#14「挑戦、新しい生涯学習のかたち」
【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」
6月24日、月曜日。天気が崩れた週末でしたが皆さまの周りはお変わりありませんか?
さて、去年『おしゃべりな出席簿』という書籍を出したのですが、このなかには、朝日新聞島根版の「おしゃべりな出席簿」と「元気力」というコーナーで11年にわたって連載されていたエッセイが収録されています。
最初に連載のお話をいただいてから8年間、「おしゃべりな出席簿」という単独コラムのコーナーを担当していたのですが、その後、紙面構成が変わり、「元気力」というリレーコラムに参加をする、という形をとることになりました。
文体や題材はそこまで大きく変わっていないのですが、「おしゃべりな出席簿」がほぼ学校の日常を扱っているのに対し、「元気力」はもっと自由に書いていいよと言われたので、詩吟のことや物語のことなど、気ままに書き散らしてきました。今回ご紹介するのは「元気力」の2回目。先週、noteでは初めて海士町の詩吟愛好会「隠岐國縁吟会」のことに触れましたが、まさにその立ち上げの経緯を書いたのがこの回でした。
『おしゃべりな出席簿』はこちらからお求めいただけます。
(品薄・品切れになりがちですが、数日で補充されます。ご了承ください。)
「挑戦、新しい生涯学習のかたち」
音声で楽しみたい、という方はこちらからどうぞ。
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「先生、この前、僕たちの平均年齢を出してみたんですよ」、目の前にいるのは、職場の高校生・・・・・・ではなくて、頭(かしら)に雪をいただいた人生の大先輩。「71歳ですよ、71歳。超高齢化」、まいったな、といわんばかりに頭を振りつつ、声はなんだか、楽しそう。瞳の奥には、いたずらっ子のような輝きが宿る。
高校で国語を教えて13年。実は、詩吟の準師範になってからも同じだけの歳月が流れている。平均年齢を出したという「僕たち」は、隠岐の詩吟愛好会メンバーだ。
「高齢者の僕たちが、パソコンと奮闘してるって、おもしろいですよね」。お稽古は月に2回。県西部にいる私と、離島にいる会員さん。1回は海を渡るけど、もう1回はパソコン通信だ。
「愛好会を立ち上げましょうよ」。そう声をかけられたのが5年前。隠岐に赴任して間もない頃だった。詩吟の話は自己紹介代わりによくしていたけど、いざ立ち上げとなると及び腰になっている自分がいた。教員は、転勤族だ。次の異動だって、遠からずやってくる。そんな思いが行動を鈍らせていた。
でも、「先生、やりましょう」「大丈夫ですよ」。熱意になかば押し切られるようにして生まれた小さな詩吟愛好会。それからというもの、日中は学校で古文や漢文を教え、夜は愛好会で漢詩や和歌を読み解いたり、その詩文を吟(うた)ったり。年齢も、経験も異なる大人たちが集まる学舎(まなびや)は高校とはまた違うおもしろさがある。
折しも勤務先の高校では、県内でも一早く様々なICT機器が導入され、遠隔地との交流や協働学習が推進されていた。離島という地理的条件も影響したのだろう、次々と実現する遠隔会議に遠隔授業を目の当たりにして、「これでお稽古もできたら」。最初は何気ないつぶやきだったけど、言葉にすると、反響がある。驚いたのは、「先生、やりましょう」、立ち上げのときと同じ、力強い声が返ってきたこと。かくして、近隣の学習センターを借り、スタッフの方の力も借りながら、「遠隔詩吟」の土台作りを進めることに。
もちろん、芸事において対面に優るものはない。でも、高齢者×ICTって、様々な可能性をもっているのかもしれない。体力や家庭の事情で、なかなか遠出はできないけれど、学ぶ力に満ちた元気いっぱいの人生の先輩たち。その点と点がつながったら、詩吟だけにとどまらない、新しい生涯学習のかたちが立ち現れてくるんじゃないか。
そうして迎えた人事異動だった。会員さんたちとは、ずいぶん離れちゃったけど・・・・・・、代わりに走り出したのは、「71歳の挑戦」。学びへの情熱と、新しいことを楽しむ姿勢をもったランナーは、どんな景色を見ることだろう。
(2019/6/16 朝日新聞島根版掲載)
作品に寄せて
5年前の作品です。「パソコン通信」という言葉がすでに時代を感じますね。コロナ禍でオンラインツールはめざましい進歩を遂げましたが、隠岐國縁吟会がオンラインでお稽古をしようと考え始めた当時は、まだzoomも日本には入っていなくって・・・・・・、appear.inやLINEのビデオ通話などをあれこれ使いながら奮闘していました。appear.inでオンラインお稽古をして、お稽古会場ではプロジェクターに画面を投影して、スクリーンの前には有線でパソコンにつながれたスタンドマイクを立てて・・・・・・。今はプロジェクターやスクリーンを出さずとも大型モニターがあるし、吟者はスタンドマイクの前に立たずともパソコンのマイクが声を拾ってくれます(会議用の集音マイクに助けられることもありますが)。ひとたびこの環境に慣れてしまった今、あのときのことを思い出すと、このめざましい変化には驚くばかり。
でも、この新鮮な驚きや感動も、当時、「よく分からないけどやってみましょう!」と背中を押してくれるシニア層の声があり、試行錯誤の日々の先にある今だからこそ抱ける感情なんですよね、きっと。シニアの学び×ICTって、まだまだ可能性を秘めているように思えてなりません。
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