共産主義者、友人Kの思ひ出#5
第四章
就職そして友人Kとの再会
結局、高校進学は断念し市内の菓子工場の就職試験があり採用された。
仕事とといっでもベルトコンベアで流れてくる飴を選り分け箱いっぱいになったら他の場所に運ぶという作業が一日8時間業務。
最初の部署には一年先輩の生まれつきのハンディを背負ってるという長身の男がいた。
その男と近距離での作業だ。
始めは普通だったがある日飴の不良品を見落としたときその男は怒鳴りながら叩いてきた。
相手はハンディの人間。
これが社会なのか。耐えなくてはならないのか?
その行為は何回か何日もリフレインリピートされる。
私はコレはどう考えてもなんか違うと感じはじめた。
ある日、男が手を上げた瞬間、カウンターで強めにグーパンチをハンディのオデコの当たりに叩き込んだ。
ハンディはびっくりした表情を浮かべ、謝罪してきた。
近くの作業場のオッチャンは爆笑していた。
初めから私がずっとやられているのを観ていたのだろう。
「蹴り飛ばしたれ!」
笑いながらオッチャンは言う。
私の行為は正当な行為だったと断定できる。
私は喧嘩少年じゃないし空手やボクシングに興味をもったのも己れの身を守る護身術としてであって弱いものイジメでない。
しかしあのまま黙っていたらハンディの暴力行為は明らかにエスカレートしていっただろう。
それからは何日かは汚い言葉を発しながらローキックをぶちこんだりナックルパートをオデコに当てたりしてそれまでの分は精算した。当時流行っていたプロレスでの猪木の延髄斬りをかなり強めに男の後頭部に斬り込む。
別に陰湿にイジメたりはしていない。
先に何回も理不尽に叩いてきたのはハンディの方だし、繰り返し記すが正当な社会的鉄拳制裁であると断定できる。
それはそれから15年以上経ってから証明された。
なぜならその男は小さい子供を抱き抱え歩道橋から投げ落とすという危険違法行為で警察に捕まったのだ。
事件はリアルタイムでニュースに流れ、ある日の職場の食堂で食事していたときに男の顔写真と名前がテレビに映った。
「うわっ、出た!」「吉川や!」
顔も名前も年齢も記憶と一致する。間違いない。
・・・奴だ。
やはり当時からそういった素質、危険なものを内部に所有していた人物なのだ。ハンディの共同体に於いてもおそらく自分より弱いおとなしい人間に対しては獣のように粗暴に危害を与えるというたまにいるグレーなタイプだったと断定する。
しばらくそのニュースはかなり大きな規模で取り上げられていた。
その男はハンディを背負った人が働く職場、施設ではリーダー格だったらしい。
菓子工場は1年弱で辞めた。
中卒同期はほとんど先に辞めていった。
17歳になると400ccのバイクを手に入れ、ある日気になってはいた友人Kの家を訪ねる事にした。
先に何人かと会い、バイクを見せたりお喋りした後、Kの家、2階の風呂なし文化住宅に訪ねてみた。
ドアを開けるとすぐ階段があり2階に間取りがあるタイプ。
階上から英国のロックミュージシャンのような髪型をしたKが現れた。
「誰?・・・」
ニヤリと笑みを浮かべ
「おまえかっ」
何年ぶりだろう。4年か?
「何やねんその頭」
全体的にパーマがかかっておりトップは立たせてあった。毛束があらゆる方向に向いている。
「チン毛アタマか。お前は。」
ヘビメタバンドを組んで歌っているという。
部屋にはエディバンヘイレン風に装飾したロックギター。
「何であんなに仲よかったのに俺んとこけぇへんかってん?」
「ジャガから色々訊いていて行きにくくなってん」
私は学校に一回遊びに行ったときKとバカ岸が黙って帰った事や美少女、坂本実華ちゃんの事や、Kが野球部顧問と汚い言葉でイキがって喧嘩した事実のことや、Kがシンナーを吸うような解りやすい悪いヤンキーになったのかもしれないと思っていて行けなかったと伝えた。
Kはなにも気にしてる様子じゃなく明るくのほほんとしていた。
バンヘイレン風のエレキギターを掴み弾きだした
なにか手癖のインチキなソロ。柔らかい弦で弦高を落とし短い指をパタパタさせて音を出すK。
口を半開きに首をサイドに倒しつつリズムをとるような仕草。
しかも眼まで半分閉じて何かエクスタスィーに達した表情でソレっぽい偽のメロディライン。
エレキを見たのは初めてだったので「凄い」
と騙された笑笑
妹がフォークギターを練習していたので触った事もあるからエレキの弦の細さと低さにはなんだこれなら早く弾けるね。なんて思った。
Kはまだあの当時はバンドを組んで世界的ロックスターになりバンヘイレンみたいにフェラーリに乗るという妄想を常に観ていた。
親戚のおじさんに教えてもらったというローリングストーンズから入りヘビメタにも詳しい。
ニキビは治ったが相変わらず脂ぎった真っ黒い顔をしてるのにメイクアップまでするようになっていた。
美少年に憧れ、何か意識的に中性的な雰囲気を醸し出すことも好んで行っていた。
たんにモテないだけなのにメイクアップしながら鏡を睨み、「わからん俺、ホモかもしれん」などとよく口走っていた。
完全にロックスターを真似た自己陶酔。
ロックスターに憧れてバンドで唄い青春の学園生活をエンジョイしていたが、しだいにKの自信、陶酔を粉砕する現実が動きだす。
Kもひょうきん者でバンド活動でのMCなどで物真似なども披露し、実質学校の人気者の頂点に達する。が、しかしそのパフォーマンスが裏目に出てしまった。
当時ひょうきん族全盛で芸人、片岡鶴太郎がマッチやコンドーですとか郷ひろみや浦辺粂子をよく披露していたが、同じようにコピーをライブや友達に魅せて喜ばせていたが、あるライブで奥からヤジが聞こえた。
「つるたろう!」「似てるぞ!」
自分では美少年で意識してメイクアップし郷ひろみやモックンに少し似ているという自意識があったのでKは「つるたろう」と言われるのが衝撃だった。しかも「つるたろう」は当時、脂ぎり丸く小太りしており人気ファッション雑誌で抱かれたくない男No.1に選ばれるほどの人気者だった。
さらに「泣きっ面に蜂」のような事象が現れた。
ある夏、同じ高校の数人の仲間と海水浴に出かけた。もちろんみんな童貞だ。
2人の女子大生をナンパしてみた。
少し仲良くなった。
2人の女子大生のうち1人がいう。
「なぁ悪いと思ってんけど、つるたろうに似てへん?」
「いやぁ 別に」
内心崩れ堕ちるK
愕然とする魂。
美人巨乳女子大生が女性らしくきめ細かく気遣いで放ったメインフレーズのわさわざ前に配置した
「なぁ悪いと思ってんけど」
が逆にリアルに自称ブリティッシュ美少年のKの心に蜂のように刺してきた。
・・・なんで知ってんねん。姉さん達。学校でしか「つるたろう」のパフォーマンスは一切演じてはいない。
なぜ遠く離れた淡路島に泳ぎに来てまで「つるたろう」という称号が与えられるのか!!
しかも眼の前の女子は美しい肌を露出し明らかに巨乳の姉さんに「抱かれたくない男No.1」に似ていると指摘された。
俺は美少年じゃなかったのか!郷ひろみではないのか!
女性ばりにメイクアップした英国のロックアーティストなはずだ!デビットボウイでありデビットシルビアンでありニックローズでありジョンテイラーなんだよ。
俺が観ていたものは幻影か?
錯覚だったのか?
他者から観ればただの小太りのコメディアンなのか!?
煩悶し、自問自答するK。
するとこれが現実社会なのか・・・・
ドゥユーアンダーステン?
頼む。誰か何か言ってくれ!
Why なぜに・・・・
この夏の淡路島での事象にKの魂は激しく揺さぶられしだいに内向に走っていく・・・・
続く