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未払い行動について知ってほしい

未払い行動とは何か

「未払い行動」とは、認知症の人が買い物をする際に、お会計を忘れて商品を店外に持ち出すことです。
本人が意図的におこなっているわけではないことが、いわゆる万引きとは異なります。

しかし、一般に未払い行動への理解がないことから万引きと間違われて警察を呼ばれてしまったり、未払い行動をきっかけに買い物に行くことが怖くなってしまうことなどが生じ社会課題となっています。

なぜ未払い行動が生じるのか

未払い行動が生じる原因はいくつかあります。

一つは、もの忘れによるものです。
認知症の原因としてもっとも多いアルツハイマー型認知症では、もの忘れが初期から生じます。

このため、買い物をしていることを忘れたり、カゴに物を入れたことを忘れてしまい未払い行動が生じます。

また、若年性認知症の原因としてアルツハイマー型認知症に次いで多い前頭側頭型認知症では脱抑制という症状が生じる方がいます。この脱抑制によって、思ったことをすぐに行動にうつしてしまいます。
このため、会計の手順を飛ばしてしまい未払い行動につながります。

その他にも、レジ袋の有料化に伴い店員さんが袋詰めを行わなくなったことや、ソーシャルディスタンスを取ることを求められることで会計に時間がかかるようになったことなども未払い行動の背景にありそうです。

認知症当事者が語るエピソード

認知症当事者である丹野智文さんが教えてくださった未払い行動についてのエピソードがあります。

丹野さんがエコバックを持って買い物に行った際、「品物をエコバックに入れなきゃ」ということが頭にあったために棚から取った品物を直接エコバックに入れました。その際、隣にいた奥さんから「お金払ってないよ」と言われてご自身の未払い行動に気づかれたそうです。
このエピソード以降、丹野さんは「エコではないな」と思いながらも買い物の際にエコバックを持たないことにしているとのことでした。

おそらく、同様の体験をされた認知症当事者の方は多くいらっしゃいます。
さらに、こういったことがあると、「万引きと間違われると本人がかわいそうだから買い物はやめさせよう」と家族が考えて財布をもたせないようになったり、本人も買い物をすることを諦めてしまうようになります。
しかし、人生における役割や目的が失われることで認知症の進行が加速するという研究結果があります。

失敗をさけようという家族のやさしさや、家族に止められるから本人がやりたいことをあきらめるということは、認知症が進行することにつながってしまうのです。

丹野さんが書かれた新書「認知症の私から見える社会」では、第三章「やさしさという勘違い」、第四章「あきらめという問題」として、こういった現状への課題提起がされています。
ぜひ、読まれることをお勧めします。

未払い行動への対処法について

では、未払い行動への対処法は、どのようにしたらよいのでしょうか。

未払い行動への理解が広まることが重要

まずは、一般に未払い行動への理解が広まることが重要だと考えます。
未払い行動の場合、本人が意図的に会計をしていないわけではありません。

丹野さんのエピソードで隣にいた奥さんが声をかけたように、店員さんが「お会計がまだのようです」「お会計のレジはあちらです」などと声をかけてくださることでご本人が未払い行動に気づき会計を行うことにつながります。

実は、「未払い行動」という言葉自体が、こういった課題が生じていることを広く認知してもらうことを目的として福岡県若年性認知症支援コーディネーターである阿部かおりさんが作った言葉です。

不安が高まると力が発揮できない

未払い行動の原因として、もの忘れや脱抑制という認知症の症状をあげました。
不安が高まることでこれらの症状が悪化します。

といっても不安が高まることで力が発揮できなくなるのは誰にでも起きることです。
みなさんも、人前で話をする際に緊張して話すことを忘れてしまったという経験はあるのではないでしょうか。

認知機能が低下していて一つの手続きに時間がかかるようになると、レジで自分の後に列ができた際に「早く会計を済ませなければ」と焦ることがしばしばみられます。
レジでの会計が不安が高まる一つの要因となっているのです。

スローレジという提案

そこで最近、ゆっくりと支払いを行いたい方向けに一部のレジをスローレジとして設定している店舗が出てきています。
スローレジの列だと、後ろに並んでいる人もゆっくり会計を行うことを望んでいる人たちなので焦らず会計ができるそうです。

また、レジに列ができている際に焦るのは客だけではありません。会計を行う店員もお客さんを待たせては行けないと焦っています。これが、スローレジの際は会計を行う店員も余裕があるので、お客さんが聞き取りやすいようゆっくり話すことできるようになるという利点もあります。

福岡県の行橋市では、前述の阿部さんが中心となり、スローレジの取り組みが積極的に行われています。

テクノロジーを活用する

私自身、テクノロジーを活用して認知症フレンドリーなまちづくりをすすめるという活動をしています。

小売業界でもさまざまなテクノロジーが活用されているなかで、オンラインストアや無人レジなど業務の非人間化がすすんでいます。

フランスではじまったスローレジですが、もともと認知症の方向けというわけではないようです。

テクノロジーを活用することで余裕ができた人員がその分対人業務に時間をさくことができるようになれば、認知症の人をふくめた多くの方が買い物を楽しむことができる社会になると考えています。

追記 2022.12.15
認知症当事者とともにつくるウェブメディアである「なかまぁる」に、未払い行動についての記事があがっていました。
この店長さんのような対応が当たり前になるといいなぁと考えています。

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