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“本当の”話です
2017年に、先行してアメリカで出版されていた本の翻訳版が日本でも出版されました。それは「大草原の小さな家」シリーズのローラ・インガルス・ワイルダーのオリジナル原稿に詳細な解説・注釈を付して全米ベストセラーとなった『パイオニア・ガール』の邦訳本。
この本を読むと、ローラが覚書として書いた原稿から“読み物”に仕上げたいろんな経緯が読み取れ、ローラ研究家はもちろんのこと、「大草原の小さな家シリーズ」の愛好家の方にも垂涎の的のような一冊です。
ですが・・・
オリジナル原稿の存在を知って、「失望した」という方も中にはいるそうです。
「あの本は“本当の話”じゃなかったんだ・・・」と
「パイオニア・ガール」の翻訳も手掛けられた翻訳家の方にカフェで開いていただいている茶論トークでも、その話題が出ました。
茶論トークのある回で、まだ存命だったころのローラの肉声のインタビュー音源を紹介くださったことがあります。
そのインタビューの中で、質問者に
「あの話は“real”なのですか?」
と聞かれた答えにローラは
「えぇ
あの話は“true”ですよ」
と返しています。
「大草原の小さな家シリーズ」はもちろんのこと
私小説的な作品においても、事実をそのまま書くと生々しく、とても読み物として愉しめない、と翻訳家の方はおっしゃいます。
自分の経験を、第三者が読んでも愉しめるものにするために、読み物として完成度を高めるために“演出を加える”ことは文学的にもとても大切なこと。
それは、伝えたいことが「著者が経験した生々しい事実」ではなく、
「その経験を通じて知り得たすばらしいこと」であるから、かもしれません。
事実にないことを捏造するのではなく、事実をベースに読み物として完成させる。それをローラは“true”と表現したのですね。