革命は本当に起きた~みやすのんき『腕振り革命』
ランニングの腕振りについて、ベテラン諸氏に聞くと「自然に振る」とか、そんな答えが返ってくる。「自然にって何だよ」と、思う。
自然に振るだけで、たとえばキプチョゲ選手はどうしてあんなにヒジを後ろに引いたような感じになるんだろう?
ほぼ水平。「速いから」?「腕が長いから」?
そんな疑問を持ち続けてはや数年、満を持して発売されたみやすのんきさんの『腕振り革命』
これを読んで走った結果、
腕振りがついにわかった。それもわりと確信している。
三度美味しい『腕振り革命』
本書については一昨日も、
①腕振りを知る
②体全体の運用を知る
③フォーム改善に役立つ「コツ」をたくさん得る
一冊で三度美味しい本であるとしたうえで、とりあえず気になった「③コツ」を試してみたらすごい結果が得られたというレビューを書いた。
その後さらに読み込み、今日はいよいよ本書のテーマである「①腕振り」を試した。先に言っておくと、この記事ではあくまで本書を読んで試したこと。その結果、ぼくが得られた感覚や実感、考察をぼく自身の言葉で書く。くわしくは是非本書を読んで欲しい。
腕は、「遠慮なく落とす」
今までは、腕を前後に振っているだけだった。そうではない。腕を後ろに引く際に、手を含めた前腕を、スネアドラムをフォルテの音量でホールいっぱいに響かせるときのように遠慮なくドンと落としてやる。前腕の軌道は「↘↗」より、「↓↗」と言った方が近い。まず下方向に落とす。その瞬間を、逆脚の着地モーメントに同期させて、脚と腕の合わせ技で地面に重みを伝えてやる。その反動で、ヒジがおのずとグッと後ろに引かれる。キプチョゲのヒジはこれだったのかと感じた。
「腕」はどこからはじまるか
『ボティ・マッピング』という本は、『腕振り革命』の理解をおおいに助けるはずだ。
『ボディ・マッピング』によれば、腕とは、
①肩甲骨 Shoulder Blade
②鎖骨 Collar bone
③上腕骨 Humerus
④前腕 Lower arm
⑤手首 Wrist
⑥手 Hand
である。
肩峰(肩の骨が出っ張った部分)から腕が始まるのではなく、肩甲骨・鎖骨から、腕は始まっているのだ。腕を後ろに引く局面で落とす意識を持つのは前腕から先だが、その動作を上腕骨周りの筋肉でやると力みが生じてかえって疲れてしまう。肩甲骨・鎖骨の動きを起点としたムチ(または波)の動きで末端に伝えてあげることが大事である。上腕から先の筋肉の基本的な役割は、軌道が暴れないように最低限の力で制御することだと思う。
チェックすべきポイントは
①腕に力みがないこと
②力みが無いが、腕や脚が元気よく動く
③体幹で生み出した力が伝播して、最終的に地面に伝わっている実感がある
といったところだ。
腕を使わないランニングとは、塩気の全くない料理のようなものだ
今まで「地面反力」が感覚的にやや漠然としていた。また、脚の軌道が低く、靴底の厚いHokaOneOneなどのシューズでつまずいたことが何度もある。しっかりと腕が振れるようになることで、地面反力がより明確に感じられるようになり、脚の軌道も明らかに高くなった。
エリートランナーの中には腕を鋭角にしたまま走るランナーや、逆に鈍角で走るランナーがいるのは知っていて、自分もこの本を読むもっともっと前に両方試したが、何ら変化を感じられなかった。いまだからわかるのは、地面への意識を持たない腕振りは、スネアドラムの上で素振りをしているようなものだったのだ。そりゃ音を出さないと音の違いはわからないよなというレベルである。
まさに革命が起きた。腕を使えていなかったということは、
「塩なしで料理していたようなものだ」
そう思った。『腕振り革命』のタイトルは伊達でない。