【C向けサービスのPMF達成ステップ】③熱狂にフォーカス
ベンチャーキャピタルW fundの佐藤です。
スタートアップやメガベンチャーでPM・事業企画の経験を経て、現在シードアーリーステージの主にBtoC/BtoBtoCサービスを中心に投資活動をしています。
前回、具体的にユーザーインタビューの進め方を紹介しつつ「ステップ②センターピンの発見」をご紹介しました。
今回は、PMF達成の「ステップ③熱狂にフォーカス」と題して、ユーザーを満足させるプロダクトを作るプロセスについてご紹介していきます。
toCプロダクト開発/運営中の皆さんのヒントになれば幸いです!
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1. たった一人を熱狂させる
"【C向けサービスのPMF達成ステップ】②センターピンの発見"のnoteにあるようにセンターピンとなる初期に狙う顧客セグメントが見えてきたら、その中からさらに超具体的な個人"N1(一人の顧客)"にフォーカスしプロダクトやマーケティングのアイデアを磨き込んでいきます。
大きな事業を作るにあたり直感に反するかも知れませんが初期は、課題が深く既に顕在化している超具体的な個人を見つけ、無数にある小さな課題や改善点は無視し、本質的で大きな課題の解決を目指して解決策を作っていくことが王道となります。
サービスをリリースした時に、確実に喜んで使ってくれる人物をイメージすることで最初に作るべきプロダクト機能/体験の優先順位・リーチ方法が分かるようになります。逆に作るべきプロダクト体験やリーチ方法がよく分からない場合、どこか自身の妄想に頼ってプロダクトを考えてしまっていないか振り返り、超具体的な個人"N1(一人の顧客)"を理解することが大切です。
"N1(一人の顧客)"の情報は以下のようなペルソナやカスタマージャーニーに整理して、人物像や課題やジョブが発生する状況、現在の代替手段、課題の本質的な原因をクリアに言語化していきます。
2. "フック"となる解決策の構築
ユーザー像、課題が発生する状況、現在の代替手段、課題の本質的な原因が整理出来てきたら、10倍良く解決できる最適な解決策を検討・構築していきます。
最初は可能性のある解決策を多く出すことが望ましく、解決策のアイデア = 仮説に対して以下に述べるような検証を進め、課題解決度合い・経済性・技術的実現性から最適な解決策を見つけ出していきます。
この解決策を見つけ出し構築するステップで最も気をつけるべきものは"時間"です。解決策の構築には時間がかかりますが、この時点の解決策のアイデアには、「フックとなるコンセプト」「最適な機能/UI」「マーケティング方法」「プライシング」等多くの仮説が含まれています。「ニーズがないものを作り失敗」とならないよう、思い込みにリソースを割かないリーンな検証が求められます。
先日Discordに買収されたGasを立ち上げたNikitaさんは、過去4つのヒットサービスを作る際に毎回20回ほど失敗してきたと述べています。
リーンな検証を行う方法として、MVP(実用最小限の製品: minimum viable product)という考え方が普及しています。
以下の図をご覧になったことがある方も多いかと思いますが、最低限実用的(顧客に価値提供できる)なプロトタイプを使い、仮説を検証していく考え方です。最初からスケール可能な完璧な状態の製品を出そうとせず、顧客との対話の中であるべき姿を定義していきます。
MVPの考え方の補足として、以下の考え方もご紹介します。
MVPは一度それなりのβ版を作ることではなく重要な仮説を検証していくトライアンドエラーのプロセスであるというマインドセットで、いかに早く失敗(=学び)を得られるかを重視する考え方です。
実際、大きく成長していったスタートアップは時間や資金が限られている中で如何に試行回数を増やせるか、ハックすることが上手いチームが多いです。解決策に含まれる多くの仮説の中でも、最もリスクの大きいノックアウトファクターから順に素早く検証していきましょう。
3. 解決策の検証に使われる手法
素早く解決策の有効性を検証するために、ほぼ開発が不要な方法を含め良く使用される手法があります。以下にいくつか事例を紹介します。
前述の通りいかに早く失敗(=学び)を得られるかがこのフェーズでは重要であり、スピーディにスケールしない方法で良いのでソリューションを提供し学びを得ることが優先されます。
「プレオーダー」の例
"開発するも使われない・売れない"という最悪の状況を避けるために事前に興味関心やコミットメントを図る手法です。
例えば、「家電のお試しレンタルサービス レンティオ」は、初期に在庫がない商品も「商品ページ」を作り、アクセス解析で「PVが集まっているページ」を把握、「どの商品に特に強いニーズがあるか」「初期の時点でも自社が代替手段より優位に立てるか」を把握しました。
また、一般的に高コストになりがちなハードウェアでもこの手法は有効です。「次世代型電動車椅子WHILL」は“Sell before you build it”で特に熱量の高いユーザーを特定しプロトタイピングを進めていきました。
オズの魔法使いの例
もう一歩進み、解決策の有効性やUX、オペレーション等を検証する手法です。表面上、簡単なサービスをFigma等で作り、裏側は作り込まず手動で対応していきます。
例えばAirbnbは初期に、決済機能・地図・日付指定等の機能無し、在庫(ホスト/宿泊場所)の仕入れもなく、ただ”有料で宿泊するかどうか”というノックアウトファクターの検証のみにフォーカスし、フックとなるコンセプトの有効性やオペレーション等を確認しています。
解決策の有効性を検証し、以下のポイントに確信が持てたらいよいよプロダクト開発に着手します。スタートアップ・フィット・ジャーニーのいわゆる「Problem Solution Fit」ができている状態です。
4. 解決策のコンセプトをプロダクトへ
解決策の有効性がわかれば、続いて解決策をスケールし得る製品にしていくプロセスです。基本的には以下のように継続的に「構築」「計測」「修正」のサイクルを行い製品開発を進めていきます。
プロダクト開発においてももちろんスピードが重要です。Linkedin創業者リード・ホフマンは「最初のバージョンで恥ずかしい思いをしないならリリースが遅すぎる」と表現しています。本当の学びは製品をローンチして顧客の声を聞くことから得られます。
未熟な製品をリリースしても使われないのでは?と心配になるかも知れませんが、新しい製品を早くから使うイノベーター層と呼ばれるユーザーは不完全な製品を気にしません(本当に刺さっているサービスはバグがあっても使われます)、また品質を気にするマジョリティ層に皆さんの製品が受け入れられる頃には誰もVer.1がどんなものだったのかを覚えていません。
開発に着手する前に
なるべく効果的に開発サイクルを回せるように、開発を進める前にいくつか整理しておくべきポイントがあります。
まず、ペルソナやここまでの解決策の検証内容を踏まえ、プロダクトを提供し実現すべき顧客体験・カスタマージャーニーを定義しましょう。
ユーザーは何をきっかけにサービスを使い始め、プロダクト上で何をして何を得ますか?また、もう一度サービスの戻ってくる理由はなんでしょうか?(参考:Hooked)
あわせて初期に開発するプロダクトの画面遷移も準備していきます。あるべき顧客体験から各画面に求められる要件を言語化、ワイヤーフレームを設計しデザインを作っていきます。
ユーザー次第で、いくつかの使い方が想定できるかも知れませんが、初期は幹となるメインのジャーニー、フックとなる機能/体験にフォーカスしたプロダクトを開発していきます。豊富な機能を無難に揃えるのではなく、シンプルにコアとなる機能/体験で代替手段の10倍の価値を出せる状態が重要です。
また、リリースしたプロダクトがユーザーに刺さっているのか検証可能な状態とすべく計測するKPIを決めておきましょう。上の図にあるように、新規ユーザーの初回利用から継続利用、収益化までカスタマージャーニーの各段階にKPIを設置しサービスのどこに課題があるのかを測るAARRRモデルがよく使われるフレームワークです。
リリース後の検証注力順
プロダクトをリリースした後は、まず最初1番目にユーザーに価値を提供できているか「Activation(活性化)」に注力します。
価値を感じられないものをユーザーは継続利用しませんし、継続利用されないもので顧客獲得を進めても"穴の空いたバケツ"に水を注ぐように意味がないからです。
誰に何が刺さっているのか、代替手段より10倍優れているポイントは何か、それをユーザーが実感するAHAモーメント(熱狂するきっかけとなるサービスのコアな体験)を明確にし、新規ユーザーがAHAを体験できるよう初回体験/オンボーディングを改善することが「Activation(活性化)」に重要です。
その次2番目に「Retention(継続)」に注力し、想定した頻度や顧客単価で使われ続けるmust haveなサービスにできているのか確認します(リテンションの測り方)。Activation(活性化)やRetention(継続)を確認/改善し"バケツの穴"を塞いだ後にグロースに注力していくこととなります。
また、上図でReferral(紹介)かRevenue(収益)どちらを優先するかはそのサービスの成長エンジンが何かにより変わります。バイラルで成長するモデルならバイラル係数が、広告やセールスで成長するモデルならLTVの改善が、またコンテンツ/SEOの場合は狙っているプラットフォームで検索上位を取れるかが重要となります。
5. プロダクトの熱狂を知る
検証注力順1番,2番のActivation(活性化)やRetention(継続)を確認/改善する際に、解決策・プロダクトがユーザーに刺さっているかどうかを検証するには下図のように①~③の3段階のステップと指標があります。
"ユーザーに刺さっているか"は、ユーザーがプロダクトに時間的・金銭的コストを払っているかで知ることができます。そのため③→②→①の順にユーザーの熱量の確からしさが高い指標となります。
一方で、リテンションカーブ(継続率)を正しく知るには数ヶ月~1年程かかりますので、その前の先行指標として①、②を参考にし早く失敗=学びを得ていくこととなります。
これらの指標とは逆にユーザーの熱量の確からしさがわからない指標として、ユーザーが時間的・金銭的コストを払っていないもの、例えば「SNSのいいね数」「登録ユーザー数」「安過ぎるクーポンを出した上での販売数」などがあります。表面的な数値ではなく、ユーザーの熱量がわかるもの・改善アクションに繋がるものにフォーカスしましょう。
それぞれの指標については検索すると多くの参考情報が出てきますので参考にしてみてください。(NPS参考記事例、Sean Ellis test参考記事例、エンゲージメントデータ参考記事例、リテンション参考記事例)
6. ユーザーの熱狂を"コンパス"にプロダクトを磨く
例えば初期のプロダクトをリリースし100人が登録してくれた状況を想像してみてください。
プロダクトがユーザーに刺さっているかどうかを確認するため上記のSean Ellis testを実施し100人の回答を集計すると"とても残念"と選択したユーザーは20%でした。皆さんはそのサービスは基準に満たないので価値がないものと思うでしょうか?あるいはその100人のユーザーが求めているだろう機能を改善/追加し翌月にまたテストをしてみようと思うでしょうか?
ここで思い出して欲しいのが、"【C向けサービスのPMF達成ステップ】②センターピンの発見"のnoteにてご紹介した、シードアーリーステージの限られたリソースでも成果を出すために、センターピンとなる切実に解決策を求めている顧客セグメントから満足させていくという考えです。
Sean Ellis testの"とても残念"の割合を20% → 50%以上に成長させた良い例としてメール処理ツールのSuperhumanの例があります。
彼らは、全ユーザーを漠然とターゲットとするのではなく、"とても残念"と思う熱量の高い顧客セグメントを調査しペルソナを作り、より熱狂的なファンになるように機能を改善しまずプロダクトのユニークさを強化。次に"多少残念"のグループを分析・機能改善し、そのセグメントをファンに変えていきました。
プロダクトを磨くポイント
このような磨き込みをするためのポイントは「セグメントを分けて考えること」と「コホート分析で時間経過に伴うKPIの変化を観察すること」です。
例えば全体のDAU/MAU比率を追ってプロダクトが使われているかエンゲージメントを図るだけでなく、下図Power User Curveのように"どんなユーザーが特にアクティブにサービスを使用しているか"利用者を分解し、熱狂する顧客セグメントを特定した上で、Superhumanの例と同様に何が各顧客セグメントに刺さっているのか見極め、機能・価格・チャネルをチューニングし順に熱狂的なファンを増やしていきます。
そして、時間を分けてコホートで経過を観察していくことでそのチューニングに効果があったかどうかを判断します。
初期は少人数のユーザーでも良いので愛されるプロダクト作りが肝要です。またそれができればスタートアップ・フィット・ジャーニーのいわゆる「Solution Product Fit」ができている状態です。
"N1(一人の顧客)"にフォーカスし以下のような観点を見極めプロダクトに必要な要件を磨いていきます。
7. まとめ
今回は解決策やプロダクトがユーザーに刺さっているかどうかの検証、及び刺さるようにどう磨き上げていくべきかについての考え方を紹介しました。以下に検討ポイントをまとめます。参考にしてみてください。
おまけですが、弊社の哲学に「どんどん失敗しよう。」というものがあります。失敗の内容は"解決策がユーザーの課題を解決できなかった"でも"ユーザーインタビューが上手くできなかった"でも良いので、スピード重視でガンガン失敗し最速で学んでいきましょう!
次回のnoteでは、【C向けサービスのPMF達成ステップ】④トラクションを作るを紹介します。以下の図で言うと、④「Channel:提供できること」を説明する内容になります。
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今回もお読みいただきありがとうございました!
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それでは次回のnoteでまたお会いしましょう!
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