【C向けサービスのPMF達成ステップ】①魅力的な市場に挑戦
ベンチャーキャピタルW fundの佐藤です。
スタートアップやメガベンチャーでPM・事業企画の経験を経て、現在シードアーリーステージの主にBtoC/BtoBtoCサービスを中心に投資活動をしています。
前回"【C向けサービスのPMF達成ステップ】"概要のnoteにて上記のPMF定義をご紹介しました。
今回のステップ①ではこの「良いマーケット」についてまとめていきます。
toCプロダクト開発/運営中の皆さんのヒントになれば幸いです!
事業や資金調達のご相談はお気軽にご連絡ください!
1. 優れたチームが魅力的な市場で勝負したときに特別な結果になる
Benchmark CapitalのAndy Rachleffさんが上記の表現をするように、スタートアップにとって「どこで戦うか」、市場選定は大変重要な要素です。
そもそもスタートアップとは5~10年間で売上ゼロから数十億円~数百億円のビジネスを立ち上げることを期待されている企業の形です。
大きな市場・急成長する市場で勝負しない限り、この時間軸、このスケールでの急成長を実現できる可能性が低いことは想像に難くないと思います。
結論から申し上げますと、スタートアップにとって"魅力的な市場"とは"既に大きなお金が流れていて、今のタイミングだからより良い解決策を提供できる市場"だと言えます。
昔から変わらない人々のモチベーションと新しいテクノロジーが交差するポイントで特別な結果が起きます。
- "損したくない" x "インターネット" = 価格.com
- "思い出を記録/共有したい" x "スマホ" = Instagram
企業の将来収益は下式で表せることから、今回はこの三要素からスタートアップにとって魅力的な市場について詳しく説明していきたいと思います。
2. 魅力的な市場とは
① 市場規模の観点
スタートアップにとって魅力的な"市場規模"については、売上数十億円~数百億円のビジネスを立ち上げるために少なくとも1,000億円以上の市場規模が望ましいと言われます。
前述の"既に大きなお金が流れていて、今のタイミングだからより良い解決策を提供できる市場"の前半に該当するポイントで、これまでも時間的・金銭的コストが費やされてきた人々の大きな課題に取り組むことが重要です。
市場規模の推計にあたっては、シンクタンク等のレポートを活用したトップダウンでのアプローチと、「市場規模 = 対象顧客数 x ARPU*」に分解し対象顧客セグメントを積み上げていくボトムアップでのアプローチがあります。(*「Average Revenue Per User」1ユーザーあたりの平均売上)
個人的には、スタートアップは世の中には無い新しいプロダクトを作る企業ですので、既存のレポートを基にトップダウンで推計するよりも、起業家が見えている顧客を積み上げていくボトムアップの推計の方が手触り感があり納得感高く表現できることが多いように思います。
①-1.市場規模の観点:対象顧客数
「市場規模 = 対象顧客数 x ARPU」の"対象顧客数"に関連して、市場規模を考えるにあたり特に意識頂きたいポイントが、市場規模を漠然と一括りにとらえず、どの顧客セグメントから順に攻略していくのか、攻略順を踏まえることです。
例えば一口に語学学習サービス市場といっても、ビジネスで利用する人とプライベートの旅行ために学びたい人では、解決する課題・提供すべき価値が全く異なります。特にリソースが限られるシードステージにおいては、コアとなる顧客セグメントにフォーカスすることで、リソースを集中投下し最速で「刺さる」プロダクトを作ることができます。
こちらの内容はステップ②"【C向けサービスのPMF達成ステップ】②センターピンの発見"のnoteにてより具体的に説明していきますが、まず狭く特定のセグメントへフォーカスし、そのセグメント以外にも広がりがあるか考えていくことが基本的な考え方となります。
①-2.市場規模の観点:ARPU
「市場規模 = 対象顧客数 x ARPU」の"ARPU"は顧客への提供価値、つまり"課題の解決度"によって決まります。
どれほどテクノロジーが素晴らしくとも、解決する課題によりマネタイズできる金額には上限があるので「誰の課題をどう解決するのか」「課題 > 解決策」が重要になってきます。
その課題の深さは「解決の必要性 x 発生頻度 x 経済的インパクト」によって定まります。自身のサービスがどんな課題をどのくらい解決出来ているか考えることによりARPUを想定することもできます。
ゲームのようなC向けサービスにおいても、ユーザーは必ずやり遂げたい機能的/社会的/感情的な「目的=ジョブ」があり、そのジョブを解決するためにサービスや商品を採用しています。そのジョブが発生する状況を理解することが重要です。
サービスによるARPUの違いをメジャーなSNSを例に紹介します。
SNSのARPUは、"広告主の課題解決度"="効率良く商品を販売してあげられるかどうか"によって変わります。
高い購買力を持つ人々へアプローチできることや、正確なターゲティング、購買行動への結びつきやすさにより、メジャーなSNSにおいても10倍程ARPUが異なります。
前述の対象顧客セグメントの検討と合わせて、例えば売上10億円/年を作る時点でどのような「ユーザー数 x ARPU」の掛け算になるのかをざっくりでも早い段階でイメージしておくことは重要です。
どのような手法でその規模までスケールしていく必要があるのか、ARPU次第でLTVはもちろん、利用可能な顧客獲得方法も異なりますので、ターゲット顧客/課題 x 提供プロダクト x マネタイズ xマーケティングチャネルは整合している必要があります。この辺りの内容は"【C向けサービスのPMF達成ステップ】④トラクションを作る"のnoteにて別途整理していきます。
② 市場成長率の観点
スタートアップにとって魅力的な市場かどうか、市場規模・市場成長率・市場シェアの三要素の中で、最も重要な要素が市場成長率、つまり市場に参入するタイミング("Why now")だと思います。
私自身グリーやウェルスナビ在籍時に、ネイティブゲームが流行し始めた中でWebゲームを運営した経験や、「貯蓄から投資へ」の国策に合致したロボアドバイザーサービスの事業を推進していた経験から、タイミング良く波に乗っているかどうかはプロダクトやマーケティングの良さを超えてインパクトが大きい要素だと感じました。
米著名VCのSEQUOIAもアイデアの選び方を書いた記事で「今は小さいが将来大きくなる市場に取り組むこと」「波を起こすのではなく、大きな波の発生を見極めて波に乗ること」をアドバイスし、シャオミ創業者の雷軍氏は「風をつかめば豚でも空を飛べる」とまでタイミングの重要性を強調しています。
市場成長性を考えるにあたっては、マクロ環境を分析するPEST分析の観点が役に立ちます。政府による規制の見直しや、経済水準/所得変化によるユーザー行動の変化、人口動態や働き方の価値観の変化、新しい技術/デバイス/プラットフォーム/ディストリビューションの登場等々により、急激に大きくマクロ環境が変化する際にスタートアップにとって魅力的なチャンスが生まれることがあります。
今だから解決できる大きな課題は何でしょうか?
例えば私が創業期からご支援していたバーチャルオフィスサービス「oVice」は、新型コロナウィルス流行を機に広まったリモートワークの課題を解決すべく登場し(物理オフィスでの連帯感や「ちょっといい?」を代替)、政府による緊急事態宣言(Politics)や「リモートワークの流れは不可逆で大きく働き方が変わる」と働き方の価値観(Society)の変化でニーズが顕在化し、リリース前年までバーチャルオフィス市場がほぼ存在せず競合となる大企業も無い中で急成長を遂げました。
"When a great team meets a great market, something special happens."が起きた例です。
ただ、市場成長性の留意点として、大きなトレンドとしてリモートワークが普及していくと考えていても、2020年にコロナウィルスがきっかけで普及することは誰も予想していたかったと思います。
タイミング("Why now")がいつ来るかは誰にも正確にはわからないので、ピーター・ティールが言うところの、自分しか知らない「賛成する人がほとんどいない、大切な真実」を信じ、その時まで事業を積み上げていくことが求められます。
③ 市場シェアの観点
いかに大きな規模・成長率の市場においても、自社がシェアを獲得できなければ、将来大きな収益を作ることは難しいものとなります。
自社の優位性を考えるにあたっては、まず参入する際に業界構造(参考:ファイブフォース分析等)やターゲットとしている顧客セグメントのKBF(重要購買決定要因:Key Buying Factors)を理解し、"尖った*"バリュープロポジションを作ることが重要です。
(* 豊富な機能を無難に揃えるのではなく、コアになる機能/体験で代替手段の10倍の価値を出せる状態)
中長期的にシェアを維持するためには、その市場で勝ち残るためのKSF(成功のカギ:Key Success Factors)を特定し、他社に先駆けMoat(参入障壁、ユーザーが選び続ける理由)を築く必要があります。
例えば、配車サービスのUberであれば、KBFは素早い配車時間であり、中長期的には都市毎にユーザー数・ドライバー数を拡充しネットワーク効果を高めることでMoatを築くことが重要となります。
3. 魅力的な市場の見つけ方
それでは上記のような市場規模 x 市場成長率 x 市場シェアの優れた市場を見つけるにはどうしたら良いでしょうか?
この難しいポイントは、既に十分大きく成長している市場は大手企業/スタートアップ含め多くの競合サービスが参入している可能性が高く、これから5~10年で成長する市場を見つけなければならない点です。
そのため、有効なアプローチは成長市場の兆しを捉えるものとなります。
以下に4つほどアプローチ方法を記載します。
① 自身やターゲットとする人物の行動の中から解決すべき課題を見つける
多くのtoCサービス着想のきっかけになっているのは自身の課題を解決するアイデアです。
例えばDropbox創業者のDrew HoustonはUSBスティックを忘れてしまった経験から気付きを得ています。
また、「Burbn」というロケーションチェックインアプリからそのサービスのイチ機能としてユーザーに好評だった「写真共有」を切り出して「Instagram」を創った、Instagram創業者のように別サービスを提供中にターゲットの行動観察をする中で気付く場合もあります。
皆さんの日々の生活の中で、今のタイミングだからこそ解決できる課題をありますか?
② 自身や優秀な人物が熱中していることをヒントにする
その業界で最もリテラシーの高い人たちが熱中している活動が将来民主化され未来の当たり前になっていくことがあります。
Coinbaseも2010年頃にビットコインのホワイトペーパーに出会い、そのアイデアに夢中になった創業者が週末に開発を進めていたサービスです。
③ 大きなトレンド・パラダイムシフトから逆算して考える
例えば国内では少子高齢化が進み各業界で労働力不足が深刻化していくと言われています。皆さんが関心のある業界は5年、10年、20年後どうなっているでしょうか、またどうあるべきでしょうか?
アマゾンのジェフ・ベゾスはヘッジファンドで働いていた時にインターネットの利用が年間2,300%増加していることを知り、インターネットが普及した未来を考えインターネットで物を売る事業をスタートしました。
④ 海外サービスをヒントにする
世界中で何十万、何百万人の起業家・起業準備中の方々が上記のようなプロセスでアイデアを考えプロダクトを作り、グローバルでは年間数万件の資金調達が行われています。それらの知恵を活用し日本でも普及し得るアイデアのヒントを得るのもオススメです。crunchbaseでシリーズA,B調達を行い急成長中の会社や、ユニコーン企業のリストなど見てみるとビビッと来るものがあるかも知れません。
4. まとめ
以下に市場選定を検討するためのポイントをまとめます。参考にしてみてください。
今回は以下の三要素から、スタートアップにとって魅力的な市場について説明してきました。一言でいえば、スタートアップにとって"魅力的な市場"とは"既に大きなお金が流れていて、今のタイミングだからより良い解決策を提供できる市場"だと思います。
また、この式を本記事の内容も踏まえさらに分解すると以下のように表すことができます。
将来収益 = 対象顧客数 x 課題の深さ x 課題解決度 x 市場成長率 x 市場シェア
これは平たく言うと以下の質問をしていることと同じです。
「誰の、課題を、どう解決するのか、なぜ今なのか、代替手段、あなたがやる意味は何か?」
私の前職で10年以上シードスタートアップを支援してきたシードアクセラレーターOpen Network Labでは、以下の7つの質問に端的に答えられるアイデアがあなたのスタートアップ にとって良いアイデアであると伝えてきました。思い付いたアイデアはまずこの質問に答える形で言語化してみることをオススメします。
次回のnoteでは、ステップ②センターピンの発見を整理します。
以下の図で言うと、②「User Need:顧客の課題」を説明する内容となります。
ーーー
今回もお読みいただきありがとうございました!
引き続き、起業家・PM・エンジニアの方々がベストプラクティスをシェアしていけたらと思っています!
起業家/起業準備中の方々の事業や資金調達についてのご相談はお気軽にtwitterからDMください!
それでは次回のnoteでまたお会いしましょう!
見逃さないようにしたいという方に向けて、下記ニュースレター形式でも配信しています!