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読書記録 [チック・コリアの音楽]山下邦彦

チック・コリアが亡くなったので読み始めたわけではないのだが、コロナ禍以降、家にいる時間が増えたのを幸い、15年くらい前に当時近くだった古本屋(*)で買ったままだったこの本を半分くらいまで読んだところで、死去が報じられた。


実用書として、楽器片手に譜例をさらいながら読んだ。

基本的には、色々いいことが書いてある。書いてあるんですが、文章の量はもっと少なくてよかったなあ・・・

前半、各種のペンタトニックと、そこからの和音の話などは面白く、楽器を弾く者にとって、ジャズのみならずいろんな音楽を意識的に聴く際のツールとして汎用性が高いと思う。

「ファ」の入ったメジャースケールの7音を同時に鳴らした状態は調和ではない。というスタート地点から、最終的に12音に行き着く「音が多いほう」のアプローチがリディアン・クロマチック・コンセプト(生齧りなので引き合いに出すのがはばかられるが)だとすると、これはその逆の、音が少なくオープンな方向のアプローチなのかもしれない。

一方で、読むにあたって括弧に入れないといけないところも多い。

解釈で言うと、

・いわゆるジャズ理論的な「ダイアトニック+ドミナント⇨解決」の軸に対し

・ビートルズを参考例とした非II-V的な進行をもうひとつの軸とし、「ペンタトニックを基本とした)スケールの変化」をそのフレームワークとする。

・チック・コリアの作品の、転回形や部分的な転調、平行移動などなどで説明される技法を度数で解釈し、スケールが変化する様子を、著者は「メタ・ブルース」と呼び、これは2つの軸にまたがるコンセプトである。

というようなことかと思うが、文章の佇まいの点で少し。

説明のための中間的な概念について独自の命名を行い、それを一般的な用語のように用いる点(同じ著者の「坂本龍一の〜」等でもそうで、芸風と言える)や、文末に「〜わけだ。」という自己解決的・断定口調が頻出する点、ケージとクセナキスから広島の原爆にいたる一節など、については『○○の音楽を素材にした、山下邦彦の本』を読みたい人にはよいだろうが、そうでない読み手としては閉口した。


そういった部分はともかく、「ダイアトニック+ドミナント→解決」から離れた枠組みを提示し、その上でチック・コリアの実際の楽曲から抜き出したいろんな技法を紹介・説明しており、プラクティカルな意味で良い読み物だ。


いずれにせよ絶版ですが・・・Amazonで見てみると、安くて数万円、高くて数十万円というおかしな値段がついている。


(* 東京中野区、沼袋の天野書店。歴史・哲学が充実した、骨太な古書店です。)

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