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ドブネズミをめぐる父娘の会話
「パパ~、昭和末期の言い伝えにね、『ドブネズミにはドブネズミ特有の美しさがあって決して写真には写らない』っていうのがあるんだけどさ、『ドブネズミだけが持ってる見えない美しさ』って何?」
「うーん。ドブネズミだけって訳でも無いんだろうけど、そもそも『人間の生活圏内で生きてる哺乳類』って、人間の都合のみによって繁殖させられているやつばかりだろ?食べるため、愛でるため、賭けるため、実験するため、色んな人間の都合で人間の得になるためだけに『生』をコントロールされている哺乳類ばかりだ。そんな中でドブネズミは確実にドブネズミの都合で走り回り恋をし繁殖しているよね。そういう意味なんじゃないかな?」
「人間が生命を支配するディストピアで自由を求めて戦うレジスタンス運動の旗手それがドブネズミ、みたいな?」
「まぁ、大袈裟に言えばそうとも言えるのかな」
「でもパパ、その言い伝えの中にはね、『誰よりもやさしく何よりもあたたかいのがドブネズミである』とも記されているの。パパが言う『人間の手による繁殖レイプから逃れられている数少ない哺乳類』的な表記はどこにも無いのによ?ねぇパパ、私は今まで『やさしさ』とか『あたたかさ』って人間の持つ価値観だと思ってたんだけど、この言い伝えを元に推察すると『ドブネズミのやさしさやあたたかさは人間のそれを遥かに上回る』ってことになるよね。それって凄い事だと思うんだけど、パパはドブネズミと交流した経験とかあるの?」
「パパはっていうか、ドブネズミと交流した経験のある人間なんてあまり居ないんじゃないかな。ただまぁ、その言い伝えを最初に発した人は凄く濃密な交流をした特別な人なのかも知れないね」
「ドブネズミと濃密な関係だった人かぁ~、会ってみたいなぁ~」
「それよりリンダ、早く風呂入らないとまたママに怒られるぞ」
「はぁ~い、じゃあねーパパ、おやすみー」
「おやすみー」