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【書評】『アルファベット そして アルゴリズム 表記法による建築-ルネサンス からデジタル革命へ』マリオ・カルポ著

変化する建築家の原作者性  

私は卒業論文で、彫刻遊具の形状を設計段階で自在に変形できるアルゴリズムを設計した。その際に気づいたことは、設計の最終段階を他者にゆだねることで、デザイナーと他者、そして製作物の関係性が大きく変化するということだった。そこで、設計にアルゴリズムを用いることが具体的にどのような可能性を秘めているのかを知りたく思い、この本を選んだ。

 著者のマリオ・カルポ氏はルネサンス時代を専門にする建築史家でありながら、建築の表記法に注目する独自の視点をもつ。前著"Architecture in the age of printing”(2001)では、1450年頃にヨハネス・グーテンベルクが発明した活版印刷技術とレオン・バティスタ・アルベルティが発明した建築図面の普及が建築界に与えた革命的な影響について論じてある。そして本著では、前著で論じたルネサンス時代の印刷技術・図面による革命と、20世紀後半のデジタル技術による革命とを比較し、デジタル革命の真の意味を歴史的な視点から論じている。

カルポ氏によれば、デジタル技術の発達によって建築図面が技術的に必要なくなったことで、これからの建築は図面が普及していなかったプレ・アルベルティの時代の建築に部分的に回帰するという。また、建築家が図面を描くことで原作者として認められていた時代は終わり、アルゴリズムの設計によって類的オブジェクト(変数の操作によって変形する一連の形態)をデザインする新たな原作者になるか、類的オブジェクトから種的オブジェクトを特定する二次的な原作者になるか、建築家は選択を迫られている。これが本著におけるカルポ氏の主張である。

<他者>の可能性とは

では、原作者性の変化は建築にどのようか可能性をもたらすのだろうか。まず、コンピュータをベースにしたデザインと製造の垂直的統合は、例えば部材を規格化による束縛から解放し、部材ごとのパラメトリックな変形を可能にする。また、オープンエンドでインタラクティブな新しいデザイン環境は、デザインや生産にかかわるあらゆる人間の仕事を水平的に統合し、建築家以外にデザインの権限の一部を譲渡することを可能にする。近代以降、建築家が図面によって遠ざけてきた<他者>は、現在ではデザインや生産に集団的に関わることができ、さらには建築家がデザインした類的オブジェクトをパラメトリックに操作して種的オブジェクトを特定することができるようになったのである。類的なオブジェクトをデザインする建築家は、他者のふるまいをコントロールしあるいはドライブさせて効果的に設計や生産に組み込むことで、建築家が恣意的にデザインした個別的な形態とは全く異なる、コレクティブな形態を構想することができるようになるのではないだろうか。


書誌

著者:Mario Carpo
書名:アルファベット そして アルゴリズム 表記法による建築-ルネサンス からデジタル革命へ
出版社:鹿島出版会
出版年月:2014/9/3

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