光学的タイポグラフィーYCAM OpenLab 2018
上図は2018年に私がデザインした「YCAM OpenLab 2018」のポスターです。紙面全体に敷きつめているイメージは、写真家山本渉氏とYCAM InterLab(私は当時YCAMに勤務していました)とで共同制作したものです。簡単に記すと「太陽光がY型の氷文字を通して写しだされたイメージ」です。今回はこの写真のプロセスを具体的に記していきたいと思います。
アイデア
アイデアスケッチの際に2つの条件をつけました。ひとつには前年「YCAM OpenLab 2017」のヴィジュアルを引き継いだものにすること――前年に制作した紙面はタイポグラフィを特色4版で重ね刷りし構成しました。このプロジェクトは毎年継続するプロジェクトのためヴィジュアルで共通点をもたせるというのが有効です。ふたつめに今回は印刷ではなく、写真における光学プロセスを用いて多色タイポグラフィを生成することでした。その時に思い出したのが2014年夏に新宿のギャラリーにて拝見した山本渉氏の『啓蟄』という作品でした。それは光を巧妙に扱った作品です。彼であれば私のアイデアを実現できるのではないかと考え協力していただくこととなりました。
プロセス
この制作プロセスは、山本渉氏の『啓蟄』という作品制作プロセスをベースにしています。ただし文字を扱うという点でマイナーアップデートが必要になりました。
1|氷文字(=アイスタイポ)の制作
まず氷文字を作ります。そのために水を入れて氷をつくるための容器(金属活字における母型)をつくります。はじめにAutodeskの123D(提供終了)で設計し、Makerbotでポジ型を成形します。更にまたその3D造形を元にシリコンでネガとなる母型をつくりだします。このシリコンに水を入れて凍らせることで氷文字が出来上がります。
[3DプリンターMakerbotでの文字母型試作]
2|撮影
まず撮影について用意するものは以下です:
- ピンホールカメラ
- フィルムカメラ
- 氷文字=アイスタイポ(step 1にて制作)
ピンホールカメラに忍ばせたフィルムの上に氷文字をのせて撮影をしています。
[最初のテストシューティング]
シャッタースピードは約1秒、ピンホール部分をテープで開閉しています。私たちは画面に映りこまないようにふせたり、仰向けになったりしています。
[溶解した氷文字、使用したフィルム]
3|現像
空の色、氷の分光、そしてフィルムとの化学反応で様々な色を生成します。実際に氷文字の厚みや、形状のスタディを繰り返し最終案を導き出しました。
[本番では使用しなかった写真たち:文字中で光が屈折していたり、氷の表情が強かったり、紫色が強く出ていたりします]
過去に遡ると1925年にバウハウスのモホリ=ナジによって「タイポフォト」と名付けられたタイポグラフィの写真作品が制作されています。追って文字盤を透過した光を1字ずつ露光して植字していく写植が開発されていきました。そもそもシルクスクリーン、オフセット印刷などほぼすべての印刷においては光学的プロセスを経て版を作成し紙に印刷されるのでグラフィックデザインと写真は密接な関係にあると言えるかもしれません。ただし実際には自らがそのプロセスに携わることがないのであまりそういう意識がありません。今回は印刷の版自体の作成に踏み込んだわけではありませんが、写真を用いることで光学的タイポグラフィの可能性を垣間見ることができました。
参考サイト/文献:
フォトグラム Photogram https://artscape.jp/artword/index.php/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0
山本渉『春/啓蟄』
https://artscape.jp/report/review/10102497_1735.html
モリサワ第五回 技術と方法 2 写真植字https://www.morisawa.co.jp/culture/japanese-typesetting/05/
『タイポグラフィの基礎』小宮山博史編 手動写真植字機 電算写真植字システム pp.94–96 誠文堂新光社 2010