<<創作大賞 恋愛小説部門>>連載小説「憂鬱」-19 美里がいよいよニューヨークで起業する
美里はまず人材派遣会社に就職することにした。これは彼女が将来的に自分の会社を設立するための一歩として選んだ道だった。人材派遣のビジネスは、比較的少ない資本で始められる上に、ネットを活用することで効率的に運営できるというメリットがあった。
美里が就職したのは、ニューヨークに本社を構える中堅の人材派遣会社だった。ここで彼女は、人材発掘のノウハウや経営の方法を学ぶことを目指していた。
「美里、まずはこのリストを見てください。ここには今月の新規登録者が載っています。彼らのスキルや希望職種を把握して、適切な企業に紹介するのが私たちの仕事です。」上司のジョンは、美里に親切に説明してくれた。
「はい、ありがとうございます。早速取り組みます。」美里は、熱心にメモを取りながら答えた。
美里は、毎日大量のデータと格闘しながら、候補者と企業をマッチングさせる作業に取り組んでいた。彼女はそのプロセスを通じて、どのようなスキルが現在の市場で求められているのか、企業側のニーズがどのように変化しているのかを学んでいった。
近頃は検索機能やAIによるデータ比較で人材と人材を求める企業とのマッチングを行ってくれてはいたが、ぞれぞれにマッチする人間の素質や技量を見抜くには、まだまだ人間の直感のようなものが必要だった。
「ジョン、この候補者はITスキルが豊富で、特にウェブ開発に強いですね。最近、IT関連の求人が増えているので、どこか適した企業を紹介できると思います。」美里は、自分の分析をジョンに報告した。
「いい視点だね、美里。その候補者なら、XYZテクノロジーズがちょうどいいかもしれない。すぐに連絡を取ってみよう。」ジョンは美里の提案を高く評価し、早速行動に移した。
美里は、インターネットを活用した人材発掘の重要性にも気付いていた。彼女はウェブサイトの管理やSEO(検索エンジン最適化)についても学び、自分の将来のビジネスに役立てようと考えていた。
「ジョン、ウェブサイトのアクセス数を増やすために、SEO対策を強化するのはどうでしょうか?具体的には、求人情報を検索エンジンで上位に表示させるためのキーワード戦略を考えています。」美里は、新しいアイデアをジョンに提案した。
「いい考えだ、美里。最近では、多くの企業がネットを通じて人材を探しているからね。そのための対策を強化するのは大事だ。」ジョンもその提案に賛成し、美里に具体的なプランを立てるよう指示した。
人材派遣会社での仕事を通じて、美里は多くの経験と知識を積み重ねていった。彼女は、次第に自分の目指すべき方向性が明確になっていくのを感じていた。
「美里、君の仕事ぶりにはいつも感心しているよ。これからもどんどん新しいことに挑戦して、成長していってくれ。」ジョンは、美里の努力を認め、激励の言葉をかけてくれた。
「ありがとうございます。これからも全力で取り組みます。」美里は感謝の気持ちを込めて答えた。
アフター5には、なるべく同僚と近所のスポーツ・バーで軽くビールなどを飲んで、交流を深めた。
スポーツ・バーに集う、アメリカ人の若い男性との会話は、フットボールやバスケにベースボールと、スポーツの話ばかりで、まったく美里には興味のない世界だったが、英語の上達のためと、笑顔をとりつくろって頑張った。
美里は仕事に没頭する日々の中で、数年後にようやく日本に帰国する機会を得た。
「ママ、私は今、人材派遣会社で働いていて、とても充実した日々を送っているの。いろいろと学ぶことばかりだけど、やりがいを感じているわ。」
「美里、あなたが頑張っているて、仕事が楽しいって聞いて、嬉しいわ。これからも自分の道を信じて、続けていってね。結婚や出産なんて、私は古風なことを要求したりしないから。」恵子は、美里を励ました。
その横で、父親の智也は自立した二人の女性の会話に少したじろいでいた。
「美里がいなくなってから、ママは英会話教室を楽しんでいるみたいで。ずいぶん会話できるようになったみたいだよ。そのうち一人でニューヨークへ遊びに行けるんじゃないかな?」智也が微笑んだ。
「ママ、そうなの?じゃあ、私が手助けしなくても一人でちゃんとイミグレーション(移民局)とかも通過できるわよね。近い内においでよ。私の部屋、狭いけど、ママ一人ならエアーベッド使えば泊まれるって思う。」
「あらそう?じゃあ、この秋にパパが地方へ出張あるから、その時にママはニューヨークへ行こうかしら。」
「そうしよう!」
夕食を囲んで、美里の高校時代に冷え切っていた家族の関係とはまったく違った雰囲気で明るく、会話がはずむのだった。
日本での滞在を終え、再びニューヨークに戻った美里は、新たな決意を胸に抱いていた。彼女は、自分の会社を立ち上げるための準備を本格的に始めることにした。
「ジョン、私には夢があります。自分の人材派遣会社を立ち上げ、多くの人々に新しいチャンスを提供したいんです。そのために、今までの経験を活かしていきたいと思っています。」美里は、ジョンに自分の決意を打ち明けた。
「美里、その夢を実現するためには、まだ多くのことを学ばなければならない。でも、君ならきっとできる。全力で応援するよ。」ジョンは、美里の夢を応援すると約束した。
美里は、まず自分のビジネスプランを練り直し、必要な資金を集めるための方法を模索し始めた。彼女は、さまざまな投資家や企業とのネットワークを活用し、自分のビジョンを共有することに力を注いだ。
「吉永さん、あなたのアイデアは非常に興味深いです。ぜひ、我々と一緒にビジネスを進めてみませんか?」ある日、投資家の一人が美里に提案してきた。
「ありがとうございます。ぜひ、ご協力をお願いしたいと思います。」美里は、その提案に感謝し、新たなパートナーシップを築くことを決意した。
そして、ついに美里は自分の人材派遣会社を立ち上げることに成功した。会社の名前は「ニューホライズン・リクルートメント」と名付け、新たな出発を意味していた。
「これからが本当の勝負だわ。でも、私ならきっとやれる。」美里は自分にそう言い聞かせ、全力で仕事に取り組んだ。
美里は、インターネットの力を最大限に活用することに決めた。会社のウェブサイトを立ち上げ、求人情報や候補者のデータベースをオンラインで管理するシステムを導入した。これにより、効率的に人材を発掘し、企業に提供することができるようになった。
「ウェブサイトのデザインをもっと直感的にして、ユーザーが使いやすいように工夫しよう。特に、検索機能を充実させることが大切だわ。」美里は、ウェブデザイナーと協力して、サイトの改善に取り組んだ。
美里の会社は、次第に多くの企業や求職者からの信頼を得るようになった。彼女の熱意と努力は、確実に成果を生み出していた。
「美里さん、あなたのおかげで素晴らしい仕事に就くことができました。本当に感謝しています。」ある求職者が、美里に感謝の言葉を伝えた。
「こちらこそ、ありがとうございます。あなたの成功が、私たちの喜びです。」美里は、その言葉に微笑みながら答えた。
美里の「ニューホライズン・リクルートメント」は、次第に多くの企業や求職者から信頼を得て、成功を収めた。しかし、美里のビジョンは更に広がりを見せていた。人材派遣業の経験とネットワークを活かし、ITネットワーク企業も並行して運営することを決意したのだ。
「私たちのクライアントは、優秀なITスキルを持つ人材を求めている。ならば、ITソリューションも提供しよう。」美里は、IT分野のエキスパートを招聘し、ITサービス部門を設立した。
新たな部門では、企業のネットワーク構築やセキュリティ対策、クラウドソリューションなど、多岐にわたるサービスを提供。美里は、IT技術の研修プログラムも導入し、自社の人材のスキルアップを図った。
「私たちは単なる人材派遣会社ではありません。ITインフラの構築から人材提供まで、トータルサポートを提供します。」この新たなビジネスモデルは多くの企業に歓迎され、契約数は飛躍的に増加。
結果、美里の会社はITネットワーク企業としても成功を収め、業界での地位を確立した。こうして、彼女は人材派遣とITネットワークの両輪で企業を成長させ、新たな挑戦に立ち向かい続けた。
そんなある日、美里はニューヨークの書店で偶然にもユリアと出会ったのだった。
仕事ばかりで乾ききっていた美里に恋心という息吹を与えたのは、ユリアの容姿の美しさばかりではなく、その凛とした肉体美にもあった。
美里とユリアは、再会を機に親交を深めていった。ユリアは現在、ニューヨークでバレリーナとして活躍しており、美里のビジネスにも興味を持っていた。
「美里さん、あなたの会社の成功を聞いて、本当に嬉しいです。私も何か力になれればと思っています。」ユリアは、美里に協力を申し出たのだった。
「ありがとう、ユリアさん。あなたの舞台での経験や知識は、きっと私たちにとって大きな助けになるわ。」美里は、その提案に新たなるビジネスのチャンスを見出すのだった。