世界の半分は空でできている
秋の兆しのような高い空があった。
雲がゆっくりと動いていた。
それに見とれていた瞬間が、今日一日の中で、一番幸福な時間だった。
うちの近くは高層ビルがないので、都心に比べると空がかなり広い。
世界の半分が空でできているということが実感できる。
空を眺めていると、この世で最も美しいものは空なのだとつくづく思う。
この世で最も美しいものが、世界の、人生の半分なのだ。
そのことに気が付けるだけで、少しだけすっきりした気分になる。
プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」の第1幕で、ミミは「雪解けの季節に最初に上ってくる太陽は私のもの」であり「4月の最初のくちづけは私のもの」と歌っている。
どんなに貧しい生活をしていても、この世で最も美しいものを私は手にしている――この感覚こそが、詩なのだと思う。
ロドルフォとミミが熱狂的に共感しあい、恋に落ちるのは、この点――世界を驚きに満ちた目で見ることができるかどうか――において、同じ種族の人間であることを、一瞬のうちに了解したからに違いない。
詩は体験するものであると同時に、人と人をつなぐこともできる。