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【独自取材】レナード・バーンスタインの長女ジェイミーへのインタヴュー~スピルバーグ監督の新作映画「ウエスト・サイド・ストーリー」について

スピルバーグ監督による新作映画「ウエスト・サイド・ストーリー」試写会を観てすぐに、私は独自ルートを通して、レナード・バーンスタインの長女ジェイミーにメール・インタヴューをおこないました。その返答から抜粋してご紹介します。(写真はユニバーサルミュージックから出ているグスターボ・トゥダメル指揮によるオリジナルサントラ盤より)

――スピルバーグ監督とは、今回の映画に関して、どんなやりとりがありましたか? もしあれば、できるだけ詳しくお教えください。

ジェイミー・バーンスタイン(以下JB):表向きは、バーンスタイン・オフィスそしてバーンスタイン・ファミリーとしては、スピルバーグ氏の今回の映画には音楽に関してのみ関わりました。スピルバーグ氏と彼のチームは労を惜しまず、気遣いに溢れ、我々の提案や見解をすべて丁寧に聞いて下さいました。彼はスコアに対して最善の注意を払うことに尽力を注いでくれ、結果は大変素晴らしいものとなりました。デヴィッド・ニューマン氏とグスターボ・ドゥダメル氏の両指揮者、そしてニューヨーク・フィルハーモニックとロサンジェルス・フィルハーモニックによる演奏とあらば、父の音楽にこれ以上の布陣を求めることはできないでしょう! さらに加えて、喜ばしいことに、スピルバーグ氏は我々三兄弟にも大変優しくして下さいました。堅苦しくなく、愛情深く、ジョーク交じりに「僕のことをスティーブンおじさんと呼んでね」と話して下さいました。

――今回の映画は、血と暴力の描写が強烈です。どうお考えですか?

JB:確かに、今回の映画は前回に比べてもっと気骨があり現実的だと思います。大変パワフルだと感じました。

――もうひとつの新しい特徴は、英語とスペイン語の対立がより鮮明に描かれていることです。戦争とは暴力だけの問題ではなく、一つの言語が別の言語を制圧しようとすることだと感じられました。これについてのご意見は?

JB:それは興味深い観察ですね。言語がアイデンティティの表現だというのはその通りだと思いますーそういう意味で、映画内で英語とスペイン語という言語も戦争を起こしている、というのは頷けます。トニー・クシュナー氏による見事な脚本に、言語と言語の衝突が巧みに描かれています。

――スティーブン・ソンドハイムはこの映画の試写を観て絶賛したと伝えられますが、それから間もなく亡くなりました。この映画をめぐってソンドハイムとは何かやりとりはあったのですか? 何か彼との思い出があればお教えください。

JB:スティーブン・ソンドハイム氏は父の敬愛する友人そして同僚だったのみならず、我々家族全員ととても近しい存在でした。彼が亡くなってしまい、我々皆本当に打ちのめされました ー ニューヨークでの映画のプレミア試写会の数日前に亡くなったことも追い打ちをかけました。
昨年4月に彼はプライベートの試写会でこの映画を観ており、絶賛していました。彼は、聴衆と一緒にこの映画を観られる日が待ちきれない、とスピルバーグ氏に話していました。でも、その機会は訪れなかったのです。

――半世紀以上前に作られたにもかかわらず、このミュージカルは全く古びていないどころか、今回の映画を通して、現代の観客にとって、ますます切実に訴えかけてくると感じました。アメリカだけでなく世界中で、人々の間の分断は広がり、憎しみと暴力は衰えを知りません。もしお父様が生きておられたら、この映画を観て何と言ったと思いますか。また、コロナ禍で混乱し、分断が広がる世界について、どんなメッセージを発したと思いますか。

JB:ウエスト・サイド・ストーリーに描かれているテーマが今も緊急性を失っていないことは、残念ながら真実です。愛が憎しみを突破することへの葛藤、“他人”への恐怖、人種差別、移民問題など‥これらの問題はどれも現代において全く即時性を失っていないどころか、この作品が生み出された時よりもはるかに緊急性を伴って訴えかけているように感じます。
父は、この作品がまだそのような切迫感を持ち続けていることを嬉しく思うでしょう ー しかしながら同時に、我々が今も同じ問題に巻き込まれていることを悲しむでしょう。
レナード・バーンスタインは生涯サイエンスに大変関心を寄せていました。医学を志す者、そして科学研究者を心から尊敬していました。今の傾向として、コロナを根絶させるのに助けとなると思われる科学的な前進を無視したり、中傷したり、嘘をついたりすることに、彼だったら震えあがることでしょう。
世界市民の一員として、集団として我々全員、そして愛する者達を守ろうとするのは当然のことでしょう。もちろん、そうすることで、我々は自身のコミュニティーを、ひいては世界中のコミュニティーを守ることができるのです。

※追記1
この記事が、映画「ウエスト・サイド・ストーリー」を通して観た人、これから観る人にとって、少しでもバーンスタインの音楽の理解の助けとなれば幸いです。なお、私の有料個人メルマガには、全文ノーカットで掲載しています。映画を観てのnoteへの感想はこちら
※追記2
今回の映画でのドゥダメル指揮による演奏は、1957年のオリジナル・ブロードウェイ・キャストによる録音とも、1961年のナタリー・ウッド主演の映画のときの演奏とも、1984年のバーンスタインがキリ・テ・カナワやホセ・カレーラスらオペラ歌手を使って録音したものとも、全く異なるテイストだと思いました。より生き生きとしてゴージャスな、輝かしい演奏で、サントラ盤も私は大いに楽しみました。

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