タイ🇹🇭 一秒のできごと、一生残るもの

タイのバンコクで電車に乗るために、自動改札機を通ろうとした、そのとき。

私のすぐ右横からヨーロッパ系の背の高いおじいさんが、私と同じレーンを通ろうと近づいてくるのが見えた。

どちらが先に行くか微妙な距離感。
急いで先に行こうか、ゆっくり歩き後に行くか。

タイに限らず、どこの国でも誰でも、あるあるのシチュエーションだろう。

私は一瞬迷った結果、歩く速度を落とした。

特に『譲った』という感覚は正直なく、
感覚的に前か後ろかを選んだだけのこと。

それに気付いたおじいさんは、ありがとうと言葉には出さないものの、左手でありがとうのポーズをして（私はそう受け取った）私の前に入り、その後私も同じレーンを通って改札の中へ入って行った。

よくある、ありふれた日常。

今目の前で起きたことを考えるまでもなく、改札の中に入るにあたり、電車専用のカードではなく、クレジットカードをタッチして改札の中に入れたことに興奮しており、非日常を感じていた。

タイの電車のホーム🚃

と、そのとき。

先ほどのおじいさんが私の前に戻ってきた。


？？？

何かわからないことでもあるのかな？

今の私は、肌は黒く、ヒゲが生えている。
数日前髪の毛をタイで切った。
そして、背中に大きく『THAILAND』とかかれた緑色のタイTシャツを着ている。

タイに染まった男🇹🇭

とうとうタイ人として、おじいさんからも認められたか。タイのことを聞かれるのだな。


そう思い、私は「May I help…」と言いかけた。
そのとき…


「Thank you」

と、おじいさんは一言。
くしゃっとした笑顔と一緒に。


おじいさんは、わざわざそれを言いに戻ってきてくれた。
改札機を通ってから、thank youまで、「ありがとうを言わなきゃな、よし言いに行こう」と考えなければ不自然な間であり、それは明確だった。


私も一言
「No worries」
とおじいさんに負けないくらいの笑顔で返した。
それは、心からの笑顔だった。


それは、当たり前のように言われる「Thank you」の何倍も嬉しかったから。


それは恐らく、おじいさんが本当にありがとうと感じてくれているからだと思ったから。
そしてそれをわざわざ伝えにきてくれた行為が嬉しかったから。
そこに価値を感じたのだと思う。
そして、その瞬間にそのおじいさんが一気に好きになったし、この人は絶対に良い人だと心が感じた。


おじいさんにとっては、たった1秒のできごとだったかもしれないけれど、
私にとっては、一生残り続けるものになった。