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パン業界の中で最も過酷で難易度の高い場所はどこか?

「どんな人がパン屋に向いているのか教えてください」

そんな声を頂くことがあるのですが、パン屋といってもその実態は様々です。

・全国的チェーン店
・一部地域で複数展開するチェーン店
・2〜3店舗展開している個人店や中小企業店
・一店舗のみの個人店や中小企業
・フランチャイズ店
など…

分類しようと思えば何種類にも分類出来てしまい、それぞれ向いている人材というのも微妙に変わってくるので、一概に「こんな人が向いています!」と断言することは出来ないのが事実です。

しかし、たった一つ断言出来ることがあります。

それは、
「パン業界未経験の会社が新規事業としてパン屋を経営しようとしているスタートアップ案件」
これはかなり難易度が高く過酷な道になるよってこと。

この手の求人を出している会社の多くは、パン作りの基本もロクに知らない経営者がほとんどです。

「自分も現場に入れるように修行はするけど、実際にお店を任せる店長人材も必要だから」
というスタンスでいるオーナーさんならまだ良いです。
高級食パン専門店のフランチャイズでも、この姿勢でやっていたオーナーさんの店は結構うまく行くケースが多かったように思えます。

しかし、多くのオーナーさんはパン生地に触れようともしない、売り場にも立とうとしないスタンスでパン屋を経営しようとしているのです。
現場に立つつもりが1ミリも無いのです。

当の本人は
「それでも俺は経営センスはあるんだから、経営に集中して現場はお前らに任せた方がうまくいくんだ」
と考えているわけですが、その経営経験はあくまで別業態での話であって、パン屋経営における経験はゼロなのです。

当然、どの作業にどれだけの人数が必要であるとか、作業効率を考慮したレシピ開発のコツであるとか、そういったパン屋独特の考え方は出来ません。

そのような会社に入社すると、あらゆる事態のしわ寄せが全て自分1人に押し寄せます。

例えば人員不足によるしわ寄せ。
特に、従業員を単なる人数合わせとしか考えていないオーナーさんの場合、
「とりあえず人数さえ揃えばうまくいくやろ」
という考えでスタートさせてしまいます。

十分な研修期間を設けずに無理やりスタートすることを強いられることもあるでしょう。
フランチャイズの場合でも、本部から「最低二週間」と指示があっても一週間しか研修させないオーナーさんもいます。

当然、そのしわ寄せはオーナーさんではなく自分に来ます。
現場に立たない(立てない)オーナーさんはしわ寄せの対処が出来ないからです。

もう一つの例を挙げると無茶振り。
特にフランチャイズでの参戦ではなく、オリジナルのベーカリーブランドを立ち上げようとするパン業界未経験オーナーさんにありがちなパターンだと思われます。

無茶振りには様々なケースがありますが、最も困るのが商品開発に口出しされることです。

経営者として適切な「評価」をしてくれるのであれば指針の擦り合わせが出来て助かるのですが、一番ダメなのが商品の再現方法に口出しされることです。

当然、パン作りの知識も技術も無いオーナーさんですから、頭の中に浮かんでいるイメージのパンをどのような手法で再現できるのか、その最適解を導くことは不可能です。

ですから、本来そのような立場であるなら「やり方」は任せて「イメージ共有」に多くの時間と力を注ぐべきなのです。

ですが、そこがわかってない人は多い。
というか、すでに別業態での経営を成功させているからなのか、天狗になって技術者を見下します。
故に、やり方を指定してしまう。

「そんなやり方でうまく行くわけないじゃん」
と思い丁重に進言しても、
「とりあえずやってみろよ」
の一点張り。
当然、時間と材料が無駄になるだけです。

更にとっても困るのが、パン屋は生地種類をなるべく少なくすべきであるという効率化の原則を全く理解していないケースです。

生地の種類が増えるほど仕込みの手間が増えるので、効率が悪くなります。
なので、生地のみで焼くパンをいくつか核にして、同一生地から様々な具材を用いてバリエーションを広げていくのがパン屋の常識です。

「この生地だから、成形はこうして具材はこの量にしよう」
と言った具合に、生地に合わせた調整をうまく行うのが商品開発の肝となってきます。

その辺の考え方を全く考慮せず、
「アレやって、コレもやれ」
と無理難題を押し付けてくると、大変困ってしまうのです。

このような様々な無茶振りを押し付けられた時に、上手いことオーナーさんの機嫌をとりながらも正しい方向へと導くことが出来る交渉能力があれば、パン業界未経験企業のスタートアップ案件でも上手く立ち回っていけるでしょう。

ですが、何度も言いますが別業態で既に成功されているオーナーさんなのでプライドが高く無駄に自信が大きい場合が多いでしょう。

「パン職人歴30年の大ベテランです」ぐらいの権威性があれば、オーナーさんもへりくだって前習えしてくれるでしょう。

そうでも無い限りは相当険しい環境になることは覚悟しておくべきです。

あとは、やはり“自分の得意”を上手く持ち込むことが重要です。
自分の自信作のレシピが既にいくつかあるなら、それを核に押し出してアピールすべきです。
それを最初からさせてもらえず、
「こんな感じのラインナップで考えてるから、全部作ってよ」
という雰囲気で来られたら、そもそもそのラインナップが魅力的かどうか、実現可能かどうか、その段階から精査して進言すべきです。

進言したところで
「でも作ってみないとわかんないじゃん、とりあえず俺の言う通り作れよ」
なんて雰囲気で来る可能性も十分あります。

だから、この手の案件は難易度MAXなのです。

パン作りに集中なんて出来ないでしょう。
いかに説得して言い負かすか、そんなくだらない所に頭を捻らないといけなくなります。

結論、パン作りと世渡りの両方に絶大な自信があるなら構いませんが、そうでないならこの手の案件は辞めといた方が身のためです!
これはパン業界に限らず、他の業態でも同じ事が言えるかもしれませんね。

そもそも、これからパン屋やりたいって人がパン生地に指一本触れようともしない時点で、
「お前ら、本当にパン屋やりたいの?」
って思いませんか?

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