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WACC(加重平均資本コスト)の計算

こんにちは。公認会計士としてM&A業界に約10年携わってきました。今回は、DCF法の割引率として使用されるWACCについて、具体的な計算方法や実際にどのような数値を拾って来ればよいかなど、実務で活用できる内容をお伝えします。
ただし、WACCの計算は、各算定機関のポリシーによって異なることも多く、あくまで一例としてご参考にしていただければと思います。

1. WACCとは

WACC(ワック)とは、Weighted Average Cost of Capitalの略で、加重平均資本コストと呼ばれます。

会社は負債(借入金等)による資金調達と、資本(株式の発行)による資金調達を行いますが、負債による資金調達コストを負債コスト、資本による資金調達を資本コストといいます。そして、負債コストと資本コストを加重平均したコストがWACCであり、その会社全体の資金調達コストとなります。

負債コストは、借入金や社債などの金利をイメージしやすいですが、資本コストは、配当金を除き直接株主に支払いが行われないため、具体的なコストがイメージしにくいと思います。しかし、株主は、その会社に対して(相対的に負債コストよりも大きな)リスクを取った上で投資を行っているため、そのリスク=株主の期待するリターンに応える必要があります。

2. WACCの計算式

WACC=負債比率[D/D+E] × 税引後負債コスト[rD × (1-T)] +  株主資本比率[E/D+E] × 株主資本コスト[rE]

・D=純有利子負債(実務上、余剰現預金を控除した純有利子負債が使われるケースと、余剰現預金を控除しない有利子負債の総額が使われるケースがあります)
・E=株式時価総額(注意点として、帳簿上の純資産額ではありません)

※負債コスト(借入金利等)については節税効果があるため、税引後で計算します。

以下では、実務上一般的に使用されているCAPMのモデルに基づく計算方法を説明します。

負債比率と株主資本比率については、現在の対象会社の資本構成が使われることもありますが、将来的には上場類似会社の資本構成に収束していくと考え、上場類似会社の比率を使うこともあります(実務上、対象会社の資本構成を使うと循環参照等の問題から計算が複雑化しやすいこともあり、私の経験上では、上場類似会社の資本構成を使うケースの方が多い印象です)。

3. 負債コストと資本コストの計算式

■ 負債コスト
以下の数値を使用することが一般的です。
・対象会社の現在の借入金利
・一定の格付け(BBBなど)を仮定し、その格付けの社債利回りを使用

■ 株主資本コスト
CAPMに基づき、以下の計算式で計算します。

リスクフリーレート + リレバードβ × エクイティリスクプレミアム + サイズリスクプレミアム

・リスクフリーレート:10年物日本国債利回りを使用することが一般的
・リレバードβ = アンレバードβ × (1+(1-T)×D/Eレシオ)
・アンレバードβ(有利子負債がゼロと仮定したβ):上場類似会社の中央値や平均値を使用する
計算式:アンレバードβ = レバードβ ÷ (1+(1-T)×D/Eレシオ)
・エクイティリスクプレミアム:ファームポリシーにより異なるが、6~7%程度が一般的(Ibbotsonのデータを使用する)
・サイズリスクプレミアム:対象会社の規模が小さいことによる追加的なリスクプレミアム。ファームによっては採用しないこともあるが、採用する場合は、時価総額100億円以下であれば3~3.5%程度が一般的(Ibbotsonのデータを使用する)

4. 最後に

近年では、コーポレートガバナンスが重視されるようになり、機関投資家やアクティビストから、WACCなどの目標とする資本コストの開示を求められるケースも増えています。
これまでは、潤沢な手元資金がありながら配当にもほとんど回さず、投資効率の悪い経営を行っている上場会社が多くありましたが、そのような会社に対する機関投資家の目線が厳しくなってきており、これまで以上にWACCの考え方が重視されるようになってきていると思われます。

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