利払費の高騰がほんとうに財政に影響を与えるのか?

 利払い費が低いに越したことはないが、日銀が日本経済の動向に鑑みて金利を上げるというのであるから、歳出予算において利払い費が増加するのも致し方あるまい。
 しかし、利払い費が増加するからといって、財政再建論者が主張するようにただちに増税しなければならない事態が生じるわけではない。

 ひとつに、政府の借金である国債の半分は日銀が保有しているという事実がある。歳出予算に占める利払い費の半分は日銀に支払われるのである。それが国庫納付金として政府に戻ってくるのであるから利払い費が増加したからといって不測の事態が生じるわけではない。
 もっとも、日銀は当座預金に付利をつけて金融機関に還元しているが、政府の財政が財政再建論者がいうほど深刻な状況なら、そんなばかげた制度をやめさせる方が先決だろう。

 
 二つ目に日本政府は世界最大の債権国であるという事実である。添付の記事ではこの債権の受取利息がそれほどあてにならないことをつらつらと書かれている。

土居が言いたいことはこの言説に集約される。

「金利が上がれば受取利息も増えるから財政は悪化しない」というのは間違いで、金利が上がった分、一般会計の利払い費が増え、税収が増えない限り、増えた分は政策経費を切り詰めないといけなくなる。

土居丈朗 東洋経済オンライン2025.2.25

 土居は、日本政府が有する有価証券の大半は米国債であり、日本国債の金利が上昇しても無関係の受取利息であり、受取利息は増えないと主張する。
しかし、両国間において国債の金利は、日本が0.5%に対し、米国は4.25~4.5%を推移している。しかもいったんインフレが終息したかに見える米国はインフレの再加速を警戒している状況だ。9倍近くの差がある金利を比較して受取利息が増えないと嘆いて意味がない。
 対GDP政府純利払い費率の国際比較をすると日本はG7の中で2番目に財政状況が良好なのだ。財政再建論者はなぜかこのことに触れないまま、債務残高のみを声高に主張する。債権残高については過小に評価する。
 しかし、日本の官僚や学者の政治的意図に全く無関心の海外投資家は、純粋に日本の財務状況を国際比較してクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の数値は低い。この現状をどうとらえるのか。しかし、なぜか財政再建論者はこのことについても言及しない。

 三つめは、金利上昇局面とは本来どういった局面かということだ。日銀はコストプッシュインフレでも金利を上昇する稀有な中央銀行だけれども、一般的に金利上昇局面とは過熱した景気を抑制させる局面である。金利を上げるには前提として過熱した景気の存在が必要である。景気が過熱している状況であれば当然物価も上昇するだろうし、国民の所得も増えているだろうから税金は自然と増えることになる。現に、コストプッシュインフレのなかでさえ、消費税のおかけで税収は過去3年間、最高税収記録を更新してきた。

しかし、土居は

そういえば、2010年代に消費増税の是非が問われていたころ、「景気をよくすれば、増税をせずとも税収が増えて、それで財政赤字も減らせるから増税は必要ない」という言説があった。今となってはどうだろうか。
2019年10月に消費税の標準税率を10%に上げて以降、大きな増税はせずとも税収は増えている。しかし、物価高の生活苦を緩和すべく減税や給付が大規模に行われている。そして、内閣府の中長期試算では、2025年度のプライマリーバランスの黒字化は達成できないという結果が示されている。
結局、「増税せずとも税収が増えて、それで財政赤字も減らせる」という言説は、空手形に堕している。この言説が、いかに場当たり的だったか。

土居丈朗 東洋経済オンライン2025.2.25

と主張する。
 しかし、これは論理が逆転しているだろう。
 増税しなければ景気が回復していた局面で、消費税を2倍の増税にして日本経済の景気回復を腰折れさせ、GDPや国民所得を低水準のまま推移させてしまい、コロナ禍やウクライナ戦争、内外の金利差によって物価高の中国民生活を苦しいものにして、結果的に財政出動しなければならない事態に陥っているのである。しかも泥縄の小出しだから実効性に乏しい。
 もはや「たられば」の話をしてもしょうがないが財政再建論者の主張を受け入れて消費増税を繰り返してきたのが現実であって、財政再建論者の反対を押し切って財政拡大をしてきた事実はない。むしろ政府支出を抑制した結果、景気を回復させることができないまま、拡大する社会保障費を賄うことができずむしろ財政状況を悪化させているの現実だろう。
 
 こういった状況を招いた原因の一つは土居を代表とする財政再建論者の誤った現状認識に基づく主張が政策に反映されてきたことによるところが大きいと言わざるを得ない。

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