財政健全化の是非(2)


#日経COMEMO #NIKKEI

GDP比で200%を超える巨額の政府債務残高を抱えた国が、引き続き拡張的な財政運営をする場合、本来であれば国債金利が急騰し、政府に財政運営の修正を迫るはずだ。例えば英国の場合、政府債務残高は100%程度と日本の半分ほどでしかなかったが、22年秋にトラス元首相が財源なき減税策を打ち出すと金利が急騰して英国債やポンド、株価が急落する「トラス・ショック」が起きた。

 この文章だけを読めば、GDP比200%以上の政府債務残高を抱える日本の財政は、英国と同じように「金利が急騰して国債や円、株価が急落」しそうなものだが、日本では起きていない。その理由を指摘しないまま、巨額の政府債務残高を抱えた国が拡張的財政運営をすれば、国債金利が急騰し財政運営の修正を迫るはずだと主張するのはミスリードにほかならない。
 対外純資産/GDPや政府債務対外債務比率で比較してみれば、英国に比べ日本の財政は健全である。だから金利も急騰せず国債や株価の急落もなかった。その点を指摘しないまま、いたずらに政府債務残高/GDPを指標として財政健全化を主張するのはあさはかである。本当に財政危機を論じるならば、より正確に財政の持続可能性を判断できる、対外純資産/GDPや政府債務対外債務の指標も示すべきだが、そうするつもりはないらしい。

 

民主主義には、赤字財政へのバイアス(ゆがみ)が存在する。均衡予算と比較すると、赤字財政はより低い税負担とより高い歳出の組み合わせが可能になるので、支持基盤を拡大できる。また議院内閣制のもとでは多数派の与党により内閣が組織されるため、政府と与党が予算編成権を独占し、過剰な歳出や赤字財政への依存に対するチェック機能が納税者の代表であるはずの国会に働かなくなる。

  もはや財政民主主義を否定する論調だが、政治家はバカで官僚や学者は賢いというのはいったい誰が判断するのだろう。愚民思想が透けてみえるのは気のせいだろうか。政治家が有権者に阿るオポチュニストみたいなステレオタイプの批判はやめるべきだ。政治家には政治家なりのそうすべき理由がある。

本来、財政赤字が許容されなければ、税収に合わせて歳出が削減される。だが日本の場合、特例公債法の制定で財政法4条の形骸化が常態化し、さらに日銀の国債購入と国債金利を低く抑える金融抑圧により、赤字国債の大量発行を可能にする仕組みが構築された。

 「本来、財政赤字が許容されなければ、税収に合わせて歳出が削減される。」

   これ自体は、自明の真理ではなく、敗戦後そのような立場に立ってきたということでしかない。憲法9条とともに、財政法4条は、日本の再軍備化を防ぐために日本の財政に課した縛りでしかない。日本経済の現状を顧みることなく、財政法4条の縛りを金科玉条のごとく守り続けるのは、国内外の状況が変化しても憲法9条をいつまでも守り続ける論理と何ら異なることはないと思う。

財政健全化を後戻りさせずに前進させて均衡予算主義を定着させるには、歳出に応じて歳入を増やして財政の収支尻をあわせるのではなく、歳出を削減し、歳入増の状況でも歯止めをかけることで経済への負担を軽減することが必要だ。

 この緊縮財政が日本経済にあたえる影響については何も考えが廻らないようだ。財政再建すれば日本経済は成長するというトンデモ論も存在するぐらいだから、緊縮財政によっても日本経済はなんら影響を受けないと考えているらしい。しかし、緊縮財政は日本経済にマイナスの影響を与えるのは確実だ。日本経済に打撃を与えることが明らかなのに緊縮財政を唱えるのは愚かというほかない。

併せて金融政策も、異次元緩和の負の遺産を清算して国債市場に市場規律を取り戻すことで、財政健全化を後戻りさせない市場環境を整備し、慢性的な国債発行を防止するのも重要だ。

 これは典型的なデフレ政策だろう。コストプッシュインフレですぎない日本経済に対してデフレ政策をとれば、さらなる経済成長の低迷を招くことになる。総じて経済を停滞させても財政再建が大事という主張にしか読めず、何のために財政再建するのか意図が不明である。財政再建する前に日本経済は破綻して国民生活は困窮することになるだろう。

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